うちのチャーハンソース味

うちの家の食事は日頃、一言で言えば「通夜のよう」だった。

食事中、家族の誰も頑なに話をしない。

短時間で食事をとることにいつも必死だった。


けど、唯一時間をかけ話までしてしまう夕飯メニューがある。

ホットプレートで作る「ソースチャーハン」の時だ。


その開催日はなぜか金曜か土曜の夜が多かった。

テレビの高視聴率バラエティ番組が独壇場食卓を盛り上げていた。

ハイテンションな番組進行を横目に見ながら、

目の前の古た小振りのホットプレートを前に、

いつもと違う食へのスイッチがバズンと入っていく。


母親が亡くなった後の兄との鉄板ディナーは、

昔から家にあった超旧式、

お好み焼きが一枚焼ける程度のスモールサイズ。

電気コードが黒い布に巻かれたようなヤツですぐ熱を持つ。

毎回ここから火がついて火事にならないかヒヤヒヤしていた。


そんなホットプレートに、

常に育ち盛りの兄とお好み焼き2枚、

その後余った麺で焼きそばを作る。

ここは広島人、お好み焼きなどはヘラのみで食べ尽くすため、

食事中は鉄板やお皿にあたるカチカチ音だけが妙にうるさい。


ここまではいつも通り会話はない。

しかし、徐々にポツポツとやりとりが始まる。


「お前、まだ食えるか?」

「うーん、ちょっとなら大丈夫じゃけど...」

「やっぱり最後はチャーハンじゃけぇ」


前日の残り冷や飯を冷蔵庫から出してくる。

そろそろメインイベントの「ソースチャーハン」を作る時間だ。


お好み焼き〜焼きそば〜と続いて、

なぜこのイベントのトリがチャーハンだったのかはわからない。


でもチャーハンはこの鉄板ナイトには不可欠で、

それを食べきれるだけの空腹はどうにか残しておかないといけない。

ソースチャーハンはそれだけ絶対的メニューだった。


日頃家事手伝いなど一切しやしない兄が、

陶器から冷やご飯を取り出し、

ラードで艶ピカな鉄板上にそれを落とし、

ヘラで均等にほぐし広げて行く。

パラつき始めたご飯粒たちに一度軽く塩コショー。

サイドでは既に刻まれた野菜と肉がホカホカになって待機。


「ご飯はカリッカリが美味いけぇの」


どこかでバイトでもしてたんじゃないのか?と思うほど、

屋台のおじさんよろしくで二枚ヘラを巧みに駆使して、

ご飯と野菜、肉をどんどんざんざん混ぜていく姿は、

年々サマになっていった兄。


「腹一杯なんじゃがのう〜やっぱり最後はこれ食べんとのぉ〜」


再度鉄板に満遍なく塩コショーをふりかけながら、

なんだかニヤけつつも汗ばみながら兄は作っている。


ヘラで混ぜては平らにして〜を三度ほど。

あの冷や飯が美味そうなパラパラチャーハンに仕上がった。


いつも思う。

もういいじゃん、塩コショーのまんまで食べようよ...。

そこでやめておけば無難に「チャーハン」なのだが...。


「やっぱりソースかけにゃーのぉー」と、

ウスターソースをシャシャー!っと投じる訳で。


もはや中華料理店で食べるチャーハンでもなんでもない、

この味に至っては「焼き飯」と言うんじゃ無いの?と思ったりもするのだが。

邪道かもしれない、いや、世間じゃきっと邪道だよ。

けど、きっとこれが我が家の「特製チャーハン」なのだ、...多分。


「はいーそろそろ食べてよしー」

何故兄がこのメニューだけ仕切っていたのか今考えても謎だが、

アチアチハフハフしながらヘラで二人ズンズン食べ尽くして行く。

ここからは当然のようにまたお互い無言。


美味しいんですよ、ちょっと焦げ付いたところとか。

兄貴の味付ける塩コショー加減ときたら、

毎回かけ過ぎだろ!とは思ったけれど、

でもあの味は、

大人の階段登ってく味だな...と妙に感じてたこと、

実際大人になって屋台でお酒飲んだりするようになって、

あ、あのソース味チャーハンがシメにぴったりだなって、

そう思い出したりすることも多かった。


私はヘラで食すこの熱いイベントに慣らされたせいか、

以後、熱いものは火傷してでも熱いうちに食すことをモットーにしている。

鉄板で跳ねるソースチャーハンを見てるとそうしたくなる。

もううちのチャーハン最強!


そんな訳で、誰にも言ったことは無いですが、

チャーハンというものは、

塩コショーのメッチャ効いたちょっと香ばしいソース味が好きです。


その後大人になって、

相当美味しいチャーハンがこの世にあることをあちこちで知っていきますが、

思い出込みのソースチャーハンはやはり別格です。


是非皆さんもホットプレートパーティーの際は、

シメでソースチャーハン、作ってみてください。

味に期待してない人の方が多いでしょうが、

先にいろんなものを食べちゃって、

結構満たしてしまった自分のお腹具合を後悔することの無きよう。

最後のソースチャーハンのために別腹とっておいてくださいね。



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