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社会が中央政府に蝕まれた今、わたしたちはいまだに何を恐れるのか|周庭

今朝のメルマガは、香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載「御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記」です。香港の国会である立法府へ議員を送り込むことに成功した周庭さんたちですが、議会では親中派による、香港独立を唱える議員たちの排除が行われていました。香港の政治状況と、周庭さんの戦いの“今”を語ります。
◎翻訳:伯川星矢

御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第2回 社会が中央政府に蝕まれた今、わたしたちはいまだに何を恐れるのか

わたしは今、「香港衆志」の選挙終了合宿に参加しています。この合宿の目的は、これまでの香港衆志の活動の反省とこれから備えることです。ここ数ヶ月の選挙戦から何を改善するべきか、そこで得られた反省を今後の活動にどのように役立ていくかが、重要なアジェンダとなります。

今年の9月4日に行われた、香港の国会にあたる「立法会」の選挙で、香港衆志の代表、ネイサン・ロー(羅冠聡)は当選を果たしました。しかし、これはゴールではありません。むしろ、過酷な道行きの始まりです。香港市民たちが自らの一票を、「民主自決」を掲げる香港衆志のネイサン・ローに入れたということは、わたしたちが香港の議会と社会に、新たな変化をもたらすことを期待しているということです。

みなさんは国会の政治家や政党について、どのようなイメージを持っているでしょうか。二枚舌とか? 表側は穏やかだけど裏側で権力闘争しているとか? 自分たちの利益のために動いているとか? 言うことばかり大きいとか? 選挙の前にだけ現れるとか? 多くの香港人はそのように思っています。
アメリカの人気ドラマ「ハウス・オブ・カード」は、まさにこういった政治家たちが、自らの利益を最大化するために、いかに政治権力や人間関係を利用しているかを描いた作品です。政治に興味ある方はぜひ見てみてください。おすすめです。

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▲ハロウィン街宣のときの様子

しかし、わたしたちが考えるべきなのは、こういった一般市民の政治家に対するネガティブな印象や、「政治家はこうあるべきだ」という先入観を、どうやって変えるのか、ということです。

わたしたちが政治に参加した目的は、わたしたちの望む社会の実現だったはずです。思い起こせば4年前、わたしたちは洗脳教育(愛国教育)に反対するために、街頭に宣伝スポットを設置したり、官僚の出待ちをしたり、デモを組織したり、できることは全てやりました。それに対して当時、多くの大人たちはこんな風に批判しました。

「中高生のあなたたちが、強大な中国共産党に歯向かっても、いいことは何もないよ。それよりも、家に帰って頑張って勉強して、いい仕事を見つける方が自分のためになるよ」

いいえ、違います。そんなのは間違っています。もし、この社会がより公平かつ公正で民主的であるべきだと思うなら。もし、政府の責任が市民の声を聞くことだと思うなら。もし、市民こそが社会の主体だと思うのなら。わたしたちはその信念を貫き通し、正しいことを求めるべきだと思います。
そして最終的に、わたしたちは政府に民意を示して、愛国教育を撤回させたのです。

みなさんもご存知の通り、私は日本のアニメやアイドル、J-POPやバラエティ番組に興味があります。毎日、仕事が終わってから、少しでも空き時間があれば、欠かさず番組DVDやライブ映像を観ています。
日本の歌の中には、自分の信念や気持ちを語っている印象深い曲が何曲もあります。例えば、欅坂46の『サイレントマジョリティー』という曲の中にはこんな歌詞があります。

声を上げない者たちは
賛成していると…

選べることが大事なんだ
人に任せるな
行動しなければ
Noと伝わらない
(サイレントマジョリティー/欅坂46)

この歌詞は、社会に関心を持つことや、自ら声を発することの大切さを物語っています。
香港にはこのような言葉があります。「沈黙を選べば、あなたも暴政の一味だ」。中国共産党の圧力を前に、もしわたしたちが自分たちの利益のために声をあげないままでいたら、最終的に苦しむのは自分自身を含めた、全ての香港人なのです。

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▲『進撃の巨人』が大好き。お気に入りはリヴァイ兵長

最近、香港の国会である立法会では、さまざまな事件が起こっています。
まずは、無投票で自動当選した親中派の議員が、イギリス国籍を所有している疑惑を晴らせないまま、同じ政権の議員たちによって立法会主席に選出されました。この主席には大きな権限が与えられていて、会期が始まってまだ一ヶ月にも関わらず、その権力を行使して民主派議員の批判の声を抑え込みました。

次に、中国からの独立を唱える本土派政党「青年新政」の議員が、宣誓時に「Hong Kong is not China」の旗を掲げたことと、「チャイナ」を「シナ」と発音したことによって宣誓無効が言い渡されました(※注1)。
その後、立法会主席から再宣誓許可をもらったものの、行政長官と律政司長(司法機関長)が三権分立の原則を無視し、立法会主席の裁決に対して司法審査を要請しました。さらに親中派は司法過程に入っていると称し、当該議員の宣誓中に集団退場して会議を中断させました。

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▲香港立法会のオフィスからのスナップ

「香港は三権分立である」。これは小学校の社会科目でも教わる基本的な知識です。しかし、行政機関を代表する行政長官が、立法会主席(立法機関)の裁決に対して司法審査を要請したのです。すなわち、香港政府と親中派の人々は、政治的に対立する意見(特に香港独立や民主自決など)を抑え込むためには、原理原則に逆らうことも辞さないということです。
その後、メディアのインタビューが司法審査について親中派に意見を聞いたところ、なんと「香港には三権分立がない」と言い出したのです。親中派が政権を擁護するために、これほどレベルが低い言い訳を口にしてしまいました。
現在、中央政府はこの件について、法解釈を変えて排除を強行しようとしているという情報が流れています。一国二制度(※注2)と香港の司法独立を侵害してまで、対立意見を封じ込めようとしているのです。この出来事は香港人に対する侮辱であり、香港人の尊厳を守るためには戦うしかないのです。

この記事を執筆した後で、私は他のメンバーと一緒にデモに参加し、全人代の法解釈に反対しに行きます。

何かを変える事が出来るのは
何かを捨てる事が出来るもの
何ひとつ《危険性》(リスク)等 背負わないままで 何かが叶う等……
(紅蓮の弓矢/Linked Horizon)

もし、公(おおやけ)の正義ではないものに直面したら、個人の利益を犠牲にすることを怖がらずに、抗ってください。日本の皆さんも、お互いに頑張りましょう。

(了)

※注1:香港では議会(立法府)に参加するにあたり、議員らは規則に従い「香港は中国の不可分の一部」と定めた香港の基本法を守ることなどを宣誓する。宣誓無効とされた議員2名は、その後、議員資格を剥奪された。(参照:香港独立派議員の宣誓問題、議員資格剥奪へ 中国が初の司法介入 | ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト

※注2:中国の一部でありながら、中国本土とは別の政治・経済体制を適用する制度。イギリスの植民地だった香港と、ポルトガルの植民地だったマカオが対象で、これらは高度な自治権を有する特別行政区として扱われている。

▼プロフィール
周庭(アグネス・チョウ)
1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。

前回:第1回 社会運動から見た香港の変化、そしてわたしの変化
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