周庭nt

スタンフォード大学での講演|周庭

香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常——香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。 今回は初めて訪れたアメリカで、スタンフォード大学でのイベントに参加しました。官僚との貴重な討論の機会となった本イベントでは、香港に関わる人同士の異なる意見がぶつかり合う場にもなりました。(翻訳:伯川星矢)

御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第16回 スタンフォード大学での講演

執筆の二週間前に、わたしはアメリカのスタンフォード大学の招待を受けるという幸運に恵まれ、民主主義論の第一人者である政治学者のラリー・ダイアモンド氏、そしてサンフランシスコ在住の香港経済貿易所所長と香港の政治情勢について話し合いました。わたしはアメリカに行くのは初めてで、正直なところ、渡航前はアメリカンサイズの食べ物くらいしかアメリカについてのイメージがありませんでした(笑)。

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十数時間飛行機に乗ってアメリカに到着すると(成田乗り換えだったので日本のお土産も買いました)、二人のスタンフォード大学の学生が迎えに来てくれました。二人ともスタンフォード大学香港学生の会(Hong Kong Student Association, HKSA)のメンバーです。アメリカの多くの大学では、香港人を主な構成員としたHKSAが組織されています。アメリカで香港人学生同士で知り合う場としての機能はもちろん、彼らはお茶会や、香港のポップスを歌うカラオケなど、香港文化のプロモーションも行っています。今回の香港政治に関するイベントも、スタンフォード大学HKSAの「広東語週」のイベントの一つです。

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わたしが一番驚いたのは、スタンフォード大学のHKSA会長は中華系の方ではなく、アメリカで生まれ育ったペルー人だったということです(一部香港の血が入っているそうです)。スタンフォード大学HKSAは他の大学とは異なり、 香港出身の留学生メンバーは多くありませんでした。会長ほど多文化を背景に持っている例は珍しいのですが、ほとんどの会員が中国系アメリカ人(American-born Chinese, ABC)で、あまり広東語を話せません。それでも、彼らは香港文化を愛し、香港で起こっている出来事にも非常に関心を持っています。

今回のイベントの中で、わたしは在サンフランシスコの最高級の香港政府官僚とディベートすることができました。これはとても貴重な機会です。香港にいても直接官僚と公開ディベートができる機会はほとんどありません。たとえ立法会で議員が官僚に質疑を投げかけても、本質からかけ離れた回答しか返ってきません。最近、香港教育局の指導指針で「広東語は方言であり母語にはならない」とされていたことが一部のメディアで報道され、社会で大きな議論と反発が起きています。それを受けて、民主派議員が立法会会議で行政長官キャリー・ラムに「あなたの母語はなんですか」と質問しました。しかし、返って来た答えは「そのようなくだらない質問には回答しません」でした。香港政府の官僚がいかに議会と市民を尊重していないのかがうかがえます。

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わたしは公開ディベートでこう話しました。香港人が立ち向かっている圧迫とは中央政府と非民主的な制度のみが影響しているわけではなく、権力を持つ様々な機関が結託し、利益を享受し合うことによって形成された巨大な権力構造も関連しています。このような強大な権力構造は香港人の生活を支配し、我々から「自主」を奪っていきます。民主は全ての複雑な社会問題を解決する魔法の薬ではありません。しかし、最も基本で重要なものではあります。なぜならそれは人としての権利と尊厳が守られている証になっているからです。

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予想通りではありましたが、経済貿易所所長は「民主自決」が基本法に違反しており、わたしの立法会選挙の立候補を却下した政府の判断が正しいという政府と同様の見解を繰り返しました。また、経済発展において、香港は依然として世界が中国にアクセスするための架け橋としての効果を大いに発揮していると述べていました。もちろんわたしはその考えには賛同できませんが、その場にいた観客(多くは香港・中国人学生)に二つの異なる立場がぶつかり合うところを見せることによって思考を刺激できれば、それはそれでとても有意義であると思います。

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イベントの話から逸れますが、政府選挙主任が1月27日にわたしの選挙への立候補を拒否した件について、わたしは司法審査を申し出しました。勝率は予想できませんが、わたしは制度内にある全ての方法を使い、香港人に正義を示そうと思います。

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(続く)



前回:第15回 香港の未来のため、岐路に立つ民主派
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