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MaaSの正体 | 井上岳一

宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。1月29日に放送されたvol.20のテーマは「MaaSの正体」。日本総研の井上岳一さんをゲストに迎え、海外で運用が始まっているMaas(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実例と今後の可能性、そして日本でのライドシェアとも合せた導入までのハードルについてお話を伺いました。(構成:籔 和馬)

宇野常寛 News X vol.20 「MaaSの正体」
2019年1月29日放送
ゲスト:井上岳一(日本総研)
アシスタント:大西ラドクリフ貴士

MaaSが都市生活にもたらす移動の自由

大西 NewsX火曜日、今日のゲストは日本総合研究所創発戦略センター シニアマネージャー、井上岳一さんです。井上さんの専門分野は地域社会デザインの研究。その中でも、次世代交通に注目して活動していらっしゃいます。

井上 僕は元々農林水産省にいて、ずっと田舎の問題をやっていて、交通の専門家では全然なかったんです。この国のいろんな場所に人が住める社会をつくりたいなと思っていたとき、足(交通)の問題があって、自動運転に取り組み始めたのが5年前です。たった5年間の活動で、自動車の素人の僕が『MaaS』という本を書いたりできるのは、それだけ今の自動車業界が大きく変わっているんだと思うんですよね。今日はそのことについて話したいと思います。

大西 そして、今日井上さんとともに考えさせていただくテーマは「MaaSの正体」。

宇野 井上さんが先日出版された『MaaS』という本を、僕も通読させていただいて、非常に勉強になりました。今、都市開発や次世代交通を考えたときに、「MaaS」はある種のバズワードとして、メディアによっては見ない日がないくらいだと思うんですよ。実際にMaaSがどのように進行していて、将来的にどういう存在になっていくのかという具体像を描ける人って意外といないと思うんですよね。なので、今日は井上さんにあらためてMaaSについてレクチャーしてもらいながら、これからの都市生活がどうなっていくのかという話をあらためてしたいと思っています。

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▲『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

大西 では、今日もキーワードを三つ出していきます。まず一つ目のキーワードは「MaaSとはなにか」です。

宇野 最初にMaaSとはなにかをしっかりと視聴者のみなさんと共有した上で、議論に入っていきたいので、井上さん、教えてくださいコーナーから入っていこうかと思います。

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井上 こちらの図をごらんください。従来の交通サービスでは、ユーザーが真ん中にいて、いろんな交通サービスを使っています。最近はカーシェア、配車サービス(ライドシェア)、自転車シェアのような新しい交通サービスも増えてきました。今はこういうものを個別に予約したり、決済したりして使っています。これがMaaSになると、スマホひとつあれば一括して予約から決済までできるようになるんですね。MaaSはモビリティ・アズ・ア・サービスという意味です。モビリティは「移動できること」で、車という意味ではありません。モビリティをサービスとして使う。スマホひとつあればどこにでも行ける、どこでもドアを手に入れたのと一緒だぜ、というのがMaaSになります。こういうものが最近流行っています。まず、これが基本ですね。

宇野 Googleマップで路線検索をすると、電車やタクシーなど用途に合わせて、いろんな交通手段が出てきますよね。徒歩で行くと40分、車で行くと20分、電車で行くと15分とかね。ああいうものの超ウルトラパワーアップバージョンですよね。

井上 そういうものが路線検索だけじゃなくて、たとえば、予約や決済などもできるようになる。ちょっと見てもらいたい動画があるんです。

井上 これはドイツ鉄道がやっている「Qixxit」。MaaSアプリなんですけれども、非常にわかりやすくなっています。スマホひとつあればどこにでも行ける。今の場所からどこかに行きたいときに、一秒あれば、行くための方法がわかる。友達のところに行きたいんだったら、友達を目的地指定の枠に乗せれば、そこに行くための交通手段が出てくる。交通手段だけだったら、今のジョルダンやYahoo!やGoogleでもできるんです。でも、Qixxitはユーザーインターフェースが非常にわかりやすいし、画面の下に価格も出ていて、予約・決済ができるんだよね。その予約・決済も、タクシーと鉄道を別々にやるんじゃなくて、一括して予約ができるようになっています。この、決済までできてしまうというところが、MaaSのひとつの特徴になっています。

井上 MaaSは2014年頃から言葉としては使われ始めるんですが、2016年にフィンランドで「Whim」というアプリが出てきて、これで一気にバズりました。ユーザーインターフェースとしてははさっきのドイツ鉄道のほうがよくできていて見やすいのですが、検索ができて、いろんな交通サービスが選べるという基本の点は変わりません。では、何が新しいかというと、Whimの最大の特徴は「定額制」を導入したことです。月額499ユーロでヘルシンキ市内の公共交通に乗り放題。タクシーも1回5キロまで乗り放題。月額の定額のプランを買っておけば、定期のように見せるだけでなんにでも乗れる。スマホひとつあれば、なんでもできるというものなんですね。

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井上 実はMaaSの定額制は、インターネットのアナロジーとして構想されたものです。昔のインターネットはモデムで接続している間だけウェブが見られる。その接続時間に課金されていて、最初は従量制だったものが、ブロードバンドになって定額制になった。そうすると様々なコンテンツがパッケージ化されて、AmazonやGoogleなどが出てきて、現在のインターネットのようになっていったんです。同じようなことが交通サービスでもできないかということで、定額制というサブスクリプションモデルを取り入れたのが、モビリティ・アズ・ア・サービスの特徴になっているんですね。

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