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地方演劇を真面目に考える会 その7 【地域社会との関わり方 前編】

概要

2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。

拠点地域の文化状況の満足度

前回までは、団体自体へのアンケートでしたが、今回からは、地域社会との関わり方を聞いて行きました。まずは、拠点地域の文化状況の満足度のアンケートです。

全体的にみると、やや不満が強い傾向にあるかなと思います。
これだけだとわかりにくいので、演劇環境の良し悪しで、どれぐらい変わるのかもデータを取ってみました。
演劇環境が良好な5県(劇団数・劇場数などが良い県)
良くない12県(回答数が少ないため、12県にしました)
で、満足度の違いを出しました。

当然ですが、良好な県程満足度が高く、あまりよくない県の方が満足度が低い傾向にあるようです。周辺環境の良し悪しが、演劇文化に強く影響するようです。しかし、それでもその場所で演劇をする理由があるということでもあるので、それをこれから紐解いていければなと思います。

地方で演劇を行う上で、メリットだと感じる事。

二つ目は地方で演劇をする上でのメリットです。デメリットばかり取り上げがちですが、地方で演劇をする利点もかなりあるんです!
という所をアンケートしました。自由に書いてもらう方式でしたが、自分がなんとなくまとめてみています。

●経済面
稽古場の確保・経費の安さ 10
劇場等の会場費の安さ 8
公演費用の安さ 2
叩き場がある
多文化活動との交流、コラボ。
会場のサイズやキャパも選択肢があるので、作品の制作がしやすい。

●活動環境面
活動がしやすい・暮らしやすい 7
地域に根差した作品作りができる 7
競争相手が少ない 6
観客との関係性がよい・近い・呼びやすい 5
仲間が多い・関りやすい 3
地域に文化芸術団体があることで底上げになっていると肌で感じる
演劇が本来持つべき現状への批判性を遠慮無く表現出来る。また、素人も表現することにより玉石混交であっても表現出来る。
お客様が素直に、素朴に鑑賞してくれる。

●周辺環境面
自由・のびのびとした空気 2
援助や協力してもらいやすい 3
「自然」が身近にある2
地域文化への貢献や、振興に関わられる 2
メディアに取り上げられやすい
地方からでも発信できる土壌が育ちつつある
生活実感との距離感が近い
動きやすく、転んでも再起しやすい
地方の文化の発展

●その他
メリットはない 4
メリット・デメリットを考えたことがない 2

 一番回答数が多かったのが、経済面でした。自分の感覚でも、経済面はかなり有利かなと思います。公演場所、劇場なども、そもそも借りる費用が安く、大都市圏で公演するときと桁が一つ違うといってもいいぐらいです。それだけでなく、費用の大きなパーセントを占める稽古場代も全く違います。値段がそこまで大きく変わるわけではないですが、回数を重ねればかなりの違いになりますし、そもそも大都市圏では、狭い会議室で机といすをどけて稽古をしている所をよくみられます。本来は、音響や照明できればセットを建てられれば良いのですが、費用が許しません。小屋入りしてから初めて音響、照明、セットを見たという事も少なくないでしょう。しかし、地方では夢のアトリエを持つのも、都会よりは難しくありません! 稽古から照明音響使い放題、セット立て放題! なんと素敵な事でしょう。
 次は、活動環境面。生活しやすくライバルも少ない、最高です! 非都市圏で演劇をする方は、演劇よりも地域に魅力を観じている人が多いと思います。その土地でしかない魅力、人との関わり、産まれた土地ならば愛着はなおさらです。そして、それが作品に反映され土地に根ざした作品ができていく。正直、都会の演劇は才能さえあれば誰にでもできますが、その土地の演劇は、そこに住む人たちが一番よくわかってる。こんな演劇的魅力は他にないとは思いませんか?
そして周辺環境に魅力を感じていれば、そこで演劇をやらない理由はないでしょう!

