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MSSPとオタクと10年

私がM.S.S Projectのゲーム実況動画を初めて見たのは、厨二時代の冬が明けようとしているとある日であった。

きっかけは、今はなき某投稿雑誌に掲載されていたファンアート。
当時の自分はフリーゲームのソロ実況動画しか見たことがなく、どういった動画なのかもイマイチ理解せず、興味だけを頼りに開いたのは、Minecraft実況の第一話。

いっぱい人が喋っていて聞き取り切れない。何が画面上で起きているのかよくわからない。そもそもこれ何のゲーム?
最初は正しくカオスと呼ぶべきで、何なのかさっぱりだったのに、なぜかどんどん続きを再生している自分がいた。
気が付けば、他の動画も見ていた。4人の声を聴き分けられるようになっていった。曲も聴き始めた。あっという間に、M.S.S Projectに夢中になった。
当時の自分は身内に不幸があったばかりで、家じゅうが暗い空気に包まれていた。辛い現実を忘れて屈託なく笑える彼らの動画は、たぶん私の救いだったのだろう。

中学生のお小遣いでどうにかCDや本を買い揃えて、3DSのニコニコ動画ソフトで毎日のように動画を見た。CDも繰り返し流した。「M.S.S.Phantom」のアルバムが特にお気に入りだった。
メンバー全員のことが好きだったが、特にKIKKUN-MK-Ⅱさんのことが面白くて格好良くて大好きで、どこで覚えた言葉か忘れたが、彼のことを「推し」と呼ぶようになった。
そんな感じで1年が過ぎ、私は高校生になった。
進学した私には親からスマートフォンが買い与えられ、私はソシャゲにまんまとはまり、少しずつMSSPの動画を見る頻度が減っていった。

熱量をほとんどソシャゲに注ぎ込んだ高校生は、やがて受験生になった。
ソシャゲを封印せざるを得なくなった受験生は、代わりにMSSPの動画を勉強のBGMに流すようになり、また徐々に彼らへの熱意を取り戻していった。
自分が追うのをやめてしまっていたうちに、MSSPは武道館と横アリでライブを成功させ、ベストアルバムを発売していた。
無事に受験を終えた後、ベストアルバム「M.S.S.Phoenix」を買いに走った。

衝撃だった。
4人バージョンになって厚みも熱さも増した「We are MSSP!」も。
初めて知る声で、KIKKUNさんが切なくも歌い上げる「Wish~この場所で~」も。
切実に残酷に、憧れを追い求める姿を歌う「11光年クエスト」も。
堂々とした風格を湛え、力強くどこまでも羽ばたいていく「M.S.S.Phoenix」も。
前のCDを買っていなかったことで知る他の様々な曲、再録により更に魅力的になった曲たちが示す、目を離してしまった隙にすっかりパワーアップした彼らの姿。
それでいて、短いながらも詰め込まれた無駄トークに刻まれた、何も変わらないカオスで賑やかなMSSPの4人。
瞬く間に再び、私は彼らに引き込まれた。

それからはまた動画をよく見るようになり、グッズやDVDも買い集めるようになった。
初めてのアルバイトの研修の帰りに購入したKIKKUNさんのぬいぐるみとは、その後よく一緒に出掛けるようになった。
ライブにも行こうとしたが、既にチケットが売り切れていた。
そのため、自分にとって人生初のライブイベントとなった、ニコニコ超パーティー2018に参加した時初めて、生で彼らの姿を拝むことになった。

念願の初単独リアルイベントは、Holy Soul Party2018。
生まれて初めて周囲にソウルメイトしかいない空間で、ゲームやアトラクションに興じ、歌い踊る4人に夢中でペンライトを振った。
後日、知り合った他のソウルメイトの方にこれが初イベントだと話したら、内容が不明だったイベントをよく初めてに選んだものだと困惑された。参加できる喜びが大きすぎて全く気にしていなかった。

そして、初めての音楽ライブとしてPANZER -The Ultimate Four-に参加。
生のバンド演奏の音圧に圧倒され、あろまほっとさんとeoheohさんの踊る「ENMA DANCE」に心を奪われ、初披露となった楽曲に情緒がメチャクチャになり、KIKKUNさんが「いつでも戻ってこれる場所でありたい」と話してくれたことに、出戻り勢としてとても救われた気持ちになったことを、よく覚えている。

