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みんなで話し合って決めようの消極性デザイン | 西田健志・消極性研究会 SIGSHY

消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。前回に引き続いて西田健志さんの寄稿です。話し合いへの参加を最初から諦めてしまう「消極的」な人々は、どうすれば大規模な集団の議論に参加できるのか。西田さんが考案した、1対1の「小さな議論」の勝者がトーナメントを勝ち上がる「トーナメント型議論システム」を紹介します。

消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。
第8回 みんなで話し合って決めようの消極性デザイン(西田健志・消極性研究会 SIGSHY)

消極性研究会の連載、前回に引き続き西田健志が担当させていただきます。

前回は、P10の消極性研究会座談会や「遅いインターネット計画」に触れながら、消極的な人たちでも発言しやすく、落ち着いた言動でも注目されやすい環境をデザインすることができれば、乱暴な言動で注目を集める必要性や免罪符がなくなって建設的なコミュニケーションの場をつくることができるのではないかとの立場を表明しました。そして、そのための消極性デザインの一例として傘連判状を採り入れたチャットシステムを紹介しました。

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▲『PLANETS vol.10

傘連判状は、言いたいことがあるけど言えないでいる人たちにあと一歩の勇気と少しの発言力を与える消極性デザインで、学会や企業、オンラインサロン内のコミュニケーションなどには効果的なのではないかと考えています。しかし、より大規模な国家~地球レベルの人数を相手取るにはやや心もとないところがあります。

Twitterで何万いいね集めたとしても、Change.orgで何万もの賛同を集めたとしても、デモに何万人集まったとしても、それよりも桁違いに多いその他大勢を動かすには至らない少数派。そうして量産される消耗品のように流れていく主張の数々を眺めていても無力感に苛まれることなく真っ当に主張を続けよう、議論を続けようとするのはよほどのエネルギーの持ち主だけでしょう。正攻法を諦めてダークサイドに落ちてしまうのも無理はありません。前編でも触れましたが、大勢の人がいると他人任せになって手を抜いてしまうSocial loafingの壁はまさに圧倒的なのです。

ここから紹介するのは、この壁に挑むことを諦めたくなかった消極的な割にわがままな私のいまだ成功を見ない長年の試行錯誤の跡です。もっとこうしたらいいのに、私ならこうするなどとじっくり考えながら読んでいただけますと幸いです。

「二人組に分かれてください」をドライに

「他の誰かががんばってくれるからいいでしょ」という気持ちで消極的になってしまうSocial loafingの解決に向けて私が最初に考えたのは、学校の授業などでよくやる「二人組に分かれて話し合いましょう」のパターンです。教室全体ではこっそりと発言しないでいた消極的な人も、二人組に分かれても黙っていたとしたら逆に余計に目立ってしまうので話始めることになるアレです。みなさんも経験したことがあるのではないでしょうか。

二人組に分かれて話すというプロセスを組み込んだコミュニケーションシステムを作れば、クラスやサークルなどで文化祭の企画や旅行の行き先など様々な話し合いの場面においてあまり意見しなかったような人からも意見を出してもらうことができるでしょう。インターネット上で利用することで、もっともっと大きな集団でのコミュニケーションで何かを決めなければならない政治などの場面においても、social loafingの解決にもつながるのではないかと考えました。
授業などでの二人組に分かれてと言われた過去の経験を思い出してとても嫌な気分になった人もいるかもしれません。誰とペアになろうかと考えているうちに一人取り残されてしまうという悲劇は考えるだけで恐ろしいものです。あるいは、ペアになった人と話がかみ合わなくてがっかりするということもあるかもしれません。

しかし、そこはコンピュータを利用して極めてドライに処理してしまうことによってかなり軽減できるものだと思います。ペアはランダムに決めてしまえばいいですし、話がかみ合わなければ相手を変えられるようにしてしまえばいいわけです。せっかく相手に歩み寄ろうしているのに相手から「チェンジ!」されたらショックだろうとは思いますが、そこは工夫次第でもっとドライにできるところです。

話し合いをトーナメントでしよう

分かれて話し合った後にはその結果をなんとかまとめたいところですが、その段階でやっぱり消極性が発露して他人任せになってしまうのではあまり意味がありません。

私が注目したのはトーナメントという仕組みです。トーナメントでは二者が対決し、その勝者が勝ち上がるというのを繰り返して、優勝者を決めます。最後まで二人組で話すことになるので勝ち残った人はずっとサボれません。

すべての参加者と対戦したわけではなくても、トーナメントの優勝者がそのとき最強だったということに異論をはさむ人はまずいません。話し合いもトーナメントにしてしまえば、何も言わないでいたくせに決まってから後で文句を言ってくるようなことはなくなるというメリットもありそうです。国家~レベルのコミュニケーションが主に結論に納得するために行われているものだとすると、決着のわかりやすさはとても大切です。

そんなことを考えながら開発したトーナメント型議論システムがこれです。

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▲トーナメント型議論システム

左側には対戦トーナメント表が表示され、右側にはテキストチャット画面が表示されます。真ん中にあるのはフォロワーと全参加者のリストです。リストには名前とステータスメッセージが表示されるようになっています。

話し合いの「勝ち」とは?

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