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 毎月、神楽坂TheGLEEで行われる、HIDE×HIDE(和楽器デュオ)の『三尺秀水』というライブで、ピアノ・アレンジということで参加させていただいているのですが、そのライブが先月で50回目、昨日が51回目だったそうです。このライブは尺八・中棹三味線にピアノが加わるという、トリオ編成のライブです。

 元々、HIDE×HIDEのお二人と関わることになったのは、お仕事でお付き合いのある方を介してアルバム全体のアレンジを依頼されたのがきっかけです。中国の伝統楽器のアルバム制作やライブ、津軽三味線のライブに関わったことはありましたが、尺八と中棹三味線は初めてでした。そのときはアルバム制作のお仕事だったので、まさかその後、演奏で関わることになるとは全く思っていませんでした。アルバム制作は2011年秋、初めてライブに参加したのが、翌年のロシアツアー(2週間)でした。その前に三味線のお店でやったような気もするのですが、記憶が定かではありません。ライブ演奏が2012年の3月末からとすると、もうすぐ7年経つんですね。時間が過ぎていくのは早いものです。
 
 アルバム制作をするにあたり、尺八と三味線のみのTEST録音というのを東映音楽出版さんからいただきました。その中に、彼らのオリジナル曲である『颯』『トンテケトン』『春ナワスレソ』が入っていました。他にもいくつかあったと思うのですが、僕が選んだのはその3曲でした。
 ファースト・アルバムは打ち込みベースのカッコ良いエレクトロ・サウンドでしたが、制作しているアルバムの直前のアルバムがクラシックのカバーということと、ライブもそのクラシック。カバーやロシアの映画音楽のカバーをピアノを含めたトリオ編成で行うということを聞いていたので、基本ベーシックにピアノがいるようなアレンジにすることになったと記憶しています(僕が参加する前のその編成で彼らは、ロシアのコンクールで優勝しています)。そんなわけでライブでもそのまま演奏できるようなものをイメージしていたと思います。要するにビートやシーケンス、弦楽器などがなくなっても、ピアノがあれば成り立つ、という具合です。それはその後のアルバム『Encounter』『和楽器×ゲーマー×CAPCOM』も同じです。
 自分が鍵盤奏者ということで来たアレンジのお話だったと思うのですが、ピアノを使うという流れがなかったら、もしかしたらアルバム制作という意味では、ピアノを積極的に入れようとは思わなかったと思います。
 産業革命の産物であるピアノと、和楽器というものが合うとは思っていなかったのです。ですが、その後アレンジをしていくと、意外とこれはいいかもしれない、と思うようになりました。(いいかもしれないという理由には、和音の積み重ね方など、条件もあるのですが)これは逆説的ですが、和と洋という異質なものを同時に鳴らすことにより、お互いの音が良く聴こえるという感覚を持ったのです。ただ、それだけではなく他にも、例えば、それぞれの音が溶け合っているという感覚を持つこともありますし、同時にピアノが完全に影に徹して和楽器を引き立てる、という感じも持ちました。
 一方で、完全に和と洋を完全に分けたような、同時にそれぞれの楽器が鳴らず、それぞれの時間軸を構築している武満徹の『ノヴェンバー・ステップス』という曲の考え方も好きなので、何といいますか、様々な解釈を良しとする自分がいます(笑)。和楽器にピアノなんて合わないよ、という意見があるのも良くわかりますし、それをあえて否定はいたしません。

『颯』と『トンテケトン』は彼らのファースト・アルバムに元々入っている楽曲ですが、和音は自由につけて良いという話だったので、『颯』は少し変えて、『トンテケトン』は基本ワンコードにしました。
 ワンコードを採用したのは、和楽器の良さをポップスでどう引き出すか、ということを当時考えていたのだと思います。『ノヴェンバー・ステップス』の考え方とは少し違いますが、どうやって和と洋を同時に成立させるか、ということを考えていました。
 簡単に書きますと、和の音楽は元々コード(和声)という概念はそれほど強いものではありません。一方、洋はコードの概念が強い。その二つをどうやって同居させるか、という結果、ワンコードにしました(本当はペンタトニックなどのことも書きたいのですが、長くなるので割愛いたします 笑)。
『颯』はメロディが印象的な素敵な曲なのですが、ワンコードにしてしまうと、折角のメロディーの良さを壊してしまうと思ったのでやりませんでした(もちろん、いろいろ試しましたけど 笑)。
『トンテケトン』は作曲者自身の評価がなぜか低いのですが(笑)、僕としましては『トンテケトン』をアレンジしていて、手応えを感じたのを今でもよく覚えています。
『春ナワスレソ』はそれまでのアルバムには収録されていない新曲扱いでしたので、これもなるべくワンコード系で、と思っていましたが、やっていくうちに現行のアレンジになりました。全然ワンコードではないですね(笑)。この曲も最初の出だしの三味線と尺八の感じが素敵です。この曲はライブを重ねていくうちに、イントロが2パターン出来ました。そうやって、変化や新しいものが出てくるというのは、ライブをやっていて面白いと感じることの一つです。

