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20190526「おばあちゃんの朴葉寿司」

本当に5月か?というような暑い日が続く。仕事場は真夏のような暑さで、「これから10度以上上がるのか」と思うと本当にうんざりしてくる。

そんなこんなしてたら、母方の実家から荷物が届いた。「朴葉寿司」だ。昨日母親から電話で「今、おばあちゃんちで朴葉寿司を作ってるから送る」と連絡があったので「うひょー」となっていた。

朴葉寿司とは、岐阜県の飛騨地方周辺で作られている郷土料理で、朴の木の葉っぱに、シャケとか紅生姜とか昆布とかのちらし寿司的なものを包んだものだ。料理としての方向性は、鱒寿司とかと同じような感じで、葉っぱの殺菌性とか防カビ性とかの力を借りた昔ながらの携行食というか、ちょっとした保存食みたいな感じだ。素材自体は素朴だが、朴葉の香りがついて美味い。量的にはおにぎり一個分といったところだが、するする食べれてしまう。だしの利いた味噌汁と組み合わされると、なんか出る。脳みそから。
郷土料理なので地域や家庭によってそれぞれ違うそうで、ビジュアルにも揺らぎはあるが、おばあちゃんちの朴葉寿司の見た感じは、上記Wikipediaに掲載されている写真とかなり似ている。こんなにいろいろ乗っていないけど。
朴葉に関しては、これも飛騨地方の郷土料理で、味噌を朴葉で包んで焼く「朴葉味噌」というのもある。それも朴葉の香りというか薫りがついて美味い。朴葉に飛騨牛と味噌を乗せて一緒に焼くというコンボは鉄板のご馳走で、これも本当にヤバい。ちなみに朴葉は火にも強い。

母親の実家は温泉で名の知れた下呂市で、おばあちゃんち自体は市街から車で15分ほど行った山の方。自然あふれると言えば聞こえがいいが、多くが農家で農地と山ばかりだ。コンビニもなんでもかんでも遠い。川は夏でもめちゃんこ冷たい。冬はもちろん寒く、かつてほどではないがそこそこ雪も降る。けれどとても穏やかな時間が流れて、夜は星がとても綺麗で、美味いものも多いし、温泉はやっぱ良い。

毎年一回、ちょうどこれくらいの時期に、おばあちゃんは朴葉寿司を手作りする。それも大量に。朴葉が若く大きく開き、そして香りがいい時期なのだと思う。朴葉をわざわざ山の方へ収穫に行き、大量に酢飯を作り、乗せるものも準備し、おばあちゃんちに生産ラインが突如現れる。その一連にみんな駆り出される。母親は4人兄弟の三番目で、上に姉が二人下に弟が一人。女性陣はみんなそれぞれ散っているが、各家族で参加できる人を引き連れて集結する。
皆が配置につく。朴葉を拭く。朴葉の茎のあたりを切り、切った茎をピンのようにしておく。酢飯を乗せる。それぞれの具材を乗せていく。折って包んで、茎で作ったピンで閉じる。箱に敷き詰め積み重ねていく。これが生産ライン上で延々と繰り返される。

おばあちゃんちは、ずーっと農家で、それこそ100年以上続いていて、家屋自体も100年くらいのやつらしい。おじいちゃんは一昨年亡くなったが、大変な時期もあそこでずっと自然と共に暮らしてきた。季節の移り変わりに合わせて種を蒔くように、朴葉寿司作りも時期を感じるある種の儀式というか、お祭りみたいなものの一つなのかもしれない。そしてそれを延々とずーっと繰り返してきた。ゴールデン・カムイとか読んで、儀式的なアレに「おー」と感心していたが、意外と近いところでずっとあった。

けれど、おばあちゃんもいい歳だ。おばあちゃん主導で行われているこの祭りも、いつまで開催されるんだろうか。最近終わりについて感じることが多いが、そういう歳になってきたのかもしれない。

そんなことを考えながら届いた朴葉寿司を食べた。美味い。たくさん届いたので、食べきれないやつは冷凍しておく。解凍して食べても美味い。

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