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遠隔医療は社会をどう変えるか | 武藤真祐

宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。3月12日に放送されたvol.26のテーマは「遠隔医療は社会をどう変えるか」。株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐さんをゲストに迎え、オンライン診療と患者の医療情報の共有がもたらす、新しいヘルスケアの可能性についてお話を伺いました。(構成: 佐藤雄)

NewsX vol.26 「遠隔医療は社会をどう変えるか」
2019年3月12日放送
ゲスト:武藤真祐(株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長)
アシスタント:大西ラドクリフ貴士

2018年、新たに保険適用となった「オンライン診療」とはなにか?

大西 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社インテグリティ・ヘルスケアの武藤真祐さんです。よろしくお願いします。まず武藤さんとインテグリティ・ヘルスケアという会社についてお聞かせ頂けますでしょうか。

武藤 私は循環器内科医で、心臓のカテーテルの治療とかをしていたんですけど、そのあとマッキンゼーというコンサルティング会社でコンサルティングをしていました。

宇野 ちょっと待ってください。お医者さんだったんですよね? で、マッキンゼー行くんですか。なぜですか?

武藤 当時、医療崩壊とか言われていて、医師は一生懸命働いているのに世の中からバッシングを受けているようなときで。それには何か構造的な問題があるんだろうなと思ってたんですけど、中に居てはよくわからなかったんで、一度外から見て問題解決とか少し勉強したら良いじゃないかなと思ってマッキンゼーに。

宇野 フラっと行くみたいに入れる会社じゃないように思いますけどね。

武藤 当時マッキンゼーでは専門家を採用する方針があって、医師もその一つでした。その流れに乗ったんだと思います。

宇野 マッキンゼーは何年居たんですか?

武藤 2年居まして、そのあと在宅医療のクリニックを文京区に立ち上げたのが2010年のことですね。東日本大震災があった2011年に宮城県の石巻にもクリニックを開設し、今では全部で5つのクリニックを運営しています。

宇野 武藤さんの病院が遠隔医療というテーマに携わっているのはどういう経緯なんですか?

武藤 医師をやっていると現場での課題というのが見えてくるんです。急性期の医療を10年、そのあとの10年は慢性期の医療、つまり在宅医療のクリニックをやってますので、外来や入院、在宅っていう医療の現場をそれなりに見てきたんですね。今の医療は良い面もいっぱいあるんですが、たとえば病院に行って医師と話をする時間ってほとんどないと思うんですね。

宇野 確かにないですね。「風邪だね、じゃあ薬出しておくね」とか。僕、喘息持ちなんですけど、「いつものね」みたいな感じで聴診器ちょっと当てるだけで総診療時間1分半みたいな世界ですね。

武藤 そのために患者さんはどのくらいの時間をかけているか考えると、病院に行って受付して、待って、診療を受けて、お薬もらって帰ってくると何時間もかかるじゃないですか。その割に医師が患者さんと接する時間は少ないですし、実は会って聞ける情報も本当に限られています。また患者さんには高齢の方も多いので、日常生活の中での症状など、いざ診察時には覚えてなくて、伝えていただけないこと多くあります。これは高齢の方のみならず、若い人でもうまく伝えることはとてもむずかしいものです。診察時に、治療に必要な情報をもっと聞けるような仕組みがあったらいいんじゃないかなって想いから、今で言う遠隔医療を2016年に始めました。

宇野 園田愛さんという方がインテグリティ・ヘルスケア代表取締役社長をされていて、彼女と僕は同じ勉強会で一緒になって、武藤さんや園田さんの取り組みを教えてもらったんですが、全然僕知らなかったんですよ。ここ1、2年で医療がこんなに動いてることを。そういうことも含めて今日はいろいろ勉強させてもらおうと思ってお呼びいたしました。

大西 本日のテーマはこちらです。「遠隔医療は社会をどう変えるか」。

宇野 このテーマってあまり報道されてると僕は思わないし、注視されてるとも思わないんだけど、実はこの先の僕らの社会や人生を考える上で、すごく大きい問題だと思うんですよ。まずは知るところから始めて、最終的には僕らの健康とか介護をどう捉えたら良いのかというところまで議論できたらいいなと思います。

大西 最初のキーワードにいきましょう。ひとつ目は「遠隔医療のいま」。

宇野 議論のベースになる基礎知識の確認に付き合っていただきたいと思っています。そもそもオンライン医療というものが今どのような状態なのか、というところから教えていただきたいんですよ。

武藤 まずは「遠隔医療」と「オンライン診療」って、それぞれどういうものなのか、っていうところから話を始めたいと思います。遠隔医療っていうと、「遠隔」なので基本的には医療が届きにくい離島の人とか遠く離れた所に住んでる人に医療を届けたいっていうコンセプトから始まっているんです。遠隔医療は20年くらい前からいろいろな試みがなされてきました。当初はたとえば看護師さんが大きなコンピュータを患者さんのところに持っていって、離れた都市部の病院から、先生がすごく遅いインターネット回線で「●●さん、お加減いかがですかー?」と診察をする、といったことからはじめていました。

宇野 やってたんですか。あんまりそれもわかってなかったです。

武藤 医師がほとんど居ないような場所にどうやって医療を届けるかっていうのは昔から課題で、ITをなんとか使おうという試みはあったんです。ただご存知のように回線も遅いし、やれることも限られていて。それがだんだんとインターネットが速くなって、スマホがあるような時代になってきました。定義の問題なんですけど、その中で遠隔医療は大きくふたつに分けられました。ひとつは医者と医者を結ぶ遠隔医療で、もうひとつは医者と患者さんを結ぶ遠隔医療となりました。
 医師と医師というのは例えばどういうものかというと、レントゲンを撮ったときに画像が出ますよね。その画像を診断する放射線科の先生が、日本全国どこにでも居るというわけじゃないんです。医師が少ない場所では画像をインターネットで共有して、都市部に居る専門医が診断して返す、という医師間での遠隔医療というのはかなり前から導入されていたんです。そして今回、医師と患者さんの間で、インターネットを通じての診療、いわゆる「オンライン診療」ができるようになったのが、2018年。初めて国で認められました。

宇野 僕も全然知らなかったんですけど、去年2018年がオンライン診療元年だったんですね。

武藤 2018年にオンライン診療をどう使ったらいいか、何をしてはいけないかという国のガイドラインが決まりまして、4月からはオンライン診療に公的保険が適応されることとなりました。実はこれは国の医療のIT化という大きな流れの一部なんですね。このあと2020年までに様々な医療情報をつなぐプラットフォームを作る計画が進められています。さらに医療でのAIの活用や、患者さんが自分の医療情報を保有できるようにするとか、医療のIT化をどんどん進めることとなっていて、オンライン診療はその中の最初の一歩という位置づけになるかと思います。

オンライン診療によって変わる医師と患者のコミュニケーション

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