以降は、各ライブツアー1回は参加するようになった。
翌年の音楽ライブPERIOD -The Next Phase-も2回参加する予定だったが、うち1回は新型コロナウイルス流行のため中止になってしまった。
予定されていた横浜スタジアムでのライブも無くなり、被害の大きさに勝手にも凹んだが、無観客ライブで輝く彼らの姿に、見ているこちらが非常に励まされて、自宅で涙目でペンライトを振っていた。
ずっとMSSPを応援しようと思った。

そうして、1人のオタクがMSSPに出会って10年が経とうとしていた。

中二だったオタク、10年が過ぎた


あの頃と比べれば、色々なものが大きく変わった。色々なことがあった。
配信者も、”推し活”も、すっかり市民権を得たものになった。
MSSPは2年前に事務所から独立し、新たな体制で再スタートを切った。

一方。
かつてKIKKUNさん以外を推しと呼ぶまいと思っていたオタクだったが、いつしかVtuberを見るようになり、彼と同じぐらい応援したいと思える人物と新たに出会った。
仕方のないことだが、両者すべてのコンテンツを追いきるには時間が足りなくなってしまった。
そして、就活がうまくいかず、流されるように就いた仕事を辞め、オタクは見事に無職になってしまった。
10年もあれば、人は中学生から無職になれるのである。

退職した理由は色々とあるが、大きなものはキャリアチェンジだった。
そのためにちゃんと勉強をするなら早いほうがいい、と判断したが故だが、もうすぐ25歳になる、というのもある。
FBさんたちがMSSPを結成した年齢が25歳だったのだ。
特に大きなことをしようとしている訳ではないが、しっかり切り替えて頑張るなら今だろう、と勝手に背中を押してもらった。

そして仕事辞めたてホヤホヤの2024年2月16日、オタクはZepp DiverCity (TOKYO)に行った。MSSPの15th Aniversary LIVEを観るためだ。

MSSPはこの前日のライブツアー初日に、9月9日に開催される武道館でのライブを告知したばかり。
そのため、いつも以上になんだかソワソワした気持ちを胸に、オタクはZeepのゲートを潜ったのであった。

ライブは素晴らしいものだった。
よりクオリティの上がった歌とパフォーマンス。
新アルバム「FRONT LINE」の楽曲を網羅しつつも、歴代ライブを盛り上げてきた15年分の名曲を盛り沢山に詰め込んだセットリスト。
その一方で、時にライブと全く関係ない方向へ飛んでいくゆるいMCや、「Bio GORIllA」などで繰り広げられる混沌のパフォーマンスで笑わせてくれる一幕も健在。

動画はこの日のものではないが……

特にぐっと来たのは、今ツアーの日替わり要素であるアンコール。
毎回異なる歴代衣装でメンバーが登場するそうなのだが、2月16日の公演で彼らが着用したのは2020年のツアー、PERIOD -The Next Phase-の衣装だったのだ。
PERIODツアーは、一部の公演が中止になってしまったライブ。Zepp DiverCity (TOKYO)は、中止になってしまったライブ、そして代わりに行われた無観客ライブの会場だった。
4年の時を超えて、この会場で、ツアータイトル曲「M.S.S.Period」、それに加えて、無観客ライブを受けて作曲された「Stay Dream」があのカラフルな衣装で演じられる光景に。
オタクは思わず猿のような叫び声を上げてしまった。周囲にいた方、本当にごめんなさい。

それはそれとして。
もう一つ衝撃的だったのが、今回の新曲の一つである「嘆きの華」のパフォーマンスだった。

この楽曲は、MSSPとしては珍しいV系バラードであり、試聴の時点でこんなの絶対好きやんけと思っていたのだが、著者がCDを入手できたのがライブ当日だったため、ライブで初めてフルを聴くことになったのだった。