演劇活動を行う上で不便と感じる事

今度は逆に、不便だと思う所です。上のアンケートでも、メリットがないという回答もあったのですが、良いところもあれば悪いところもある。非都市圏の苦労も見てみましょう。

その他の意見の詳細は一番上のリンクのアンケートからご覧になれます。

 圧倒的に不便に感じているのは観客面でしょうか。観客というか、そもそも演劇に興味がある人が都会に比べて圧倒的に少ないのが原因だと思います。それよって公演の興行収入が確保しづらく、観客が少ないというのは、評価がされづらい事にも直接つながります。いかに観客数を確保するのは、地方に限ったことではないですが、大都会圏よりもシビアになってしまう。また、それによっていかにモチベーションを維持できるかがカギになってきそうです。
 また、人材面での苦労も多いようです。大都市圏では、ぜいたくを言わなければ、役者が見つからないという事はありませんが、非大都市圏では、本当の意味で役者をやってくれる人がみつからないという事態があります。これでは演劇をやろうがやりようがない。
また、見つかっても、専業の役者ではないので、仕事の合間をぬってという事になり、スケジュール調整が結構大変で、二重苦のようになっています。
また、スタッフ面に関しても、舞台制作会社は全国にありますが、小規模の演劇公演では金銭面に折り合いがつかず、知識のある知り合いを探さなければならないですが、なかなかそう都合よくいることも少ないのかもしれません。
 自身の経験からしても、この観客数が少ないというのと、人材面の悩みは、もう20年以上ずっと悩みの種です。人材面に関しては、役者はもう気合で探していくしかありませんし、初心者で演劇に興味がある人は少なからずいると思います。ただ、そういう人と演劇を作るノウハウを手に入れる方法が少ない。ネットで手に入る演劇論は演劇に興味があって、上手になりたい人達に向けてが大前提です。それが通用しないなと感じています。こういう非大都市圏で、初心者たちでも演劇を作るノウハウが広まればいいなと思います。スタッフ面に関しては、最初から高望みせずに、自分たちで勉強していくという方法もありますし、今は機材が安く手に入るので、自分たちにできる規模を考えるのも一つの手段だと思います。一番、辛いのは、観客の面で、このモチベーションの保てないということです。あまりに観客が少ないと、「なぜ自分はここで演劇をやっているんだろう。誰にも求められていないのにこんなに頑張ってるんだろう」という思考に陥って辛いだけです。しかし、かならず演劇が必要とする人はいますし、そもそも自分がその一人だと思います。まずは自分の為に、そしてそれを讃えるために。長々となりましたが、大都会で演劇をやるのも大変ですが、非大都会圏で演劇をやるのも大変だけど、乗り越えられないことはないし、それ以上の楽しさもあるんだっていいたいのです。

劇団と地域とのかかわり方についての個人的見解

 今回は、演劇団体と地域の関わり方についてですが、大都市圏にしても、非大都市圏にしても、いい所と悪い所があって、実はそんなに変わらないのではないかなと思います。観客数に関しては、大都会の方が演劇に来る人の数は多いですが、非大都市圏はライバルが少ない分、取り合いになりませんし、そもそも自分たちで観客を開拓していくという、とんでもなく面白い事ができます。そして、観客との距離感も近く、より観客に向けて作品も作れます。
 評論家はいませんが、はじめて演劇を観た人が、ある日、私もやってみたいと言ってくれる喜びは、大都会でも地方でも同じだと思うのです。また、どうしても入ってくる演劇の情報が大都会を中心とした規模の大きいものが多いので、そういうものだと思いがちですが、自分たちにできる範囲で、自分たちのための作品を作るというのも、とても楽しい事だと思うのです。
 自分は、あるワークインプログレスを通して、役者が戯曲の劇世界を、稽古や本番を通して、体験をするということも、とても重要な演劇の要素の一つだと気づかされました。観客ばかりに目が言って、役者の中で起きている演劇的体験を忘れがちになっていました。その時に、カラオケやダンス、スポーツなどのように、プロもあるけども、自分が楽しむために気軽にできる環境が、演劇にはないのだと気づいて驚きました。残念ながら、非大都市圏では観客数が少なく、メディアの力も弱いので、演劇で生計を立てるのは難しいですが、もっと演劇を楽しむ事が出来る環境が、日本に広がってほしいと思っています。
 そして、その地域にすんでいる人たちは、その地域の魅力を一番よく分かっている人たちだと思います。別に演劇が一番なんかじゃなくていいと思うのです。家族や友達、他にもっとやりたい仕事や趣味があってもいいと思うんです。それでも演劇をやってはいけないなんてことはないと思います。誰もが誰かの為に、演劇を楽しめる。そういう風になってほしいです。

つづきます。
その8はコチラ

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

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