落合陽一「デジタルネイチャーと幸福な全体主義」 第3回 デジタルネイチャー以後のサイバネティクス(前編)【毎月第1木曜配信】

今朝は落合陽一さんの『デジタルネイチャーと幸福な全体主義』の第3回の前編をお届けします。今回は、60年代にノーバート・ウィーナーが提唱した「サイバネティクス」の思想を、現代のテクノロジー環境に合わせながらアップデート。当時の研究者が予期できなかったインターネットによる大変革を踏まえながら、物質-実質・人間-機械の中間に生成される「新しい選択肢」=オルタナティヴについて論じます。

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▼プロフィール
落合陽一(おちあい・よういち)

1987年東京生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年より筑波大学に着任。コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を越えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。
音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」が経済産業省「Innovative Technologies賞」受賞,その他国内外で受賞多数。

◎構成:長谷川リョー

『デジタルネイチャーと幸福な全体主義』これまでの連載はこちらのリンクから。

前回:落合陽一『デジタルネイチャーと幸福な全体主義』第2回 デジタルネイチャー時代の『人間機械論』(後編)

■サイバネティクスが予期できなかったもの

第3回目のテーマは「デジタルネイチャーとサイバネティクス」です。前回まではノーバート・ウィーナーの『人間機械論』 を現代に読み替えながら、人間と機械の関係について論じてきましたが、デジタルネイチャーについての質問が多かったので、改めてこの概念の説明から始めましょう。

僕は1991年から20XX年までを、「ユビキタスコンピューティングの時代」と考えています。生活の中に多くのコンピュータが偏在(ユビキタス)するようになり、それらが背後でインターネットに接続されることで、人々は機械の存在を意識することなくIT技術の恩恵を受けられるようになる。近年、IoT(Internet of Things)と呼ばれ注目を集めている技術ですが、今後はユビキタスコンピューティングの「コンピューティング(comuputing)」の部分、つまり「どのように計算機を使っていくのか」という発想自体が、もっと違う世界観に移行していくのではないでしょうか。
これまで機械をはじめとする人工物は、自然(ネイチャー)とは全く異なった存在とみなされてきました。ところが、コンピュータが世界の全てを認識するようになると、人工と自然のさらにひとつ上位のレイヤーとして、自然・人間・コンピュータ・データを一元的に包括するような生態系を生み出します。それを僕は前著『魔法の世紀』の中で「デジタルネイチャー」と呼びました。
実は、デジタルネイチャーの前には、「コンピュテーショナル・スーパー・ネイチャー(computational super nature)」という呼称を考えていました。直訳すると「計算機による超自然」ですね。より詳しくいえば、「〈自然〉をより上位から俯瞰する計算機によって生み出された〈超自然〉」という意味です。現在は 「コンピュテーショナル」≒「デジタル」という使い方をされることが多いので、「コンピュテーショナル・スーパー」を「デジタル」という表現に集約しましたが、将来的には「デジタル」という言葉も消失し、「ネイチャー」という表現にすべてが回収されていくのではないかと考えています。

それでは前回の続きから始めていきましょう。まずはノーバート・ウィーナーの『人間機械論』のおさらいです。彼が提唱したのは、人間社会におけるあらゆる対象の行動は、「通信」と「制御系」に分けて捉えられるということです。たとえば、人間の腕は神経電位によって脳と繋がっていて、その伝達系統によるビジュアルフィードバックの制御でモノを掴むことを可能にしています。人間や機械に限らず、世の中のあらゆるものが、こうした通信と制御系のモデルで捉えられるのではないか、ということをウィーナーは1960年代に発表し、サイバネティクスという一大分野を築きました。
しかし、サイバネティクスの時代には、インターネットはまだ存在しておらず、それがウィーナーの発想の大きな制約となっていました。

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