三月六日は啓蟄 // 新藤涼子 遅い

新藤涼子 遅い

あの帽子は
わたしがころんだすきに
波にのまれてしまったのです
ひろってください
帽子は波にのってただよっています
ほら
すぐ手のとどくところに
あなたが一生懸命
手をのばしたのはわかっています
今日は 海の水がおこっている日
あなたをさえ 波がのみこもうとしている
けど おそれずに
あの帽子をひろってください

わたしが願ったのは
帽子をとりもどすこと
ではなかったけれども ¥

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新藤涼子の詩集から(一部を) 


車谷長吉さんが 

赤目四十八瀧心中未遂の文庫の48ページに

引用している 



井上靖の『孔子』と 

種田山頭火句集 

赤目四十八瀧心中未遂


の三冊は 

いつも鞄に入っていて 


ボロボロになっている



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人生を考える

この三冊が

真っ先に出てくる




三月六日は啓蟄