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インタビューメディアを通して見えたNeurotech(ニューロテック)の展望

2019年7月、Neuralinkが初めてのBCI(Brain-computer interface) "threads"を公表しました。

個人的にはそのニュースを見て「最高のコミュニケーションツールではないか」と思い、この業界に貼ろうと思ったのですが、それから約2年の月日が経ち、どう市場やテクノロジーは変化していったのでしょうか?

「Neuralinkが話題の筆頭となっているが、他にどのような企業があるのか?」「ビジネスユースケースとなりうるキラーアプリケーションは何なのだろうか?」「そのグロースの背景にはどのようなターニングポイント・技術革新が必要なのだろうか?」

その最新の答えを探るべく、Neurotechに特化したインタビューメディア"NeurotechJP"を半年前に始めました🚀

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https://neurotechjp.com/jp


NeurotechJPでは、最先端で活躍する海外のスタートアップ創業者や大学関連の研究者へのインタビュー記事に加え、海外のトレンド情報をまとめたコラム記事などを発信しています。


既にメディアに多く露出しているスタートアップや業界で勢いを伸ばしてきているスタートアップなどNeurotechにパッションを燃やす多くの方々から、ビジネス面限らず技術面の1次情報を、当メディアを通してキャッチアップすることができました。
また、Neurotech Analytics社の資料をベースに市場の最新情報を追い、自身でも脳波を分析するアルゴリズムやアプリを作ってみたりなどしていました。

今回、それらの知識をベースに自分が思うNeurotechの展望をブログにしてみました🧠


Neurotechの今

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Neuralink Ping pong 実験


「Neurotechって何が凄いの?何でそんなに注目を浴びているの?」


まず初めに、

Neurotechとは、Neuroscience ✖️ technology の略であり、ここでは脳や神経科学に関わる領域と定義します。なので、神経薬理学や遺伝子医療も含まれます。

BCI(Brain-computer interface)は、脳と外部機器をつなげるもので、最低限脳からデータを取得しそのデータを何かしらのアプリケーションで可視化(モニタリング)できるもの、と定義します。

(本記事では、健常者が恩恵を受けるであろうBCIについて主に触れています)


数十年前から脳波を読み取り分析する研究は行われてきましたが、「Neurotechがすごい」と今騒がれているのは、健常者へその技術が応用されることがよりリアルに想像できるようになったからだと思います。
「アルツハイマー病を直します」「手足が不自由な人でもコンピュータを動かせます」障害のある方に対してNeurotechという研究分野は発展を遂げてきましたが、スマホを筆頭に、持ち運び可能なデジタルなものが昔より一般的になってきたからこそ、「念じただけでコンピュータを動かす」「刺激で睡眠の質を上げる」など健常者が想うScience Fictionのようなことがより想像可能そして実現可能となっているのだと感じています。


10年以上前からBCIを提供するNeuroskyという会社のCEO Stanley Yangにインタビューした際、スターウォーズのフォースをモチーフにプロダクトを市場にローンチすることで、"脳波"の意味すら知らない当時の一般消費者の心を掴んだと教えてくれました。

スターウォーズという当時のトレンドに乗っかったように、今現在、Elon Muskの市場参入のお陰で、脳波やBCIという言葉がBuzz wordになっているのかと思います。


僕がサンフランシスコにいた際、現地のNeurotech関係ないソフトウェア企業で働くエンジニアでさえ、"BCI"という言葉を知っており、一般消費者への認知は既に広まりつつあるのかと思います。


一方、技術の観点から物事を捉えると、上のようなSFの出来事が起きるのはまだまだ数年先の話なのかと思います。

NeuralinkのDirector of OperationであるShivon Zillsによると同社が健常者へデバイスを提供するのは2033 ~ 2036年を目安にしているといいます。

これは、脳にデバイスを埋め込む"侵襲型"という方法であるため、段階的な臨床実験や神経科学の研究的発展が必要なのが理由として考えられます。


侵襲型BCI(Invasive)とは反対に、デバイスを埋め込まず、ただ頭に被る形の"非侵襲型(Non-invasive)"と呼ばれるBCIもあります。

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Invasive: 侵襲型、Non-Invasive: 非侵襲型


侵襲型はニューロン一つあたりのデータを測定できる一方、非侵襲型では侵襲型のようなリッチなデータを取ることは難しく、ノイズも発生します。


非侵襲型BCIでは、連続起業家のBryan Johnsonが創業したKernelという会社が資金的にも技術的にも進んでいるのですが、2022年のQ2にはver 1を消費者向けに提供するといいいます。

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Kernel


現状のユースケース

Neurotech Analytics社のレポートによると、この業界には1200社以上の企業がいるみたいです。(BCI限らず、薬理学や遺伝子医療等も含む。)

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また、そのユースケースは様々です。

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ユースケースに伴う代表的な企業は以下の通り。

- ヘッドフォン型デバイスで集中を制御 (Neurable)
- VRでカーソルを動かす (NextMind)
- 睡眠の質の向上 (Dreem)
- 瞑想の質の向上 (Muse)
- 教育の質の向上 (Neurosky)
- etc


上では、BCIを提供するBtoCの代表的な企業を紹介しましたが、正直一般消費者の手にはBCIは未だ広まっていません。そこには、キラーアプリケーション発見の難しさ一般ユーザーへ届けるブランディング・デザイン性など、多くの課題があると思っています。
それらを超える3つのターニングポイントがインタビューを通して見えてきました。

