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地方演劇を真面目に考える会 番外編1 【演劇環境を良くしたい!! まずは観客について考える編】

概要

2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。

演劇環境を良くしたい!!

前回でアンケートの内容が終わったのですが、せっかくなのでもう少し続けようと思います。そもそもアンケートは知りたいで始めたのですが、知ってるだけではもったいない。これを踏まえて、演劇環境を良くする方法を考えなければ無用の長物。
とはいえ、前回までに書いていますが、自分は専門的に文化論を勉強もしていないし、そういう学術的な物は素人です。おそらく大分間違って考えていくと思います。もし、それは違うんじゃない?という事があれば、遠慮なくコメントを下さい。

演劇環境とは何か?

まず、そもそも演劇環境を良くしたいという前に、そもそもそれってなんなの?という事をきちんと整理しておきたいと思います。
まず、なんとなく思いつくのが、
直接的な要因
・観客数
・劇団数
・劇団同士のつながり
・役者数
・舞台スタッフの数
・劇場数
・劇場の使いやすさ
・稽古場環境
・支援体制
・地域の演劇史
後、これは直接関係なさそうだけど、いい方がいいよなあと思うもの。
間接的な要因
・学生演劇(高校・大学等)の状況
・演劇以外の文化状況(特に音楽・ダンス・自主映画)
・メディアの強さ
・役者としての仕事
・大学数
・地域の経済状況
まだまだあるかもしれませんが、思いついたら追記していきます。

地域の演劇環境と観客数との関係性

とりあえず、一番重要そうな観客数が演劇環境にどういう意味合いがあるのか確認してみようと思います。とりあえず思いつく限り書いてみて、後で再確認してみます。
観客が多いメリット
・興行収入が増える。
・人気が出る、話題になる。
・モチベーションが上がる
・出演者、入団希望者が増える。
・実績が増える。

観客が多いデメリット
・上演する内容に影響が出る
・公演予算が高くなる。(劇場代や宣伝費等)
・制作作業の負担が増える。
とりあえずざっと思いつくのはこんなもんでした。

まあ、こんなところでしょうか。メリットの方が多いような気がします。続いて、要素一つ一つを検証してみます。

観客数 メリット

1 興行収入
 間違いなく増えればその分、興行収入は増えます。価格設定にもよりますが、減ることはないでしょう。そして、観客数が多ければ、公演予算も大きくしやすくなります。そして一番大きいのは、黒字になれば、劇団の負担が少なくなり、収益を上げることができます。そうすれば、劇団自体の運営がとてもしやすくなります。これはすごいメリットです。
2 人気が出る。話題になる。
 観客数は人気のバロメーターになりやすいです。やはり面白ければ次の公演も見てみようとなりますし、またそれが拡散されてさらに観客が増えるという、とてもいい循環が生まれやすくなります。またそれによって話題になり、メディアの露出が増えたり、他の仕事が来たりしやすくなります。
3 モチベーションが上がる
 観客数が増えれば、公演をする側もやる気があがります。やはり頑張って作品を作るのですから、多くの人に見てもらえると嬉しいです。
4 出演者、入団希望者が増える。
 観客数と直接の因果関係は難しい所ですが、観客数が増えれば、出演してみたい、この劇団に入りたいと思う人が出てくる可能性が高くなるのは間違いないと思います。これはかなりのアドバンテージです。
5 実績が増える。
 観客数はわかりやすい劇団のアピールポイントになります。〇千人動員!とうたい文句にすれば、人気があるアピールにもなりますし、それ以外にも、何らかの支援を受ける時の信頼の一つともなります。

観客数 デメリット

1 上演する内容に影響が出る
観客数が増えると、その観客に対して「受ける」作品を提供する義務感みたいなものが生まれてきます。作風がきまっている所であっても、それを期待するお客さんが増えてしまうので、他の作風の作品を上演しづらくなる可能性があります。ただ、番外公演や試演会等で新たな作風の開拓と、新規の観客の獲得という方法もとれると思います。
2 公演予算が高くなる。(劇場代や宣伝費等)
観客数が増えることによって、大きな劇場を借りて、キャパシティーを上げる、もしくは上演日を増やして、公演回数を増やすなどをしなければならず、必然的に劇場代は増えます。また、スタッフ代や機材代・美術費なども相対的に高くなっていきます。そして、宣伝費も上がるでしょう。興行収入があがっても、予算が増えて、あまり利益が増えない可能性もあり、また、そのバランスをとるのが非常に難しくなってしまいます。これはかなりのデメリットかなと思います。
3 制作作業の負担が増える。
 
観客数が増えると制作作業は間違いなく大変になります。少人数で対応できず、何百人規模になってくると、それなりの制作人数を確保しなければならなくなってきます。特に票券管理は失敗すれば、劇団存続の危機にまで陥りかねない事なので、観客数が増えるという事はこの難しさが高くなるという意味でもあります。
また、大規模になってくれば、制作系統の専門業者を入れるという方法もありますが、確かに主催側は楽になりますが、その人たちと打ち合わせができる程度の専門性は必要とされます。楽になる分、その勉強が必要になってきます。

