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地方演劇を真面目に考える会 その13 【地方演劇を考える会を終えて】

概要

2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。

感謝とお礼

まずは、会に参加していただけた皆様、アンケートにご協力いただけた皆様、ご覧いただいた皆様に感謝を。ありがとうございました。
 専門的に演劇研究や地域文化の研究などをしている方からすれば全然かもしれません。自分の文章が間違った認識に基づいている可能性もあるので、書くのが嫌になることが多く。実際、イベントが終わってから、せっかく協力してもらったデータをこれで終わらせるのはもったいないので、なにかを書かないとなと思いながら2年もかかってしまいました。全くデータを有効に活用できた気がしません。もっとこういうデータが欲しいとか、ここは間違っているんじゃないか? これはどういう意味なの?などご意見・感想などありましたら、ここのコメントでも別の所でも連絡いただけたらと思います。

非大都市圏の演劇について知りたかったのです。

 個人的に色々地方演劇について調べていました。興味があるというか、このノートの一つ目にも書きましたが、自分が地方演劇だという自信が持てず、徐々に自分がやっている演劇が、「都会でやっている演劇に似ている演劇的なナニカ」じゃないのか?という気がしてきたからです。演劇の専門書やいろんな情報を探して勉強して、作品を作ってきていてどうしても、「なにかこれじゃない」感がどこかにあり、自分がやろうとしているこの場所の演劇としっくりこない感が常につきとまっていました。そしてある時、演劇の年鑑的な物に、地方演劇という欄を見つけて読んでみたら、東京以外の大阪や福岡など大都市圏のことばかりで、非大都市圏の演劇については一切触れられていませんでした。また、地域演劇という情報を見つけても、やはり東京以外の大都市圏について議論されていて、非大都市圏などまるでないかのような扱い。そして、ふと気づくとこの「非大都市圏で行われている演劇」を指す名称すらない事でした。
 たまに非大都市圏での演劇について特集する記事を見ても、ほとんどが、地方に移住して、大都市圏の演劇を地方の人に教えてあげてるよ的な記事。これでもいいっちゃいいのですが、本当の地方独自の演劇文化史についての資料が出てこない。これはもう自分でやるしか知る方法がないのではないかという考えに至りました。

しかし、めんどくさい。というか、自分がやるもんじゃない。そういう勉強をしていないし専門家でもない。誰かやるんじゃないか? そもそもそんな事考えるより自分の劇団の事考えたほうがいいじゃない? というのがずっと続いていましたが、どこか頭の片隅には、ずっと怨念のように、「なぜ情報が扱われないのか?」というものは残っていました。(関西演劇祭が始まって、京阪神の劇団ばかりなのに、怒っていたのも結構大きかったかも?)
 そんな中、コロナ禍が始まって、なにかやりたいが、人が集まれない。じゃあ何をするかという事で、別の内容のトークライブ的な事を始めたのですが、その一つとして、この話題を取り上げてやってみようかなと思いました。色々協力してくれる専門家を探したり、団体を探してみたのですが、いきなりこんな訳のわからんやつが連絡しても、返事も来ず、途方に暮れており、どうしてものかと思ったのですが、もうこうなりゃ気合いだと、間違っても知らねえ!と全部自分でできる事を調べて、地方劇団全部に連絡取ってやろうとやってみることにしました。
なので、アンケートを読み返してみたら、重複する内容が多かったり、質問が分かりにくかったりと、反省する事が多くて恥ずかしくて仕方がありません。トークライブの動画も、自分が進行をする能力のなさに絶望したものです。

非大都市圏の演劇とは何だったのか?

 アンケートを通して、トークライブを終えて、いろいろな状況があり、一つに地方演劇といってもひとくくりにしづらく、これが地域演劇だともいいづらい。そもそも、これを書く上で、自分が思う、非大都市圏の演劇を指す名称がないのが死ぬほどめんどくさかったです。
せめて、名前ぐらい欲しいなと思いますが、それほど興味を持たれていないということなのかもしれません。ただ、なんとなく傾向はあると思います。

大都市圏の演劇に近いが、
郊外型劇団……拠点を近隣の都市に移しているもの。アトリエや稽古場が安いのでそのメリットを追求して場所を郊外に移している場合が多い。
移住型劇団……大都市圏の演劇に近いが、拠点を非大都市圏に移しているが、郊外型よりより、大都市より離れており、拠点で作った作品を全国ツアーのような形で持っていく形が多い。

大都市圏の演劇と地域の劇団の中間的な立場なのが、
プロ志向劇団東京進出型……地域で発生したが、大都市型の演劇を志向して、ゆくゆくは東京への進出を目指している。
プロ志向劇団地域密着型……地域で発生したが、大都市型の演劇を志向していて、地域の演劇文化を底上げして、大都市圏の演劇を浸透させようというのを目指している。

