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【インタビュー】枝優花 日本映画は生き延びうるか――『少女邂逅』とポスト平成の映像クリエイション(後編)

今朝のメルマガは、映画監督・枝優花さんのインタビューの後編です。YouTubeで配信されている『少女邂逅』のスピンオフドラマ『放課後ソーダー日和』に込められた工夫や、日本映画が海外の市場で戦うために欠けているもの、次回作以降に取り組みたい試みなどについて、お話を伺いしました。(構成:米澤直史)※前編はこちらから

▼作品紹介

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『少女邂逅』
監督・脚本・編集:枝優花
主演:保紫萌香、モトーラ世理奈
あらすじ:いじめをきかっけに声が出なくなった小原ミユリ(保紫萌香)。自己主張もできず、周囲にSOSを発信するためのリストカットをする勇気もない。そんなミユリの唯一の友達は、山の中で拾った蚕。ミユリは蚕に「紬(ツムギ)」と名付け、こっそり大切に飼っていた。「君は私が困っていたら助けてくれるよね、ツムギ」この窮屈で息が詰まるような現実から、いつか誰かがやってきて救い出してくれるーーとミユリはいつも願っていた。
ある日いじめっ子の清水に蚕の存在がバレ、捨てられてしまう。唯一の友達を失ったミユリは絶望する。その次の日、ミユリの通う学校に「富田紬(つむぎ)」という少女(モトーラ世理奈)が転校してくるーー。

▲『少女邂逅』予告編

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ミレニアム世代の映像消費と映画の可能性

――『少女邂逅』と世界観を共有するスピンオフ的なミニドラマ『放課後ソーダー日和』がYouTubeに公開されています。この作品が作られた経緯はどのようなものでしょうか?

 『放課後ソーダ日和』が公開されているYouTubeチャンネル「AlphaBoat Stories」は、住友商事とAsmic Acenの企画で、最初は『少女邂逅』とは特に関係なく、YouTubeでウェブドラマをやらないかというお話をいただいたところからスタートしました。ドラマは正直、全く興味がなかったのではぐらかしていたんですが、放映時期が『少女邂逅』の本格的な上映時期と近いことが分かって。また去年、『少女邂逅』を一部の劇場で先行公開したときに「クリームソーダが美味しそうだった」という感想が予想以上に多かったので、『少女邂逅』のプロモーションも兼ねて、クリームソーダが美味しい喫茶店を巡るというドラマになりました。一話10分なので観ても特に人生は変わらない。けれど「この店、行ってみたい!」という気持ちになれる作品を目指しました。

▲『放課後ソーダ日和』第1話

――『放課後ソーダ日和』はソーシャルメディアでもたくさん拡散されています。普段映画を観ない若い人たちへのアプローチとして、どのような工夫があったのでしょうか?

 『少女邂逅』のプロモーションとしか考えていなかったので、とにかくわかりやすい作品にしました。例えば長回しはやってませんし、登場人物の心の声を全てセリフにしちゃっています。撮影監督は『少女邂逅』と同じ子なんですが、自分たちのやりたいことは押し殺して、若い子がスマホで見て飽きないものをつくろうという話をしました。全9話の中で、第5話くらいまでは観やすい内容にして、その後でだんだんカット割りを減らしていく。観ているうちに映画的な1カットの映像に慣れさせるという隠れた試みがあります(笑)。

――ストーリーも、途中から食レポのパートが減ってドラマが展開してきましたよね。

 大人はこの作品を観て立ち止まって人生を考えることはないかもしれないけど、10代には刺さるものをつくりたいという思いはありました。作品の大きなテーマとしては「いつか終わってしまう時間」という結構残酷な主題を扱っていて、「この時間は永遠には続かないけれど、その上で君たちはどうするの?」ということを投げかけています。そのいつか終わってしまう時間を、いつか溶けてしまうクリームソーダと掛けているので、そこがうまく伝わるといいなというか。

――『放課後ソーダ日和』はコメディ調で、シリアスな『少女邂逅』と作品の方向性が全く違いますが、そのギャップに難しさはなかったのでしょうか?

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