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眠ること以外のなにかをする犬

私は、落ち込んだ時や罪悪感に苛まれる時、我が家の小さな生き物を思い出す。小さいといっても15キロ。元気な9歳のおすいぬ。彼を見ると、複雑に思い悩む自分がくだらなく思える。シンプルに生きる彼を見て、少し回復できる。

今回は、soarの「私の回復じかん」ハッシュタグキャンペーンに寄せるエッセイです。

* * *

我が家には、犬がいる。

私が高校生の時にやってきた、おすいぬ。

彼は保護犬だ。保健所にいる犬をレスキューする団体から、我が家へやってきた。

彼は、かわいい。
世界でいちばんかわいい。
うちのこは、世界でいちばんかわいいんです。

たぶん日本で5千万人くらい同じことを言うだろうが、彼も例外なく世界でいちばんかわいい。

「彼も例外なく世界でいちばんかわいい」って、ふと思ったけど映画か本のタイトルにできそうだ。絶対泣く。

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彼は人のそばにいるのが好きだ。
好きというレベルではなく、「人のいるところに彼はいる」。

わたしが寝転べばぴったりと横に添い寝して、わたしのおなかの上に頭を乗っける。

わたしがヨーグルトを食べようとすれば、光の速さで走ってきてシュタッとおすわりする。
わたしはひとさじのヨーグルトをあげる。

日に2度のごはんと、散歩。
この時以外の彼は、母やわたしにくっついている。添い寝していなくても、近くにいる。

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ある平日の昼間、仕事が休みだった私は、リビングのソファで彼を撫でていた。

寝息を立てながら、よく眠っている彼。
人間と同じように、呼吸にあわせて上下するお腹。

あたたかい日の光が差し込んでいたからか、
なんだかとても神々しい姿に見えた。

実際は精神年齢3歳、肉体年齢50歳くらいの
おすいぬなのだけど。なぜか輝いている。

そしてそのとき、わたしは急に
「彼は眠っているのではない」と感じた。

正確にはこんなきっぱりと思ったわけでなく
「なんだか眠っているのに、眠っていること以外の何かをしているかんじがする」と思った。

体を意識して休ませているような、
闘いに疲れた獣が、傷を癒しているような。

「闘」「獣」「癒」という漢字が並ぶと大げさになってしまうけれど、要はとても大切なことを、生きるのに必要なことをしている、というかんじがした。

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動物は、怪我をしたとき懇々と眠るという。
そのとき我が家の犬は怪我をしていなかったけれど、まるで彼は彼自身を癒そうとしているように見えた。

人間はどうだろうか。
懇々と、しっかり自分を癒すだろうか。

そういうものでしょ?と言わんばかりに、深く眠る犬。午後の木漏れ日。

ゆったり、けれどしっかり流れる時間の中で
私は「回復」について考えていた。

#私の回復じかん #エッセイ #犬


読んでくださってありがとうございます!