ブタゴリラ、下から見るか?横から見るか?

『キテレツ大百科』のことを、ふと思い出した。

私と同じ世代であれば、必ず一度や二度は触れたことのある、藤子・F・不二雄の作品である。若い世代であっても、タイトル名くらいは聞いたことがあるだろう。
漫画作品である『キテレツ大百科』だが、私にとって馴染み深いのはアニメシリーズのほう。夕方、学校から帰ってきてテレビを点けると、なんとなーく放映されていて、それをなんとなーく観ていた、みたいな記憶がある。最終回を迎えることを知った時は軽く慌てたが、日常から『キテレツ大百科』が無くなっても結局、困るようなことはなかった。つまり、地元のゲオみたいなアニメであったともいえる。

調べてみたら漫画のほうはたった三年間の短期連載だったのにも関わらず、アニメのほうは八年間にも及ぶ長期放送だったらしい。つまり、アニメ版はほとんどがオリジナルストーリーだったのだ。
で、このアニメ版『キテレツ大百科』のことを、惰性の日々の中でぼんやりと思い出しているうちに、なんだか妙な気分になっている自分がいた。

よく考えたら、『キテレツ大百科』の登場キャラクター構成は、不思議な歪みをたたえている。

それは『ドラえもん』の登場キャラクター構成にパッと見は似通っているが、まず決定的に違うのは主人公のスペックだ。のび太が「とにかくダメなやつ」なのに対して、『キテレツ大百科』の主人公であるキテレツは大天才。ありとあらゆる発明品の製作をひとりでこなす。パートナー的存在であるコロ助も彼の発明品であるわけだが、このコロ助はドラえもんと違って、特にキテレツをサポートしたりはしない。ただキテレツの周りで語尾に「ナリ」をつけて、チョロチョロしているだけである。

だが、まあ、キテレツもコロ助もキャラはなんとか立っている。彼らは見逃すとして、問題は周りを取り巻く級友たちである。

まず、ヒロイン的存在である、みよちゃん。彼女、よく考えるとヒロインとしての器がまったくない。しずかちゃんに代表されるように、ヒロインは主人公の男性に対して常に課題を与える「ミッションガール」であることで、その物語内での役目を果たすのが通例である。ところがみよちゃんは、特にキテレツに課題を与えたりはしないのだ。彼女は、キテレツの近くでただふわっと漂っているだけ。キテレツは彼女のいったいどこに魅力を感じているのか、まったくのミステリーである。

それから、トンガリ。彼は一応「お金持ちの息子」「マザコン」という設定を与えられているので、スネ夫然として佇んではいるが、特にサブ悪役としての仕事をしているわけでもなく、なんかキテレツにたまに甘えたり、思い出したように媚びたりするといった、「小型犬でもできるぞ、それ」みたいな中途半端なポジションに収まっている。

あと、勉三さん。キテレツの家の隣に住む浪人生なわけだが、彼は友だちが小学生しかいない。シンプルにヤバいだろう、それ。

そんな不可思議な登場人物群の中で、特筆すべきはブタゴリラだ。
ブタゴリラは、恰幅の良い、ガキ大将的なビジュアル。だとすれば当然、ジャイアンと同じくヒール役を演じているのだろう、と思いきや、なんとブタゴリラは「ちょっとめんどくさいやつ」という領域内で満足している。そう、恐るべきことにブタゴリラは「周りに少しだけ迷惑をかける、なんか若干空気が読めないやつ」という、実につかみどころのないキャラクターで、八年間という放映期間を走りきったのである。

『ドラえもん』の登場人物たちが全員キャラ立ちしているのに対して、『キテレツ大百科』の者たちの、この中身の無い感じは、いったいどうしたことだろう。なんというか、『ドラえもん』の天ぬき、もしくは肉吸い状態。はっきり言って、薄味のキャラばかりで、ドラマ性が完全に欠如している。それなのに八年間も続いたという奇跡。謎だ。実に、謎である。

だが、こうも思う。『キテレツ大百科』にあったのは、圧倒的なリアリティだったのではないか、と。よく考えたら、私たちは少年少女だったあの頃、確実に「何者」でもなかった。ただただぼんやりと誰かのそばにいて、たまに甘えてみたり、時には中途半端に迷惑をかけてみたり。そしてまた、ボーっとしてみたり。そう、私たちはあの頃ずっと、なんとなーく日々を消化して、なんとなーく遊んだり、なんとなーくご飯を食べたり、なんとなーく『キテレツ大百科』を観たりしていた。
私たちは「何者」でもない、そんな日々を生きていたのだ。そしてそれは、だらしなくも、幸福な時間であった。
きっと私たちはあの頃、ブラウン管の前で「キテレツ大百科」の登場人物たちのスッカスカな佇まいに、無意識のうちに共感していたのではないだろうか。

そんなことを、ボーっとしながら、考えたりした。

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『教職課程』という、教員採用試験を受ける人たちが読む雑誌になぜか連載していた『永久不滅の放課後』から、第一回目のコラムを加筆・再編したものです。マジで読者の方々からの需要を感じられない連載だったのですが、一年間も続いたという奇跡。『キテレツ大百科』よりも謎めいていました。

イラスト:死後くん

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ワクサカソウヘイ

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