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『広報室沈黙す』、読了

先日、寝れなくなった夜に、途中まで読んでいたところを一気に最後まで読み切ったので感想を書いておく。

広報の仕事をする者として一度は読む本、という位置づけだと思って読み始めた。読了して思うのは、広報のなんたるか、というよりは、描かれている生活習慣そのものが自分と違うことを、とても面白く感じた。

スマホがない時代で、電話や直接でのやりとりしかないので、むしろ特定の事象を知った/知らないということが輪郭を持ち、話をよりスリリングなものにしているのは興味深い。

非常に男性的な世界観のみならず、時代性が如実に現れていて、これがいわゆる世代による感覚の違いかと驚かされることが多かった。読んでいる間は調度品のある重役室で、タバコのにおいが残っているというような情景を思い浮かべた。そういった部屋があること自体、今ではめずらしいと思う。昼から堂々とビール飲むとかすごい。あと結構早い時間に会社を出て食べ飲みして2次会まで行けるのはすごい。9時開始の企業なのだろうか。スナックが機能するというのはこういうことなのだなーと妙に納得。

私自身は小さい会社ばかりにいたので、大きな組織で立ち回るとはなるほどこういうことかと腑に落ちる部分が多く、新鮮だった。緻密に、感情と論理に配慮しながら、立場に配慮しながら動く。単細胞な私には、とても高度に思えるが、確かにこういう世界はある。敬意と礼儀とは、こういった世界観の大きく違う世界との交信手段なのだろうなと思う。

広報担当としてどうこう、というよりも、これらの「感覚の違い」が強くわかる、興味深い内容だった。

もちろん広報担当として学べることも様々ある。共通する部分は胸にしっかりと留めつつ、企業のフェーズ・大きさによってやはり求められている役割が違うのだ、とも思う。小説という形式によって、擬似的な感覚を得ることで、現在の自分とこれまでの広報のあり方との差分を得られるのはとても大きい。

そして、この小説の世界観は今の自分が目指す広報というものへ地続きなのだから、もっといろいろ知らなければいけないよな、という気持ちになった。それは広報自体の歴史についてもそうだし、様々な業界・職種、そして様々な立場の方の気持ちも知りたい。今回の主人公の木戸は、社内の数多の事象に対し理解していたからこその立ち回りだった。完璧・見事とは言えないまでも、人間くさく、そして組織人としての使命をまっとうしようとする非常に尊敬すべき人物だと思う。今の私から10歳も離れていない設定なのだから、もう少し私も気合いを入れて修行していかなければならんな……と感じた。

社内・社外を問わず、味方をどれだけ作れるかというところは、何も愛嬌などのみによるものではなく、考え方・信念によるのだと思う。どれだけ軸をやわらかくも強いものにできるだろうか。この小説を都度読み返しながら、「おまえだったらどうするのか」に、的確な回答を出せるように日々精進していくしかない。

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