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地方演劇を真面目に考える会 特別編 その6 【空間の魅力について考える編】

概要

2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。

空間の魅力ってなんだ?

今回は空間ということですが、演劇には必ず、劇場や上演する場所、つまり上演空間が存在します。それには光や音も含まれて、劇空間を形成していきます。本当は、それぞれで分厚い本を書けるぐらい一つ一つに魅力があるとは思うのですが、ざっと演劇を観る時の空間の魅力について考えて行こうと思います。

◎空間の要素

・上演場所

簡単に言えば、劇場なのですが、実際には、劇場以外にも野外であったり、カフェスペースであったりと、演劇が上演されている場所があれば、そこが劇空間となりえます。
劇場空間には、二つの軸の良さがあります。
●実際の設備の良さ
演劇にはいろんな装置がありますが、たとえば照明の使いやすさや、舞台の高さ、音の聞こえやすさ、客席の見やすさ・座りやすさなど、演劇を観る時に適した劇場設備が用意されていたりします。
また、快適でなくても、オシャレなカフェで公演すれば、飲み物を飲みながらお芝居を見れるというのも、劇場ではなかなかできない経験ですし、野外劇場で外の町のざわめきと風を感じながら演劇を観るのも、とても楽しいです。それも天然の装置の一つと言えます。個人的経験ですが、大雨の中、役者も観客もずぶぬれになりながら見た演劇は、かなり思い出深いものがありました。
●場所の良さ・背景
劇空間には、かならず場所というものが付随してきます。実際の設備や建物以外にも、周辺の雰囲気や、その劇場や土地の歴史なども含まれてきます。まず、どんな場所で演劇が上演されているのか? 行くまでにどんなものがあるのか? も結構重要です。海のそばのいい風景の先に、上演場所があるだけで、なんだかオシャレな気がしていきます。歴史ある建物で、そこの歴史に思いをはせながら、演劇を観るというのも粋なものです。また歴史ある劇場で、演劇をやるというのも、やる側からしても、思う所があります。憧れの劇団がやった劇場で自分の公演ができるというのは、とても素敵な経験です。

・舞台美術

舞台美術は、役者にも影響を与えますし、観客もかなりの割合で見続けることになります。大きく分けて、具象舞台(リアルな家を模したもの)と抽象舞台(抽象的なセット)がありますが、全く何も置かない素舞台もあり、可能性はさまざまです。
●装置性
演劇を上演するうえで、セットが入れ替わったり、舞台が廻ったりと、舞台装置としての側面もあります。それによって観客が驚いたり、壮大な話を、セットを短時間で入れ替わることによって表現できたりと様々です。
●美術性
美術という言葉が入っているので、やはり美術的な価値もあります。過去から、有名な美術家が装置を担当したりしていましたし、劇空間を装飾するというのは、美術のインスタレーションに近い表現でもあります。(そもそもそこの境界自体あいまいかもしれません)緞帳のない演劇の場合は、まず最初に舞台美術があり、そこでこれからどんな話が繰り広げられるのかを考えるのはとても楽しい時間だと思います。

・照明

光の当て方で、同じものが全く別のように感じたりします。時間表現で会ったり、影のつけ方であったりと、印象の残り方が全く違います。あまり見ている間には、照明がきれいだなと考えることは少ないですが、それは、それほどうまく照明が当てられているという事でもあります。ハッとするほど美しい瞬間を作れたり、光の使い方は演劇の世界観を作ると言ってもいいかもしれません。ただ、光を当てるというのは、かなり技術を要するものでもあるので、習得するのは大変です。
また、上手な当て方になればなるほど、自然になっていき、観ていて気づかないということも多々あります。
観劇しているときは、さほど意識せずともいいと思いますが、当たり前のように見えている光は、かなり計算と労力がかけられたものだと考えると、より面白く思えるかともしれません。

・音響

大きく分けて効果音(SE)とBGMに分かれますが、音は観客の印象操作がしやすく、劇中の雰囲気を作りやすいものです。また、観客の記憶には残らなくても、印象はかなり残りやすくなっています。例えば、同じシーンでも、明るい音楽とくらいおんがくでは、まったく印象が違います。
特に劇判とよばれる、その作品専用に作品がつくられたり、大きく作品の印象を決定づけるものでもあります。その分、かなり技術的にも難しいものでもあります。音楽の使い方が見事な作品は、観客の意識の奥底にまで届く見事な技術だと思います。この分野も、専門性が高く、作曲やPAなど多岐にわたる技術性が問われるので、普通に聞こえても、かなり高度な技術だということもあります。一度観ただけでは気づかないこともある音響ですが、二度・三度見ると、意外なところで意外な使われ方をしている音を発見したりと、密かな楽しみ方があるかもしれません。

・映像
近年は、プロジェクターの進化と安価になってきたことで、舞台上で映像を使うことも増えてきました。ただ、演劇と映像は上手く使うのが難しい技術でもあります。
そもそも生であることが利点の演劇と、記録媒体(ライブ投射もありますが)である映像を組み合わせるのが、演劇の良さが殺してしまう事になったり、映像主体になって、人間が合わせてしまうと、ただの再現になってしまって、演技の揺らぎが消えてしまったりという事が起きてしまいからです。ですが、まだまだできたばかりの技術でもあるので、これから新しい映像技術や表現がでてきて、新しい演劇が生まれてくることでしょう。

空間の、多ジャンルとの比較

物語系よりも、美術などと近しい部分かなと思います。
美術の部分でも触れましたが、インスタレーションなどアートの分野でも、空間芸術の部分は、特に抽象舞台などでは、共有していると思います。
逆に、他の映画やドラマに比べて、この空間という概念がある部分が、演劇の強みなのかもしれません。

空間の魅力の結論

演劇は総合芸術だという事をよく聞きますが、特にこの空間の部分に関しては、かなり総合的な美的センスが必要になると思います。なので、それを一人で作り上げるのはかなり難しく、いろいろな専門家が一緒になって一つの作品を作り上げていくことになります。そうして一体となった作品は、一生忘れられないほどの出会いとなることがあるのです。空間を意識したり、音を意識したりすることは少ないでしょうが、それはそれほど上手く作品に溶け込んでいるという事であり、上手いプロフェッショナル達の作品作りは信ぴょう性があるという事でもあります。非大都市圏では、残念ながら演劇の技術特化にしたスタッフは少ないと思います。また、そういった大規模な装置やセットを使うことも少ないかもしれません。また、そういった大規模なもの、大掛かりなものだから面白いというわけでもないのも事実です。ただこういった空間の部分に視点をもって作品を見れば、より演劇の面白さが体験できるかもしれません。

つづきます。
番外編 その11はコチラ

特別編 その7はコチラ

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita


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