 ピアノで参加するということを全く考えていなかったのは、既にライブで演奏するピアノの方がいたからなのですが、正直に言いますと、この3曲をアレンジしているときに、一緒に演奏できたら楽しいかもしれない、と思っていました。まだ、お二人には会っていませんでしたね。その後、レコーディング・スタジオでプリプロ(本録音前の準備作業)をする際に、『颯』や『TonTekeTon』を三人で合わせました。そのときはデジタルピアノでしたが、手応えを覚えた記憶があります。新しいことをやっているような気がしました。そこに自分が関われていることを素直に喜んでいたのだと思います。その後、サポートのピアノ奏者の方が続けられなくなったらしく、その当時の東映音楽出版の社長さんから「ロシアに行こうよ」と行っていただいたのです。寒そうなのが気がかりでしたが(笑)。今は冬でも、よっぽど外で何時間も作業をすることがない限りはタイツを履くことはありませんが、当時は今よりも更に寒がりでしたので、冬は必ず履いていました(笑)。
 それまでは、例えばロシアでのコンサートなどはカバーのみだったようなのですが、2012年のロシア・ツアーから彼らのオリジナル曲も演奏することになりました。
 ロシアでは、サンクトペテルブルグでの大会場でいきなり演奏することになるわけですが、本当に貴重な体験でした。その本番で譜面が落ちそうになったので、思い切って捨てたのをよく覚えています(笑)。自分でアレンジしたばかりの『ダッタン人の踊り(UnderTheSky)』だったから、そうできたのだと思いますが(笑)。確か、HIDE×HIDEが優勝したコンクールの第二回でのオープニング・アクトかゲストか、そんなところだったと思うのですが(彼らが前回の優勝者でしたから、その記念演奏という感じだったのでしょう)、演奏が終わって、HIDE×HIDEに駆け寄っていらした審査員のアコーディオンの大御所の方に(日本の方です)「譜面バサってやって潔かったよ、ユキマルくん」と言われたのをよく覚えています(笑)。名前の訂正をこちらから求めることはなかったと思います(笑)。

颯(ライブ・トリオバージョン)
https://youtu.be/mTXttmwbPUg

トンテケトン(ライブ・トリオバージョン)
https://youtu.be/KDF9oETIdY8

春ナワスレソ(ライブ・トリオバージョン) イントロはCDのものとは異なります。
https://youtu.be/CiiI94nJhuk

 アルバムは『ZIPANG』というタイトルになりました。その表題曲『ZIPANG』のアレンジは四季を意識しています。この話を作曲者の秀さん(中棹三味線)としたかどうかは覚えていないのですが、たぶんスタジオで話したと思います。イントロのフレーズ(サビと同じもの)は冬、そしてもう一度同じフレーズをやるところでは雪解けと同時に春が来て、そして夏が来て、サビで実りの秋となります。その後段々と冬になり、その後厳しい冬を越えるべく耐える(ここは調を変えました)、そして最後のサビで春が来てエンディングを迎えるという具合です。あのサビはリフにもなりますし、本当に素敵なメロディだと思います。

ZIPANG
https://youtu.be/iKuc0aNu9cU

 HIDE×HIDEの編成は尺八と中棹三味線ですが、この組み合わせは本当に理想的なものだと思っています。二重奏として問題なく成立しますし、お互いを損なうこともなく、それぞれ別のフレーズを演奏していても、それぞれが主旋律として存在することもできます。
 昨日久しぶりに演奏しましたが、『Distance』という秀ちゃん(尺八)の楽曲も、それまでの和楽器の発想からは生まれない斬新なものだと思いますし、メロディもカッコ良いです。それぞれ、違うタイプの曲を作れるのも、HIDE×HIDEの強みだと思います。聴くと、どちらが作ったかすぐにわかります(笑)

 そして、そのお二人のメジャーデビューアルバム『無限』には、高濱祐輔氏プロデュースによる、生まれ変わった新バージョンの『颯』と『トンテケトン』が収録されています^^
 そのアルバムにはワキマルも2曲、アレンジと演奏で参加させていただいております(尺八・三味線・ピアノのトリオ・アレンジです)。
 3/20発売です。是非お聴きいただければと思います。

HIDE×HIDE「無限」
http://www.teichiku.co.jp/artist/hide-hide/discography/TECH-30534.html

そして、本日お届けいたしますのは、そのHIDE×HIDEのために作曲した『悠久の刻』という曲です。お茶のCMみたいな曲を書いて、と言われて書きました(笑)
この曲は、尺八・中棹三味線・ピアノというアレンジの他、フルート・ヴァイオリン・チェロ・ピアノという編成のものもあります。
その2バージョンをお届けしたいと思います。

悠久の刻(尺八・中棹三味線・ピアノ)
https://www.youtube.com/watch?v=3h-AdlA9UwI

悠久の刻(フルート・ヴァイオリン・チェロ・ピアノ)
https://www.youtube.com/watch?v=u-zc527iZtk

(追記)
『颯』『トンテケトン』『春ナワスレソ』『ZIPANG』のYouTubeへのリンクを追加いたしました。

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