落語のアウストラロピテクス

なにかが「歩き出す」瞬間というのは、実にドラマティックである。
クララが車椅子から立ち上がる場面は「アルプスの少女ハイジ」におけるクライマックスであると言えるし、生まれたてのヌーがぶるぶると震えながら歩き出す映像がTVに流れるとつい食い入るように見てしまうし、孫の初めての歩行を前にホームビデオカメラを回さない祖父などいない。いままで歩いていなかった者が「歩き出す」瞬間には、ある種の感動がついてまわるのである。

さて、2019年の1月。私は製作スタッフとして、『おばけのゆびさき』と銘打ったライブを敢行する。ナツノカモという役者によるひとり舞台である。
このナツノカモ、なかなかに珍妙な道筋を経てこれまでを生きてきた男だ。

元々、「立川春吾」の名で落語家として活動していた彼。新進気鋭の二つ目として多くの期待を寄せられていたのだが、ある日、座布団の上から忽然とその姿を消してしまう。どこだ、どこに行ったのだ。周囲はざわめいたが、行方は杳として知れず、まるで亡霊のような存在となる。
そして時は流れて4年後、昨年の秋。突然のアナウンスが流れる。都内の小さな劇場で、「ナツノカモ」と名を変えた彼が、久々の公演を打つというのだ。周囲はまたしても、ざわめいた。
おばけとなった彼は、座布団の上でいったいどのような噺をやるのだろう。期待と不安を胸に、おそるおそる、私は客席に着いた。暗い舞台に、ほのかな明りが灯る。
そして、衝撃が走った。
彼は、座布団に座っていなかったのだ。ナツノカモは、自身の編んだ噺を、見事なまでの直立姿勢でもって語っていたのである。
なんなのだ、これは。我々はいま、なにを目撃しているのだ。
それをひとり芝居と呼ぶには、あまりにも落語の影が濃い。しかし、立って演じているのだから、落語の範疇からは大きくはみ出してもいる。
ああ、そうか。私は客席で静かに確信した。
いま目の前にあるのは、落語がつかまり立ちをした瞬間であり、同時に演芸の地平が新たに切り開かれた瞬間でもあるのだ。ナツノカモは、亡霊となり、「これ」を見つけてしまったのである。
そういえば亡霊には脚がないのだから、立つとか座るとかは、もう関係なかったのだろう。

ナツノカモが発見したこの手法をさらに一歩、前に進めてみようという試みが、今回のライブ『おばけのゆびさき』だ。
用意されたのは、イラストレーターの死後くんによる三枚の絵画。そこからナツノカモが順に三つの噺を紡ぎ、未踏の世界に向かって歩を進めていく。
これはつまり、つかまり立ちの状態から、ついに落語が二足歩行を開始する瞬間なのである。

死後から始まる、立体のライブ。ホームビデオカメラを目の奥で回しながら高覧いただければ幸いだ。

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ナツノカモ・アンソロジーライブ#1
「おばけのゆびさき」

ひとり芝居/作・演出・出演
ナツノカモ

絵画
死後くん

演奏
太田光昴

日時
2019年
1月9日(水)1st 開演 19:30
※アフタートークゲスト:今泉力哉(映画監督)

1月10日(木)2nd 開演19:30
※アフタートークゲスト:大北栄人(明日のアー主宰)

1月11日(金)3rd開演19:30
※アフタートークゲスト:平井まさあき(男性ブランコ)

●開場・受付開始は開演の30分前です。
●未就学児の入場はご遠慮いただきます。
●公演は約80分を予定しております。

会場
パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』
〒162-0801
東京都新宿区山吹町361 誠志堂ビル1階
(有楽町線「江戸川橋」駅 徒歩2分/東西線「神楽坂」駅 徒歩9分)

チケット料金
全席自由席
前売り 2500円/当日 3000円
※当日券は開演の60分前に受付にて販売いたします。

チケット予約先
http://481engine.com/rsrv/webform.php?sh=2&d=b093430422

スタッフ
照明:寺田悠太
照明補助:飯塚うなぎ
宣伝美術:太田藍生
製作:ワクサカソウヘイ

詳細は→ツイッターアカウント@natsunokamo
お問い合わせは→natsunokamolive@gmail.com


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ワクサカソウヘイ

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