猪子さん-01

みんなで「モノ」のなかに入ろう! | 猪子寿之

今朝のメルマガでは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる新連載第1回をお届けします! 題して『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』! 宇野常寛との対談形式での連載です。この第1回ではチームラボの2015年の作品群を振り返りつつ、これまでの代表作といえる「カラス」「メディアブロックチェア」の先にあるチームラボの今後の展開を猪子さんに語ってもらいました。
◎構成:中野慧
【お知らせ】
この連載が元となった猪子寿之×宇野常寛『人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界』が好評発売中です。

宇野 さて、今回からPLANETSのメルマガで僕との対談形式で、猪子さんの連載が始まることになりました。実はけっこう前から「猪子さん、うちのメルマガで連載してよ」というLINEを送ってたんだけど(笑)。

猪子 うん、既読スルーしてたんだよね……。それは、本当にごめん! ただ、やりたくないから既読スルーしてたってわけじゃなくて、ふとした時に「俺、なんか書きたいことあるかな?」とかいろいろ考えていたの。で、宇野さんから「猪子さんの好きなことをみんなに紹介していくのはどうだろう」と提案してもらったりもしたんだけど、そんなわざわざ書くことでもないだろうと思って。
 でも何年か前から、宇野さんにチームラボの作品を批評してもらったりすると、自分達が何となく無意識に「こういうことがやりたい」と思ってやっていることを論理的にしてもらったり、言葉にしてもらうことができて、それが超面白いなと思っていたのね。去年、チームラボはニューヨークのPace Galleryってとこで展覧会をやったんだけど、そのときに宇野さんに書いてもらった批評も超良くて。
 で、そんなことを考えていて……「いやでも待てよ、チームラボがこれからやりたいと思っていることを宇野さんに話してみて、そこで整理されたものをみんなに伝えていくってのもアリなんじゃないか?」「というか、連載の収録と称して宇野さんに相談に乗ってもらうのもいいんじゃないか?」という下心もあって、そういう会にしようと。それで突然やりたいですってLINEを送ったんです。

宇野 僕は猪子さんとはそれなりに長い付き合いだけれど、作家と批評家としてもう全力で向きあわなきゃいけないと思ったのは、実は去年チームラボが佐賀でやっていた大規模な展覧会を見に行ったときなんですよね。
 そこで、東京に戻ってから当時連載していた『ダ・ヴィンチ』で長めのエッセイを書いた。このとき僕が中心的に取り上げたのは、佐賀で展示していた「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点 - Light in Dark」と、「メディアブロックチェア」の二つだった。

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▲追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点 - Light in Dark参照


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▲メディアブロックチェア参照

(参考リンク)
・我々の身体を"マリオ"化する企て――チームラボ猪子の日本的想像力への介入(宇野常寛による批評)
・「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」(2014年11月29日〜2015年5月10日まで日本科学未来館で開催)

 このエッセイを下敷きにPace Galleryの展覧会に合わせた文章を書いて、さらにその邦訳を今年の日本科学未来館の展覧会での図録に載せてもらったのだけど、それは言ってみれば、チームラボのこれまでの仕事を総括する仕事だったと思うんですよね。だから今回の連載はどうせならチームラボが「これから」なにをするのかを話してみたいと思った。

■ 作品の「境界」をなくす――チームラボの2015年の作品群

猪子 うんうん、そうだよね。いまチームラボは色んな新しいことにトライしていて、まずはそれを読者の皆さんへの説明も兼ねて紹介してみたいと思います。
 まず、ちょうど今年の9月にロンドンのSaatchi Galleryってとこで「teamLab: Flutter of Butterflies Beyond Borders」って展覧会を行って、そこで公開した「Flutter of Butterflies Beyond Borders / 境界のない群蝶(以下、境界のない群蝶)」という作品があるのね。

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▲境界のない群蝶参照

 動画は1分ぐらいの短いものだからみんなにぜひ見てもらいたいんだけど、この「境界のない群蝶」って、「花と人、コントロールできないけれども、共に生きる - A Whole Year」や「増殖する生命 II - A Whole Year per Hour, Dark」といった他のディスプレイによる作品のあいだを蝶が飛んで行くというものなのね。

宇野 これは作品Aと作品Bの間を蝶が越境しているという理解でいいの?

