見出し画像

原稿の使い回しでブラックリストに乗って、デビューできなくなるって本当ですか?

原稿の使い回しは不利になる?


原稿の使い回しというのは、ある社の新人賞で落選が決まった小説を別の社の新人賞に送ることですが、使い回しは「不利になる」「ブラックリストに乗ってデビューできなくなる」などの都市伝説があるようです。応募者の皆さんは、使い回しはダークなことだと考えているようです。一次選考の評論家の先生が、「使い回しは仁義に悖(もと)る」と書いて炎上したこともありましたね。使い回しにまつわる質問も多く寄せられています。
使い回しは悪いことなのでしょうか? 結論を先に言うと、「改稿した上で」「応募規約で再投稿不可と書いてあるところ以外に投稿するなら」問題がありません。

編集部は原稿の使い回しについてどう考えているのか?

電撃小説新人賞の応募規約から引用します。Q&Aの部分です。


質問
過去の電撃小説大賞で落選した作品を、もう一度応募してもいいのでしょうか? あるいは改稿すれば問題ないのでしょうか。

回答
落選した作品を、改稿の上、再度ご応募いただくことは問題ありません。手直しせずにそのままの状態での再度のご応募については、恐縮ですがお控えいただければと思います。


「86-エイティシックス-」はこのパターンでしたね。電撃新人賞に投稿して一次選考落選、ラストを書き直して(改稿して)再度電撃に投稿、大賞受賞です。増刷に次ぐ増刷でメディアミックス化されているのは、みなさんご存じの通りです。

 では、落選した小説を他の新人賞に送る場合はどうなのでしょうか?
同じく電撃新人賞応募規約Q&Aから引用します。


質問

他の小説賞で落選した作品を応募することは可能でしょうか。

回答

まずは先に応募した賞の応募要項などをご確認いただき、応募作についての著作権、出版権などの諸権利が主催する出版社に帰属しないか確かめてください。
権利的に問題ないようであれば、その作品をご応募いただくことは問題ありません。


電撃は使い回しは問題がないとはっきり言っています。
いや、電撃はライトノベルだから特別なんだろう? 一般小説は別だろうと思ってる方もいらっしゃると思います。
野生時代新人賞の応募規約から引用します。


Q:他の文学賞へ応募した作品は応募できますか?
A:すでに落選が確認されている作品を、改稿のうえご応募いただくことは問題ありません。落選が確認されていない作品を応募された場合は二重投稿となり選考対象外として取り扱いますのでご注意ください。


 出版社(編集部)が気にしているのは、二重投稿ではないかどうか、出版権がその著者にあるかどうかです。出版権は著作権の一部ですが、一社専有なんです。二社同時に受賞すると、出版権をどちらが取るかでもめるからです。

著作権法80条、出版権者は、設定行為で定めるところにより、その出版権の目的である著作物について、次に掲げる権利の全部又は一部を専有する

出版権は独占的、排他的権利なんです。

編集部は、使い回しなんて気にしていません。


 私は三つ賞を取っています。フランス書院、幻冬舎、宝島社です。
 そのうち二つは原稿の使い回しです。あるレーベルに投稿して「出版します」になったのですが、廃刊になってしまいました。浮いてしまった原稿をフランス書院に投稿したら大賞受賞です。
 あとで編集長に報告したら、「あはは。そのレーベルで本が出なくてよかったね。僕らが気にするのは出版権なんだ。僕が欲しいのは売れる小説であって、その小説がどこで落選したかなんて関係ない。わかつきさんの小説は消化率が良いんだよ。そのうち増刷がかかるから、変な心配をせずにがんばって書きなさい」と言われました。そして編集長の予言通り、私はフランス書院美少女文庫でもっとも多く増刷をかけた作家になりました。

 幻冬舎の受賞作も、別のところで依頼を受けて小説を書いたけど、結局出版されなかった小説を投稿したものです。帯に受賞作とデカデカと書いてあったせいもあって売れましたよ。三刷して、三万部越えです。儲かりましたよ。

 編集者は、売れる小説(儲かる小説)が欲しいんであって、使い回しかどうかなんて気にしてないのです。気にするのは著作権法違反をしていないか、専有権(排他的権利)である出版権が著者にあるかどうかなのです。

ブラックリスト? それは都市伝説です。

 でも、ブラックリストがあるんでしょ? ブラックリストに載せられたらデビューできなくなるんでしょ? と心配なあなたに。

 「個人情報の保護に関する法律」が2005年に施行されています。リストを作る場合、個人情報保護法は、「リストを作りますよ。いいですね?」と聞いて、同意を得ないとリスト化してはいけないと言っています。
 出版社は個人情報の目的外使用はしないとはっきり規約で言っています。

小説すばる新人賞の応募規約から引用します。
>・応募された方の個人情報は厳重に管理し、本賞以外の目的に利用することはありません。

新潮新人賞の応募規約から引用します。
>応募に関する個人情報は、賞の発表・連絡以外には利用いたしません。

 もしも下読みの先生方が情報を共有していたとしたら、それは個人情報保護法違反です。行為者は一年以下の懲役又は50万以下の罰金が課せられます。出版社にも両罰規定により罰金が課せられます。あまり知られてないのですが、この罰金の上限は1億円です(令和2年12月12日改正され、1億円に改められました。改正前は50万円でした)。一億の罰金を払うのは出版社ですが、出版社は行為者に求償するでしょうね。

