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混沌を混沌のまま進化させたい! | 猪子寿之

今朝のメルマガは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる連載『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』の第9回です。今回は、5月27日に公開された新作「Graffiti Nature」について。この連載で話してきたことの集大成とも言える作品の内容とは、どんなものなのでしょうか。議論は近代の表現とは違う、人間のコントロールを離れて動きまわる作品の世界観が生む楽しさについて踏み込んだものとなりました。
◎構成:稲葉ほたて
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■3月からシンガポールではじめた常設展

猪子 今年の3月12日から、チームラボは、シンガポールの「アートサイエンス・ミュージアム」という場所で「FUTURE WORLD: WHERE ART MEETS SCIENCE」(以下、FUTURE WORLD)という常設展をはじめたんだよね。そこで5月27日に「Graffiti Nature」という新作を公開したので、今日はその話をするね。

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▲2016年3月12日より、チームラボは、シンガポールの「アートサイエンス・ミュージアム」で常設展「FUTURE WORLD: WHERE ART MEETS SCIENCE」をオープン。

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▲同年5月27日、同常設展にて新作「Graffiti Nature」を公開。

基本的には「お絵かき水族館」と同じで、お客さんにワニやカエル、蝶や花を描いてもらって、それをプロジェクションするものなの。
ただ、これまでの作品には、その作品が飾られる明確な「場所」があったんだけど、今回はその明確な範囲がないんだよね。特定の場所に絵が出るのではなくて、通路とか床とか「FUTURE WORLD」の全体の他の作品に使われていない場所に自分の描いた絵が出て行く。

宇野 面白いね。展示スペースの大きさはどのくらいなの?

猪子 「FUTURE WORLD」全体は、1500平米くらいだから、かなり広いんだよ。でも、現実的にはまだ「FUTURE WORLD」の真ん中辺り中心に広がっているんだけど、いずれ範囲を全体まで広げていきたいし、ミュージアムの外までも広げていきたい。

宇野 これって「Flutter of Butterflies Beyond Borders / 境界のない群蝶」みたいに、鑑賞者の振る舞いに反応するようになっているのかな。

猪子 そうだね。動物たちは基本的に、人にぶつかると逃げていくんだよ。でも例えば、じっとしていると、周囲に花が咲き始めたりして、逆に、踏むと散っていくの。花が咲くと、そこに蝶が集まってきて増殖し始めたりもするのね。つまり自分が描いた絵の蝶が増えていく。で、またその蝶を、カエルが食べて増殖する。食べられると自分の絵の蝶はいなくなってしまう。さらに同じように、そのカエルをトカゲが食べたりする。

宇野 その世界の中に食物連鎖があるんだね。この世界に存在するものは全部お客さんが描いたものなの?

猪子 クジラ以外の動物は、花も含めて全部そう。そうやって、自分の描いた絵が食物連鎖の中で捕食されることもあれば、繁殖することもあるわけ。たぶん僕は個体より、状態とか現象が好きなんじゃないかな。


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