猪子 そうそう。この作品でやりたかったのは「作品どうしの境界を破壊する」ということ。普通の絵とか彫刻だと作品の境界が「ここからここまで」と明確になっているけど、作品が物質から解放されていくと境界という概念すら今までとは違ったものになっていくんじゃないか、みたいなことです。
 次に紹介したいのは「世界は、均質化されつつ、変容し続ける」っていう作品なんだけど、これは宇野さん、見たことある?

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▲世界は、均質化されつつ、変容し続ける参照

宇野 鑑賞者が一個のボールに触ると色がどんどん変わっていくというものだよね。六本木ヒルズでやったやつだっけ。

猪子 うん、同じものだけど、本来はもう少し広いところでやるものとして作っているんだよね。このシリーズは、実は、2010年からやっていて、この映像は香港の美術館でやってたもの。一見ボールという立体物によって空間が埋められているように見えるけど、鑑賞者がボールを自由に動かして中に入っていくことができる。
 これは〈空間〉というものをどう考えるかという実験なのね。みんなが〈空間〉と言ったときに連想するものって、壁と床と天井があって、文字通りに中が「空っぽ」な場所で、人が通ったりすることができるものだと思う。で、その対義語として、彫刻のような〈立体物〉というものがある。〈空間〉は人が通れるし中に入っていけるけど、〈立体物〉は人が中に入っていくことができない。

宇野 なるほど、面白い。

猪子 だけどこの「世界は、均質化されつつ、変容し続ける」って、作品の構成要素であるボール(=立体物)が固定されていないから人は自由に移動できて、個々のボールが物理的に自由に動かされても、構成要素であるボールはネットワークで繋がりあっているから、全体としてはいつも同じように振舞って、結果的にこの空間全体が一個の作品になっているんです。
 さらに3つめ、「Floating Flower Garden – 花と我と同根、庭と我と一体」という作品があります。日本科学未来館でやった展覧会の後半で登場させたもの。

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▲Floating Flower Garden – 花と我と同根、庭と我と一体参照

 これは本物の生きている花で、最初は空間を全部埋めているんだけど、人が近づくとモーターで花が上に上がってその人中心に半球状のドームができて、花で埋まった空間の中を動いていけるようにしている。空間は一見埋まっているんだけど、自分中心に常に半球状のドーム空間ができるように花が移動していくから、作品の中に入っていくことができるのね。これも全体としては花で埋められた一個の作品になっている。

宇野 この花は会期中に取り換えたりしたの? 

猪子 いやいや、空気中の水分を吸って生きられる花を選んでいるのでそこは大丈夫。
 湿度はコントロールしなきゃいけないんだけどね。実際は触る人がいるから、取り替えたりしたんだけど。
 で、さらに「Worlds Unleashed and then Connecting」という作品があります。

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▲Worlds Unleashed and then Connecting参照

 これは器を置くと、そこの器に入っている世界観が外側に生まれていくというもの。例えばお茶碗から松が出ているけど、他の器から鳥が出ると、鳥が松に向かって飛んでいく。みんながいろんなところにいろんなものを置くことで、いろんな風景が動いていくようになっている。

宇野 これは実際にカフェとして使ったの?

猪子 この展示のときはテーブルの半分ではサーブして、もう半分では自由に遊べるようにしていた。同じ仕組みだけど、サーブだけにしちゃうと何時間も並ばなくちゃいけなくなってしまうからね。
 他にもたとえば、ちょうどこのあいだミラノ万博の日本館で公開していた「HARMONY」という作品があります。ミラノ万博では日本パビリオンがトップ3に入る人気だったのね。ホストのイタリアと、次の万博開催地であるカザフスタンと、日本! 特に日本は長蛇の列で何時間も待つような状態になっていた。

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▲HARMONY, Japan Pavilion, Expo Milano 2015参照

宇野 何で日本館がそんなに人気があったの? この展示のせい?

猪子 だってこれ、入ってみたいでしょ(笑)。
 この作品は、スクリーンが腰とか膝の上ぐらいの高さにあるんだけど、スクリーンを支える棒がやわらかいからどんどん中に入っていける。空間はセンシングされているから、人がいる場所からシーンが変わっていく。変な感じでしょ?(笑)
 最後に紹介したいのが、9月まで銀座のポーラミュージアムアネックスでやっていた個展で公開した「クリスタル ユニバース」という新作です。

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▲クリスタル ユニバース参照

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