目の前で繰り広げられた光景は、とんでもないものだった。
落ち着いた動きながら、これまでにないダイナミックで感傷的な振り付けで踊るあろまさんとeoheohさん。
その中央で、歌詞通り叫びを振り絞るかの如く歌うFBさんとKIKKUNさん。
そんな4人がモノクロのライトに照らされる姿は、いっそ悲痛なほどに神々しかった。

更に衝撃的だったのが、KIKKUNさんが語ってくれたこの歌詞に込められた思いについて。
記憶が飛んだので完全にニュアンスでの記述になってしまうのだが、要するに「自分たちから離れて行ってしまった人たちのことを考えて、この曲を書いた」ということだった。

この無慈悲で酷く鮮やかな世界で
ただキミの名を叫んだ

それでも願いが叶うならば 聴かせて
永久に 哭いてる嘆きの華達よ

嘆きの華 Lyric:KIKKUN-MK-Ⅱ
(個人的には2番の歌詞が特に情景的で好きなので、是非聴いてみていただきたい)

え?
こんな残酷で破滅的な状況からそれでも諦めきれずに希望に縋るような歌詞を、推しが、離れてしまったファンを想って書いたと言うんですか?

エグい。

そう思ったのは、自身が一度彼らから離れてしまった身であるからなのだろうか。

かつて「離れてしまっても戻ってこられるように、俺たちはずっと活動しているから」といったことを言ってくれていたKIKKUNさんの言葉が、いつしか「ずっと俺たちを追いかけていてほしい」といったふうに変化していることを、なんとなく感じていた。
その意味を理解できないほどの子供では、流石にもうなくなった。

社会は目まぐるしく変化を続けている。
インターネットはより多くのコンテンツで溢れ、あっという間に展開が終わってしまうものも少なくなくなったように思う。
そんな中で、15年間ずっと精力的に活動を続けてきた彼らの偉大さは、同じ年月で学校に通い、仕事に就いて辞めただけの若造には到底理解しきれないほどのものだろう。
それでもやはり、彼らが現実的な問題に直面することは増えたのだと思う。
昔FBさんが言っていた「サイボーグ化して500年活動を続けたい」という話を無邪気に信じることは、もう難しい。

正直、オタクとして飽き性かつ浮気性だという自覚はある。
いつか、KIKKUNさんが「嘆きの華」で歌ったような、遠く離れ届けたくても思うように想いを届けられなくなる存在に、自分もなってしまうかもしれない。
いつか、かつての自分の人生の様々なところを彩り、時に背中を押してくれた過去の思い出として、MSSPを定義して仕舞い込んでしまう日が来るのかもしれない。

でも、それでもなお、KIKKUNさんがファンと彼ら自身の幸せを語って、どうか着いてきてほしいと言ってくれるのなら。
MSSPが、これからもエンターテインメントの力で、こちらを笑顔にしてくれようとしているのなら。
やっぱり応えたいなあ、見ていたいなと、今は思うのだ。
私は、MSSPの物語の続きが気になってしまって、戻ってきた人間なので。

たとえ永遠に続く物語ではなくても。
彼らの輝きを、焼き付けるために、できる限り見続けていよう。
全部は無理でも、後悔しないぐらいには。

10年分でも15年分でも、思い出にしてしまうのはまだ早い。
私の人生の半分近くがMSSPと共にあったのなら、まだこの先も。
走り続ける人生の隣に、どうか照らしてくれるMSSPの存在があらんことを。
そしてどうか、彼らが走りたいところまで走ることができますように。

10年目のオタクは、そう思いました。


文章がまとまらないうちに時間が経ってしまい、普通に配信ライブも見てました。最高でしたね。
ありがたいことに武道館ライブのチケットも入手できました。とりあえずはその日を楽しみに、勉強と転職活動を頑張りたいと思います。

意味深ドーナッツに導かれし新CDなど、武道館までに楽しみなことも盛りだくさん。彼らが精力的に活動しているのをひしひしと感じます。
MSSPが見せてくれる景色に、これからも夢を見ながら。


追記

一瞬エイプリルフールのせいで混乱しちまったぜ……
様々な悲しみも苦難も抱えて、それでも前へ前へと進んでいく姿を描いたような、素敵なMVでした。

紫色のチューリップ
愛をありがとうМSSP。

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