ターニングポイント1: 見た目重視でパワフルなハードウェア

この市場を調べていく中で非侵襲型BCIを提供する企業は思ったより多くいることに驚きました。その用途は研究用から一般消費者用、様々なのですが、僕が魅力を感じている部分として、BCIはiPhoneをアップデートする新しいモバイル端末になる可能性を持っているという点です。

iPhoneがタッチスクリーンによるインプットでUXの可能性を広げたように、BCIでは脳波によるインプットで様々なUXが実現可能となります。
また、ハードウェアとしての処理能力も重要な点であり、以前インタビューしたNeurosityのCTO Alex Castalio は、こう語っていました。


我々のデバイスCROWNにはCPUやメモリが搭載され、機械学習などの複雑な処理を行うのに十分な処理能力を持っています。なので、デバイス上でアプリを実行することも可能です。

加えて、Neurosityは、CROWNから取れる脳波データで誰もが簡単に脳波で操る独自のアプリケーションを作れるように、開発者用SDKも提供しています。

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Neurosity のデバイス CROWN


このように、デバイス単体のパワフルさとプラットフォーム戦略が、iPhoneに代替する新たなハードウェアとして最低限必要なスペック的要素なのかと思います。

しかしながら、見た目の部分で大きな課題が依然とあり、その解決がブレイクスルーになると感じています。電極を多くすればする程、測定できるデータ量は多くなりますが、その分頭全体を覆う大きなハードウェアが必要となってきます。また、頭のどの部分に電極を当てるかで、取れるデータの意味(視覚、言語、etc)が変わってくるので、重要でリッチなデータを取れるよう神経科学的な知識を基に電極を正しく配置したハードウェア設計が重要となってきます。

なので、リッチなデータを取りつつも日常的に着用可能な美しいデバイスが、多くの人々に好まれるハードウェアとして認知されるのに必要だと思います。



ターニングポイント2: XRがBCIをキラーユースケースへと変える

どのようなBCIがiPhoneを代替するかを説明してきましたが、現状どの企業もキラーユースケースを発見できてない印象があります。

実際、BCIを提供するスタートアップ創業者へのインタビューでも、「キラーユースケースは何か」と尋ねると、特に一般消費者向けのケースに関してはNice-to-haveな印象を多く受けます。
(詳しく知りたい方はNeurotechJPのインタビュー記事を読んでみてください)


では、キラーユースケースが生まれる瞬間はいつなのか?

個人的には、XRが普及した時だと感じています。

その客観的事実として、

MindPortalというARとBCIを組み合わせた会社は2021年YCombinator を卒業し、シードで5億の調達に成功。
NextMindというVRとBCIを組み合わせた会社は、昨年CESでBest of innovation賞を獲得したのと同時に、ローンチしたプロダクトは世界中のゲーマーの間で使われる。

があります。

NextMind VR Demo


没入感を失う要素であった手動コントローラを代替するのがBCIです。念じただけで画面上の操作を行えるBCIはXR上でMust-haveなUXを提供していると思います。

Oculusを開発するFacebook Reality Labs(FRL)は、筋電位を読み取れるリストバンド型ニューラルデバイスを開発するCtrl-Labsを2019年に買収しました。このデバイスは、手や指を動かそうとする時に発生する筋肉の微弱な電場の変化を感知することができ、実際の手の動きを正確にデコードすることができます。
FRLが公式に発表する動画では、このCtrl-labsのバンドをつけることで、XR上で表示されるコンテンツに対して「空中でスワイプする」「空中でタイピングする」などの動作が可能になることを表現しています。

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FRL: Ctrl-labsのデモ動画


ターニングポイント3: ソフトウェアとデータドリブン

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ハードウェアを開発する企業は競争が激しい一方、ソフトウェア企業はそのビジネス応用の幅広い可能性の割にあまり開拓されてない印象があります。

デバイスの種類によって取れる脳波データの質や量は変わってきますが、脳波データを使えば、多くのことができます。

1. コンピュータを操作する
2. 睡眠や瞑想、集中の質を上げる
3. 感情を取得する
etc.

これらのユースケースは現状ニューロサイエンスの知識を多く必要としますが、それらの知見が一般教養として公開され、誰もが簡単に目的の脳波データを扱えるようになれば、データ活用ビジネスがもっと多く出てくるような気がしています。

3の感情を取得というところでは、広告動画やロゴを被験者に見てもらいその際の脳波から感情を取得し、広告動画含むマーケティングの良し悪しを検証するという、ニューロマーケティングというビジネス応用例が以前からありますが、
それらの実験データから被験者の脳そのもののAIモデルを作り上げ、人間の被験者いらずとも、AIを使って反応する脳波活動を予測してニューロマーケティングを実現できるSaaSを提供するNeuronsという会社があったりします。

また、脳波データは個人特有であり、その特性を使って生体認証に使われたりする応用例も考えられています。

特に一般消費者向けでは誰の何の課題を解決するかというキラーアプリケーションは探っていく必要はまだまだありますが、
このように、脳波データをどのように利活用できるかというソフトウェア・データドリブンなユースケースが今後増えていくかと思います。


さいごに

Neurotechはアツイです🔥

是非この記事で理解や興味が深まったら幸いです!


P.S. 自分自身、少なくとも10年はこの領域に貼っていこうと思っているのですが、どう自分が挑戦していくかについては後日またブログで書き綴ろうと思います。

Appendix

"Neurotechの基礎"という資料を公開してたりしてます。


勢いのあるスタートアップをスライドで分かりやすく説明してたりしてます。




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