(個人情報の保護に関する法律)
第八十七条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、次の各号に掲げる違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第八十三条及び第八十四条 一億円以下の罰金刑

 それでも心配な方もいらっしゃるでしょう。「法律なんて絵に描いた餅だよね? 弁護士雇わなくてはいけなくて、裁判だとかしなくていけなくて、ものすごくお金がかかって、時間もかかるんだよね?」と思っていらっしゃいる方もいるでしょう。

 これもあまり知られていないのですが、個人情報保護委員会という団体があります。「特定個人情報の取扱いに関する監視・監督」をする団体で、「必要な指導・助言や報告徴収・立入検査を行い、法令違反があった場合には勧告・命令等を行」っています。
 個人情報保護委員会には相談窓口があり、電話することができます。

 サイトはこちらです。

 こちらの相談窓口では、「個人情報保護法に定められた義務に反すると思われる行為があった場合の情報の受付」をしています。SNS等で「ブラックリストを作っている」と名言している先生がいらっしゃったら、こちらに電話すれば立ち入り検査してくれます。下読みは守秘義務があるので、何の賞の下読みをしたとは書きません。出版社名がわからない場合、問い合わせは選考委員の先生に行くでしょう。あなたが払う費用は電話代だけです。

 それでも不安な方がいらっしゃるでしょう。個人情報保護委員会なんて信用できない。委員会に何の力があるの? と思う方もいらっしゃることでしょう。個人情報保護委員会は、内閣府の外局です。安心してください。

 ですが、下読みの先生は情報の共有(ブラックリスト)なんてなさいませんよ。下読みの先生方は人格的にもキャリアの面においても素晴らしい方ばかりです。出版業界を良くしよう、埋もれた新人を見つけてデビューさせてあげようとして、熱意を持って取り組んでいらっしゃいます。

 出版業界は、昔は確かにユルユルでした(私は文筆業者歴25年になります)。法律? なにそれ? おいしいの? という感覚でした。編集者もそうだったし、いまだにそういう感覚の方もいらっしゃいます。
 ですが、今は、出版社は、コンプライアンスを守ろうという風潮に変わっています。出版社を信じましょうよ。

でも、下読みの先生は、使い回しは仁義に悖ると憤っていらっしゃいましたが……。

 私は削除される前のツイートを読みましたが、その下読みの評論家の先生は、「再応募の場合は犯人を変えるぐらいの大きな改稿をしていたら大丈夫だけど、まったく同じ原稿を送ってくるなんて仁義に悖る」と怒っていらっしゃっいましたよ。これはほんとうにその先生の言うとおりで、改稿もせず、まったく同じ原稿を送ったら、結果は同じになるだけです。

 私は一次選考者を五年ぐらいしていました。その5年のあいだ、使い回しは一度も読んでいません。使い回しで同じ選考委員に当たる確率は低いと思います。ですが、私も、「小説にはっきりした欠点があるのに、その欠点を改善することなく、そのままで投稿してきた原稿を読んだら」げんなりすることでしょう。

 原稿の使い回しは、PDCAのA(改善)をしていない。進歩もない。新しい小説を書くことで腕は上がるけど、腕も上がらない。どんどん時代は変わっていくのに、その原稿は古いまま。だから不利になるんです。それは新作を新しく書く場合であっても同じです。何が悪いのかを考えて改善(A)をしないないとだめなんです。

早くデビューする人は、Aをする人です。

 私の添削のご利用者で、もっとも早くデビューした人は、「二次選考で落ちて講評を貰ったが、その講評内容が納得できない」という理由で添削をご依頼頂いた方でした。私は二行ほどの講評を翻訳する形で添削講評をさせて頂きました。そしてその方は、その次に書いた小説でデビューなさいました。PDCAのAをした(落選の原因を探り改善した)からです。

使い回しが悪いのではなく、改稿(改善)をしないことが悪いんですよ。

「86-エイティシックス-」は再投稿(使い回し)で大賞受賞でした。再投稿するさい、作者の方はラストを改稿したそうです。改稿したから受賞したんですよ。
 新作であっても、使い回しであっても、悪いところがそのままで改善されていなければ落選します。PDCAのAをしてください。
 落選はスタートです。あなたの小説の偏差値を知り、悪いところ良いところを知り改善しましょう。そしててっとり早くデビューしましょう。

結論、応募規約に使い回しがダメと書いてあるところ以外は使い回しOKです。

使い回しを断っている新人賞もあります。応募規約を読みましょう。たとえば横溝正史ミステリー&ホラー大賞は

横溝正史ミステリー&ホラー大賞
>過去に落選した作品を改稿しての再応募も選考対象外となります。

とはっきり書いてあります。

 逆に言うと、応募規約に書いてないところは使い回しOKですよ。

 私はみなさんに、安心して創作活動をしてほしいと思っています。
 早くデビューして活躍して欲しい。おかしな苦労なんてしなくていいんですよ。みなさんにさっさと作家になって頂いて、売れてほしいです。

 そして「○○はワシが育てたー」っとドヤ顔をしたいです。

 YouTubeでも話しています。

YouTubeでも小説の書き方について話しています。noteはレジメ、YouTubeは授業のつもりです。
チャンネル登録はこちらからできますよ。

https://www.youtube.com/channel/UCMPxcLSOjZnM9P5w7CYB7yQ?sub_confirmation=1


基本無料のつもりですが、サポートを頂くとモチベーションが上がります。参考になったな、おもしろかったな、というとき、100円のサポートを頂けたらうれしいです。