観客数を増やす方法・維持する方法・減らさない方法

観客を増やす方法
観客が増える要因は様々ですが、
・面白い作品を作る。
・宣伝を頑張る。
・年間公演数を増やす
・出演者を増やす
・チケット代を安く設定する
・人気のある役者を起用する。
・話題性のある作品を選ぶ
・観客が来やすい時期・日時・曜日を設定する。
・交通の便が良い場所を選ぶ
・観劇人口の多い場所で上演する

観客を維持する方法
一度来てもらった人に継続的に来てもらうというのも増加には必須の条件だと思います
・リピーター割引などを導入する
・ファンクラブなどを設立する。
・SNSやHPなどで、継続的に情報をリリースする
・年間公演数を増やす

観客が減る要因
減らさない方法については、逆に減る要因を考えるほうが良さそうなので、観客数が減る要因を考えて行こうと思います。
・作品の評判が悪い
・チケット代が高い
・公演場所・日程が悪い
・宣伝方法が悪い、あまりしていない。
・観客を呼ぶ役者が出ていない。

かなり三つに被っている項目がありますが、これ以外にも方法は多岐にわたり、非大都市圏よりも大都市圏の商業ベースの公演や、演劇以外にも色々、プロな人たちが考え抜いてやっているので、こんなところにしておきます。宣伝・プロモーションだけで、とんでもなく長い、難しい話になりそうです。それだけ、大変だし、難しいことだと思います。

適切な観客数はどれぐらいなのか?

和歌山市の話ですが、人口約30万人で、他の団体の観客動員数などをみていて、頑張って1000人が限界かなと思います。
この数字も、演劇に興味がなく、知り合いが出ているからという数も含まれているので、アクティブな観劇人口となるともっと少なくなるかと思います。
いわゆる大ホールクラスとなると、観客動員数は1000~3000人ぐらい。これは少し現実的ではないので、公演の最大規模で小ホールクラス300~600人程度を数回公演するというほうが現実的かなと思います。その下に、100人程度、もっと小さいカフェ公演など50人程度に分かれてくるかと思います。
では、金銭面で考えて、それでどれぐらいの観客が来てくれれば黒字公演になるかというと、
〇小ホール(500人)クラス チケット代1500円 公演費約150万円とすると
約1000人程度で、黒字になる計算。 約2回の公演分
〇百人程度のホール チケット代1500円 公演費約70万円とすると約500人程度で黒字になる計算 5回の公演分
〇50人程度の公演 チケット代1000円 公演費約30万とすると
約300人程度で黒字になる計算 6回分の公演分
ものすごくざっくりとした計算なので、そう簡単な話ではないと思いますが、公演規模が小さくなればなるほど採算は取れなくなっていくように見えますが、実際には、各公演の動員8割程度場合の赤字額は、
〇小ホール(500人)クラス チケット代1500円 公演費約150万円 2公演 800人 だと、赤字は約30万円。 
〇百人程度のホール チケット代1500円 公演費約70万円 5公演 400人 だと、赤字は約10万円
〇50人程度の公演 チケット代1000円 公演費約30万 6公演 240人 だと、赤字は約6万円
と、これもざっくりすぎて参考にはならないかもですが、規模が大きくなればなるほど、赤字の規模が大きくなってリスクが非常に高くなり大変です。これに助成金などが加わればまた余裕が出てくるとは思うのですが、劇団を運営する上で、リスクを考えると、多すぎる観客動員数はあまりいい状態とはいえず、商業的な制約が増えてくることになります。大規模な公演で観客動員数を増やしていくのか、リスクを減らして小規模な公演で活動するのか?は、都市の潜在的な観客数が多いかどうかもかなり関係しますが、それよりもここからは各劇団の方針の問題かなと思います。
これを元に、逆に、観劇人口がどれぐらいなら、どの規模の公演が成立するかというと、ものすごくざっくりですが、
観劇人口一万人規模 大規模公演(動員1000人クラス)がいくつか成立する劇団が成立できる。
観劇人口5000人規模 大規模公演(動員1000人クラス)がギリギリ成立できるかも?
観劇人口1000人規模 大規模公演は厳しい。中規模公演(動員500人)が成立できる。
観劇人口500人規模 中規模公演も厳しい。小規模公演が成立できる。
という感覚だと思います。この観劇人口は、大都市圏なら、自地域だけでなく、他地域からの流入も期待できるのですが、非大都市圏は他地域からの観劇人口の流入が極端に少ないので、自地域の数値を見ることになると思います。
自分のざっとした感覚なので、間違っている可能性も高いですが、大体、演劇環境のいい所で、アクティブな観劇人口はその都市の人口の0.5%程度、悪い所で0.2%を切る程度かなと思います。(コロナの影響でこれも激減してる可能性が高いです)
そう考えると、現状、その地域において30万人規模の中都市程度なら、1500人程度。これなら中規模の劇団は成立できますが、1万人程度の町規模なら、50人程度にまで落ち込みます。これではあまりにも厳しいので、500人規模が期待できる約10万人程度の人口規模をもつ近隣都市での公演を視野にいれなければ運営は厳しいかと思います。(そもそもその規模でなければ、劇場がない可能性が高いですが)
まとめると、人口30万人程度の県庁所在地規模の都市ならば、約0.5%で現状よい状態。これを1%まで伸ばせればかなり理想的な状態ではないでしょうか。

演劇を仕事にするために必要な観客数は?

