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死神の一人称

古典落語に『死神』という演目がある。初代三遊亭圓朝がグリム童話『死神の名付け親』を翻案して創作した落語だと伝えられている。

『死神』の最初の場面は、こんな感じだ。

ひとりの男が自らの命を絶とうとしている。するとその男は、あばら骨の浮いた怪しげな老人に声をかけられる。
「誰だ、お前は」
男は老人に尋ねる。すると、このような返事がある。
「オレか、オレはな、死神だ」
老人の正体は、死神であったのだ。そして男はその死神から「死神を消し去る呪文」を授けられ、医者となり、金を稼ぎ、次第に自分を見失い、最後は自らの破滅を招く。これが『死神』のおおよそのストーリーである。

私が最初にこの演目に触れたのは、中学生の頃だった。学校の「古典芸能に触れる日」みたいな行事で、体育館に招かれた落語家がこの一席を演じていた。普段は騒がしい生徒たちも、息を飲んで『死神』の世界に取り込まれていた。
そんな中、私は死神が男の前に現れるシーンで、ちょっとした違和感を覚えた。それは「死神の一人称って、『オレ』なんだ……」というものであった。
死神の職務は、命を取り扱うものである。それはかなりデリケートなワークであるわけだから、およそ「オレ」などというぶっきらぼうな一人称は似つかわしくない。当時の私は、そんな風に違和感をよぎらせたのだろう。

しかし、じゃあ「死神の一人称」の正解ってなんだろう。
「私か、私は、死神です」
これでは、ちょっと仰々しすぎるきらいがある。
「ボクか、ボクはね、死神だよ」
これでは、あまりにもキッズ向けキャラクターだ。
「あっしは、死神でやんす」
これでは、本当に死神なのかどうかも怪しい。
「矢沢はね、死神だよ」
ダメだ。「矢沢」という一人称を使っていいのは、この世において矢沢永吉ただひとりだけである。

一人称というものは、その当事者のキャラクターを決定づけるものだ。
神と名乗りながら悪魔的な所業を行い、この世とあの世の狭間に現れる、座標の定まらない死神という存在。これにキャラクターを与えられるような一人称はきっと、明確には設けられていない。だから、苦肉の策というか、とりあえずのところでの、「オレ」なのだろう。

さて、ここにナツノカモという男がいる。
彼は元々、「立川春吾」の名で、プロの落語家として活躍していた。
しかしある時、彼は落語家としての道から離脱した。その理由はいつか彼本人の口から語られると思うのでここで記すことは避けるが、決して「落語」というものを諦めたとか見限ったとか、そういうことではない。むしろ「落語」を続けるために、彼は落語家を辞めたのだと私は解釈している。

そして、ここに「落語界」における、とある不文律が存在する。
プロの落語家を辞めた者は、基本的に落語をやってはいけないのである。早い話、アマチュアの落語家には戻れないのだ。落語のフォーマットやソフトは過去から連綿と紡がれたものだから、というのがざっくりとした根拠にあたる。いわゆる「道」の話だ。
で、ナツノカモという男は、「落語家」こそ諦めたが、「落語」そのものを諦めたわけではない。
だから、ナツノカモはプロでもなければ、アマチュアでもない、いわば座標の定まらない、死神のような存在になってしまった。

ナツノカモはそれから、「立体モノガタリ」というジャンルを立ち上げた。
簡単に言ってしまえば、二本足で立って「落語的」なものを演じるという形式の演芸である。詳しくはこちらの記事を読んでいただきたい。

もうプロの落語家として座布団に座っていけないのなら、自分でジャンルを立ち上げて、そのジャンルのプロとしてお客さんの枕元に立ってしまえばいい。ナツノカモという死神が出した答えは、つまりそういうことであった。

そしてこの夏の終わりに、そのナツノカモの「立体モノガタリ」ライブが開かれる。
タイトルは『死神の一人称』。
イラストレーター・死後くんが用意した三つの絵画から、ナツノカモが三本の物語を紡ぎだす。今回は古典落語『死神』を「立体モノガタリ」的に解釈した演目も披露される。

これは、「落語界」のこの世とあの世の狭間に現れた、新たな一人称を探すためのライブである。

アフタートークゲストには九龍ジョー氏・川田十夢氏・阿部広太郎氏を招いて、非常に豪華である。8月24日(土)は京都の恵文社で、8月30日(金)~9月1日(日)は東京のアーツ千代田3331で上演します。

私か、私は、制作統括をしている。是非遊びに来ていただきたい。

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ナツノカモ・アンソロジーライブ#2
「死神の一人称」


作・演出・出演 ナツノカモ

絵画 死後くん  演奏 太田光昴

京都公演
会場/恵文社「COTTAGE」(京都市左京区一乗寺払殿町10 恵文社一乗寺店 南側)
日時/2019年8月24日(土)  開演 18:30  

東京公演
会場/アーツ千代田3331・B104( 東京都千代田区外神田6-11-14 )
日時/2019年
8月30日(金)1st 開演 19:30  ※アフタートークゲスト:九龍ジョー(ライター・編集者)
8月31日(土)2nd 開演19:30 ※アフタートークゲスト:川田十夢(開発者・AR三兄弟)
9月 1日(日)3rd開演14:00 ※アフタートークゲスト:阿部広太郎(コピーライター・作詞家)

●開場・受付開始は開演の30分前です。
●未就学児の入場はご遠慮いただきます。
●公演は約80分を予定しております。


チケット料金
全席自由席
前売り 2500円
当日 2800円
※当日券は開演の60分前に受付にて販売いたします。

チケット予約先
京都公演
http://481engine.com/rsrv/webform.php?sh=2&d=05944cf675

東京公演
http://481engine.com/rsrv/webform.php?sh=2&d=af52f38ede


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ワクサカソウヘイ

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