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「お前の伝え方が悪かったから無視した」

私の人生にとても影響を与えた一言です。大いに腹が立ち、そして大いに反省し、そして今後を生きていくための力を与えてくれた言葉とも言えます。

結構前のことなはずなのに今でもたびたび思い出しますし、「Talk Your Will汐留」でも1分間で発表した内容ではあるのですが、あんまりにもまだ考えたりしているので、消化し昇華するため、書いておこうと思います。


どことはもちろん言えないのですが、過去勤めていた会社で、業務上、秘書のような役割をしていたときがあります。チャットツールでの呼びかけにずっと反応がなかったとき、「どうして無視するんですか」と怖いもの知らずで聞いた私に戻ってきた答えが「お前の伝え方が悪かったから無視した」でした。


要素はあるはずなのに、どうして

当時、私は「伝えること」に一定のこだわりをもっていました。実際は、「どう自分の主張や情報を、過不足なくこの文章に込めて伝えるか」でした。今にして思えばとっても一方通行なのですが、「思っていることが正しく書ききれていない」から伝わっていないと思っていたのです。自分の書き方が悪いからわかってもらえないんだと。

そのため、さらに恥ずかしい話ではあるんですが、チャットツールでの投稿が長文化していく傾向にありました。今だとそりゃ無視されることもあろう、という感じなのですが、その時は、「この要素も、この要素も入れたのにどうして読んでくれないのだろう」と憤っていたのを覚えています。

「お前の伝え方が悪かったから無視した」という言葉は、その努力を真っ向から否定するものでした。当然腹が立ちましたし、コミュニケーションする気がないのかと落胆し、もうやる気が1ミリも出ない状態になったのを覚えています。

この言葉は今回象徴的に入れているだけで、人に言っていい言葉ではないと思います。それはもう、私にとってはつらい一言でした。

その一方で、この言葉がある側面ではとても真理だなと感じたのです。


問題があったのは、 伝え「方」だ

明言するのはおかしいことなのですが、プライベートだとしても、仕事上だとしても、誰かの伝え方が悪いから無視をするということは、私も普通にやってしまっていることでもあります

この世に膨大な情報があるなかで、全てに着目することも、記憶することも不可能です。私に伝えたいことだったとしても、そこにToや@が入っていなかったり、主語がぼかされて書かれてしまっていたら、わからない可能性もあります。あまりに長文すぎて全部のディティールを受け取れないときだってありますし、どう反応していいかわからない一言が飛んできていて悩むのも、ある瞬間を切り取れば「無視をしている」ということになります。そもそもチャットツールを見ていない可能性だってあります。

コミュニケーション自体は、互いの意志があって成り立つもの。それを一方的に、「伝え方が悪いから無視をする」というのはとても悲しい。とはいえ、ある側面では、相手が「反応したい気持ち」がなければ成立しない。

そして私は、その相手の「反応したい気持ち」を引き出すことに失敗していたのだと気づいたのでした。

伝えた情報の構造や、要素が過不足なく入っていたとしても、相手の気持ちや状況次第で、受け取られ方は大きく変わる。

私の、伝え「方」にも問題があったのだ。

そのことがわかってから、コミュニケーションのあり方、そして私の働き方ですらも、それまでと大きく変化しました。まだまだ未熟ではあるのですが、前のように一方的に「なんでわかってくれないの!」と思うことは少なくなりました。


「動いてもらう」力

伝える側が「もしかして、この一回じゃ伝わらないかもしれない」と思うことはとても大事だと思うのです。伝えることの目的をどこに据えるかでも結果は変わってくる。

伊藤羊一さんの『1分で話せ』という本には、相手に伝えることが目的ではなく、「伝えた結果、動いてもらう」ことが大事だとあります。

私が言うプレゼン力とは、人前で発表するスキルでも、話すスキルでもありません。人に「動いてもらう」力です。
情熱だけでは人は動きませんが、ロジックだけでも人は動きません。
マネージャー的な立場で仕事をされている方なら、「正しいことを言って人が動くのであれば、苦労はしない」と実感される方もいるのではないでしょうか。

感情もロジックも含んだメッセージによって相手の右脳と左脳を揺らし、納得感を持って「動いてもらう」ために、できることはたくさんあります。具体的なスキルや手順としては上記『1分で話せ』にめちゃめちゃ具体的に書いてありますので、気になる方はぜひ読んでください。

動いてもらうために、何もチャットやメールの文面だけが全てではありません。相手の受け取りやすいコミュニケーション方法が何かを考え切り替えることもできます。チームとして、目線合わせをして「この方法でコミュニケーションしよう」と決めるのも大事です。

身勝手に発信して、伝わったつもりになって、動いてくれないと嘆くのは、生まれたばかりの赤ちゃんでもできることです(全国の赤ちゃんのみなさんすみません。たくさん泣いて、すくすく育ってください)。

嘆く前に、諦める前に、できることはたくさんあります。そもそも、あなたは状況を良くしようと思って発信するのだから、しっかり対話しないともったいないです。


完璧な伝え方はない

受け取る側になった場合は、「自分から見えている印象が全てではない」と思うことが重要だと思っています。

完璧な伝え方などありません。全力で100伝えたとしても、いくつかはかならず誤解が生まれてしまう。受け取る側の前提知識の差異や状況にもよりますし、それをできるだけ排除するのは伝える側の責任でもあります。とはいえ、大勢に向けてのメッセージならそのように伝える側の責任はとても大きい一方、小さいコミュニティや職場での双方向コミュニケーションの場合はちょっと違うのではないでしょうか。

小さい集団でのコミュニケーションでは受け取る側も、「自分側の要因で、相手の言ったことを違和感があるメッセージとして受け取ってしまっているのでは?」と、自らを疑うのも大事だと思うのです。

もちろん、結構な割合で悪意があるメッセージもなくはないので、もしそうであれば距離をとりましょう。自分が傷ついたのなら「傷ついた」という結果がそこには残っているのです。自分が弱いとか実力がないとかどうだとか関係なく、相手側の伝え「方」に一定の問題があることは明白です。そこについては、相手にだって改善の余地があります。信頼や関係性がない場合は距離をとったり、逃げてほしい。たった一回の人生、そんな無駄なことに付き合う義理はありません。

前提として相互の信頼関係があり、コミュニケーションする意思があれば、たぶん両者ともまだできることがたくさんあるはず。その上で、「じゃあこのコミュニケーション方法が良いね」と対話し、合意して次へ進んでいくことが大事なのかな、と思っています。


過去相手からもらった、たった一言から、こんなに考え続けてきてしまいました。これからも、考え続けていくのだろうと思います。読んでいただき、ありがとうございました。

サポートされたら、おいしいお菓子を買ってさらにしあわせになっちゃうな〜