こっから先は気になったので調べたいだけなのですが、じゃあ、非大都市圏の30万人都市で、演劇を仕事にできるのか?について考えます。 劇団運営費を、公演費・運営費・人件費にざっと大きく分けて、一人が生活できるラインを月20万円の収入見込み年間240万。劇団員数5人とした場合で平等に利益を分配したとして、人件費を1200万円稼がないといけません。劇団の公演数を年4回。つまり、一回の公演で300万円の純利益を出さないといけません。動員数1000人だとして、チケット一枚につき、純利益3000円の上乗せ。現実的ではないので、動員数3000人にして計算すると、1000円の上乗せ。これならできそうですが、結構この時点で諸々現実的とは言えません。実際は、収入は公演ギャラ以外にも、他の仕事があったりとすることが多いと思うので、条件は楽になるとは思うのですが、劇団A 劇団員5人年間4公演 一公演の動員数3000人 年間のべ総動員数12000人こうなってくると、公演スポンサーが必要になってくる規模で、そもそも5人劇団では厳しい。
団員数を増やして、興行収入以外の方法、演劇にこだわるなら養成所ビジネスなどのティーチング事業。外部イベントへの出演料などを稼いでいかないといけない。そうなるとさらに制作部なども必要になってくるでしょう。そうなると興行収入は宣伝費と割り切って収入を期待しないというのもアリかもしれませんが、この数字を見るとそもそも絵空事だと感じますし、現状そんな芸能事務所的な活動は考えにくいです。

アンケートの結果を受けて観客数とは?

 アンケートの中でも、観客数の少なさ、地域の演劇への興味のなさがかなりみられました。やはり金銭面などよりも、モチベーションの部分にかなり直結するのではないかなと思います。上記での言いましたが、多すぎても大変ですし、適切な観客数があると思いますが、それよりも少ないという事でしょうか。ただ、本当に観客数を増やしたいというだけならば、地元にこだわらず、他地域への旅公演という方法もあるので、「地元の人に見てほしいのに、観てくれない。」という感情も混じっているのではないかな?と思います。
 ただ、興味のない人に、見てくれと言ってもしかたがないですし、無理強いするのは逆効果。ただ、自分の経験ですが、観客側も演劇の観方が分からないという部分も大きいと思います。
まず、制作面での、初観劇の人のフォローが出来ているか? 興味があって一人で劇場に来るのはかなりハードルが高いですが、知り合いばかりで疎外感を感じると、いくら面白くてもいづらく感じてしまいます。そして、ワークショップなど演劇に触れてもらって興味を持ってもらうという活動も有効だと思います。
勿論、それでも増えない!という状況かもしれませんが、演劇は見ても面白いですし、やっても面白いものなので、地道に増やす活動を続けるか、もう思い切って観客を増やさない方向に振り切るのもアリかなと思います。

本当に観客数は増えたほうがいいのか?

観客数は増えたほうが、いろいろといい事が多いように思います。
ただ、個人的見解でも申し訳ないのですが、自分は別に増えなくてもいいかなと考えています。一言であらわすと「めんどくさい」
あまりに作業が増えて、謀殺され、作品作り以外の作業が増えてしまいます。また、かなりリスクも増えるうえに、観客を増やすための作業は精神的にも肉体的も負担が大きく、やりたくないなというのがあります。観客が少なくて不便だなと思うことも、モチベーションが上がらないことも多いですが、それ以上に、自分のやりたい演劇があるので、それは別に必要じゃないと考えています。そもそも、大劇場の演劇よりも、手を伸ばせば届きそうな距離の小劇場の演劇が好きなので、大劇場に魅力を感じていないというのもあります。
観客数に関しては、「自分たちが演劇をするうえで大事にしていること」がまずキチンと理解できていないと、結構危険な状態になりかねないと思います。また、作品によっては、多すぎてもよくないという条件も発生する場合もあるかもしれません。そもそも、観客数を増やすにはいい作品作りをする大前提なので、観客数を増やす努力をする前に、いい作品をつくる努力が必要で、それが出来るようになってからでもいいかと思います。特に、非大都市圏だと、いい作品作りが、大都市圏よりも制約がある場合があるので、そちらの方を気にしたほうがいいかなと思います。
 ただ、演劇に触れる最初の一歩目が、観劇であることは間違いなく、それは観客であるという事でもあります。観客人口を増やすことは、演劇環境を良くするとても大事な要素であると言えると思います。ですので、◎としたいと思います。

つづきます。
番外編 その2はコチラ

地域の理想的な観客数についてもう少し突っ込んで考えた特別編 その1 はコチラ

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきぼう)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

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