『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)【毎月第2水曜配信】

本日は『中川大地の現代ゲーム全史』最終回をお届けします。〈拡張現実の時代〉にほぼ同時に登場した『妖怪ウォッチ』と『Ingress』。そして『ポケモンGO』を機に両者の感性が合流していく先のゲームの未来を展望します。
さらに、約3年に及んだ本連載をまとめた書籍版『現代ゲーム全史〜文明の遊戯史観から』が8月24日に発売されます。そちらもお楽しみに!


▼執筆者プロフィール
中川大地(なかがわ・だいち)

1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。

第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き

2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(8)

前回:位置情報ゲームの展開と『Ingress』(中川大地の現代ゲーム全史)

■『妖怪ウォッチ』が継承した古層

 『Ingress』の登場で世界中の先覚的な大人たちがエージェントに覚醒し、それまで人類が感知できずにいたスピリチュアルなエネルギー物質をめぐって目には見えない世界での競争と協調に東奔西走しはじめていた頃、日本の子供たちもまた不可視の存在とのコミュニケーションを可能にするウェアラブルデバイスがもたらしたブームに熱狂していた。2013年夏にニンテンドー3DS版の第1作ゲームが登場し、「月刊コロコロコミック」でのマンガ連載や翌14年から放映開始されたテレビアニメとのクロスメディア展開により、同年最大のヒットコンテンツとして一世を風靡した『妖怪ウォッチ』である。

▲『妖怪ウォッチ』(レベルファイブ 2013年)(出典

 その名の通り、普通の人間には見えない妖怪の姿が見えるようになるレンズの付いた不思議な腕時計を題材にした本タイトルは、同様の手法で人気を博した超次元サッカーRPG『イナズマイレブン』(2008年)、メディアのみならず劇中に登場するホビーロボのプラモデルとの連動を目玉としたプラモクラフトRPG『ダンボール戦機』(2011年)と、携帯機用ゲームソフトを核に同様のクロスメディア型コンテンツを成功させてきたレベルファイブによる、第3の児童向けシリーズにあたる。
 ローティーンの少年主人公が、様々なキャラクターやギミックを収集・育成してチームデッキを組み、死には至らないバトルを繰り返しながらストーリーを進めていくというコレクション型RPGとしての基本骨格は、前2作とほぼ変わるところはない。『妖怪ウォッチ』が注目を集めたのは、その同工異曲の意匠替えとして、使役ユニットに何百種類もの愛らしいオリジナルのイマドキ妖怪を据えた題材選択の傾向が、こうした児童向けコンテンツ手法の元祖にして王者にあたる『ポケモン』の地位に真っ向から挑む格好になったことが大きい。事実、ビジネス系のメディア等では、両作の看板マスコットである地縛霊猫妖怪「ジバニャン」と電気鼠「ピカチュウ」を並べながら、『妖怪ウォッチ』の『ポケモン』超えの可能性を取り沙汰するといった論調の報道も散見された。

 『妖怪ウォッチ』が『ポケモン』と大きく異なっていたのは、子供たちへの人気の核になったプロダクト展開として、劇中で妖怪ウォッチを通じて発見した妖怪を仲間にすると手に入るという設定の召喚アイテム「妖怪メダル」が実体玩具としても発売された点である。玩具の妖怪メダルにはQRコードが付されており、これを3DSで読み取るとゲーム中で新しい妖怪を入手できる「妖怪ガシャ」を回せるコインが得られたり、別途発売の「DX妖怪ウォッチ」にセットしてゲームやアニメと同じ妖怪種別の召喚ソングや登場ボイスが再生されたりと、劇中世界と現実空間での体験性をリンクさせるようなプレイバリューが盛り込まれていた。この仕掛けが大当たりし、かつての「たまごっち」などのブームを彷彿とさせる人気の爆発で、全国的な品薄状態がさらに話題性を煽るといった光景が繰り広げられたのである。
 このようなデジタルゲームと実体玩具との重ね合わせによって表現されようとした『妖怪ウォッチ』の世界観は、言ってみれば人々が〈拡張現実〉的なテクノロジーを用いて、「どんなふうに現実を拡張したいのか」あるいは「何を見たいと思っているのか」の欲望の具体像を、きわめてベタなかたちで呈示したものだとも言えるだろう。すなわち、日本の妖怪ファンタジーの定型として連綿と受け継がれてきた「子供の時にだけ見ることができた不思議なものとの出会い」。そのテクノロジカルな道具立てとして、いわば全感覚ARデバイスとしての妖怪ウォッチが造形されたわけである。

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