地域の劇団として近いのが、
地域密着劇団地域発生型……地域で発生した劇団で、地域の歴史を継承しているパターン。
地域密着劇団ガラパゴス型……学生演劇や市民劇団などから発生して、大都市圏の演劇の影響を受けずに独自進化したパターン。
地域密着型大I・Uターン特化型……大都市圏の影響を受けて発生したが、地域の文化に特化しているパターンに分けられる。

もちろん、ざっくりとしていてここに当てはまらない劇団もあるとは思います。大都会型劇団と、地域密着型劇団では、志向も演劇感もかなり違いがあるので、これを一緒くたにとらえてしまうと、わけがわからなくなってしまうなと思います。そして、地域の劇団とは何か?と言われると、正直分からないという事が本音です。地域の演劇史は、大都市圏の演劇文化にかなり影響を受けて、地域独自の演劇史とまざりあって、なにが地域の演劇か分からなくなってしまうことが多いからというものもありますし、個人の活動や、ある一つの集団の演劇史に影響をされてしまって、なにが地域性なのかがわかりづらくなってしまうという感じです。
 結局、そんなことを気にせずに、自分の好きなことを好きなようにやればいいじゃないかという事も思いましたが、逆に、各地域の演劇の歴史は、資料も残らずに、消えてしまっているのではないかという思いも芽生えました。日本の近代演劇は始まってまだ100年ちょっと、非大都市圏となるとさらに遅れて、書生芝居やら、旧来の田舎歌舞伎なんかとごっちゃに混じって、独自の文化が各地域に生まれてまだ100年もたってないのでしょう。その文化的価値が発見されていないのかもしれません。演劇は公演が終われば何も残らず、劇団も消えてしまうと資料も散逸し、時間が立てば記憶も薄れて行ってしまう。かなり頑張って地域の演劇を調べてみましたが、自分の地域ではほとんど残っておりませんでした。これは悲しい事だと思います。
もちろん、残っている所もあるとは思いますが、ほとんどの地域では断絶し、消滅していってるのではないでしょうか。おそらく現代は、高齢の方が子供のころに経験した、街の芝居小屋の経験が、徐々に失われていっている瀬戸際にあるのだと思います。地域の演劇をまとめるのはとてつもなく労力のいる作業だと思います。じゃあ、お前がやればいいじゃないかと言われても、正直やれません。これが現実なんだということだけです。だって演劇がやりたいんです。

最期に

今回のトークライブやアンケートを通していて、一番心に残ったのは、人のつながりを大事にするという部分です。もちろん、当然のことで、人が集まって行う演劇では、人とのかかわりが避けられない。そして、地域に密着するという事は、そこに住む人たちと交流する事でもある。現実的な事を言うと、金銭面でも、行政の文化事業を担っていきたいのなら、その実権を握っている人とうまく付き合っていかないといけない。けど、それは演劇に限った話ではなく、社会で生きていくのなら重要なスキルでしょう。
ただ、自分は、そこで「ヒトのつながりが大事だ」で話を終えたくはないと思いました。現状、自分がそこの部分で苦労をしているし、一番ダメな部分でもあるという認識もあります。もちろん、人とのつながりも大事だというのものわかる。だけど、苦手だからこそ、それがうまくできない人間の辛さも十分理解できるのです。そして、そういう人にこそ、地域において演劇は重要な文化ではないだろうかと感じています。
人づきあいがうまくない人間だって、演劇をやっていいのです。ただ、人づきあいで上手くない人間に、頑張れと言うのは、ただ辛さが増すだけ。そこに、そのままでいい。そして、それをどうやって生きて行けば、楽しく生きて行けるのか?を見つけるのも、演劇の力ではないでしょうか。正直、今回の取り組みでは、そこに強く問題意識を持ちましたが、残念ながら、まだその答えは出ていません。

最期にもう一つだけ。自分の誤認識でしょうし、すべての地域がそうだとは思ってませんが、そうじゃないかという不満が一つあります。
大都市圏の人間が非大都市圏の情報に興味がないのはしょうがないと思います。知ろうとするきっかけも方法もないので。ですが、その地域の人間が、地域の情報に興味がないのはどうなんだろう? そもそも、おのずから卑下するのはどうなんだろうと思います。
各々が、自地域の文化至上主義を名乗って、もっと戦国時代みたいになれば面白いのにな!と思います。江戸や大阪なんてちっこいちっこい地域、日本からすれば小さな地域です。日本全国がもりあがれば、かないっこいない。そもそも、日本がちっこいちっこい島国なんです。まだ、大都市圏で演劇やってんの? そんな時代が来たら愉快ですね!

おわりません!! 知った後は、それについて考えて行こうと思います。
番外編その1はコチラ

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきぼう)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

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