宇野常寛『観光しない京都』第1回 鴨川で早朝ランニング/北大路で過ごす午後 【不定期配信】

本誌・編集長の宇野常寛の連載『観光しない京都』。隔週で京都へ出張している宇野が京都でどう「暮らし」、どう「仕事」をしているのか。滞在中の日課になっている鴨川の早朝ランニングや、北大路でのおすすめのランチスポット、午後の仕事をするカフェの様子をたくさんの写真を交えてご紹介します。
※前回の記事はこちら

隔週で京都に出張しています

 京都にちょくちょく足を運んで、一体何をしているのか——そう尋ねられると、僕はシンプルにこう答えます。「仕事をしています」と。

 僕が京都の美大で教えるようになってから、もう5年になります。なのでこの5年間は春学期(4ー7月)は隔週で東京から京都に出張して講義する、という生活を続けているので最低でも1年に8週は、つまり1年の週末の6分の1は京都に出張している計算になります。

▲京都精華大学。僕が2013年から非常勤講師を務めている大学。芸術、デザイン、マンガ、ポピュラーカルチャー、人文の5学部からなる。京都の町外れというか、ほとんど山奥にあるので通学はものすごく不便だが空気はうまい。

 僕は以前7年間京都に住んでいたこともあって、この出張のついでに観光しようとはまったく考えていませんでした。ただ、隔週で通っているうちになんとなく東京に戻りたくなくて、予定の許す範囲でそのまま京都に何泊かしていくことが多くなりました。
 もちろん、その間ただ遊んでいるわけではありません。ときどき、京都に住んでいた頃の友達とご飯を食べたりすることはありますが、僕はこうして出張ついでに何泊かしている間は基本的に仕事をしていることが多いです。

 僕の仕事のほとんどは物書きと、自分が立ち上げた小さな出版社の経営です。大学で教えることや、ラジオやテレビで話すことはほんの一部です。なので、僕の日常の大半はみなさんと同じようにデスクワークをして過ごします。ただ、ちょっと違うところがあるとすれば僕はフリーランスの物書きなので、ノートパソコンさえあればどこでも仕事ができることだと思います。誰かと打ち合わせたり、何かに出演したりする予定がない限り東京にいる必要がありません。

 最初はたぶん、単に東京の現実に戻るのが嫌だっただけなのだと思います。けれど、こうして何度か京都で過ごしているうちに、この京都という街がとても今の自分にとって普通に過ごしやすいことに気づきました。東京にいるときと同じように仕事をして、食事をして、散歩して、本を読む。そんな日常の舞台が京都に移るだけで、なんだかとても気持ちよくいられる。 気がつけばこの京都は、僕にとっていちばんしっくりくる「日常」を過ごせる場所になっていました。
 なのでここではまず最初に、僕が京都でどう「暮らし」、どう「仕事」をしているかを紹介していきたいと思います。 

朝は鴨川沿いをランニング

 僕が受け持っている大学の講義は朝の9時からの1限目です。なので僕は前日の木曜日の間に京都に移動して、一泊してから授業に行きます(そうしないと朝9時には間に合いません)。大学が用意してくれている宿は四条烏丸と烏丸御池の間くらい(京都の街のほぼ中心です)にあって、大学までは地下鉄とタクシーを乗り継いで40分以上かかります。授業の準備を考えると朝の8時には宿を出ていないといけません。それなりに早起きする必要があります。
 そこで、どうせ早起きしなければいけないのなら、と僕は考えました。
 どうせなら、思いっきり早く起きて走ってみようか、と。
 なので僕は授業の準備はなるべく新幹線の中で終わらせて、前日の木曜日の夜は早めに寝てしまうことにしています。そして授業のある金曜日の朝は5時半か6時に目覚ましをかけて、ランニングに出かけることにしています。
 僕は何年か前から趣味でランニングをしているのですが、朝の鴨川沿いは理想的なランニングコースの一つです。緑が多くて、起伏がなく、視界がひらけていて、そして少し走るだけでどんどん景色が変わるので、何度走ってもまったく飽きません。

▲鴨川
鴨川の土手。 やはり御池通より北側が走っていて気持ちのいいゾーンだと思う。ランニングの大敵は毎回同じコースを走ることに「飽きる」問題だと個人的には考えているが鴨川は何度走っても飽きない。

僕はいつも宿のある御池通りを東に入り、市役所前を走って御池大橋を渡ったところで鴨川に降ります。
 そしてそのまま鴨川沿いを北に走っていて出町柳の手前、今出川通の鴨川と高野川の合流点、いわゆる「鴨川デルタ」の手前……くらいまで本当は走りたいのですが、実際には丸太町通あたりで引き返し今度は川沿いを南下していきます。これでざっと30分から1時間くらいのランになります。朝の運動にはちょうどいい距離です。

 この時間(6時台)の鴨川沿いは、とても静かです。市内を走る鴨川は基本的にゆるやかな川なので、余計にそう思います。
 すれ違う人たちはランナーと散歩をしている人が半々。住んでいる人なのか、観光客なのかは判別がつきませんが、外国の人が多いのが特徴です。あと時々、夜通しで飲み明かしたと思われる大学生たちがぐったりとした、しかしなぜか何かをやりきったような顔をして歩いています。学生(市内人口の1割)と外国人がたくさん住んでいるのが、実は現在の京都の特徴です。
 ランナー同士は、通りすがりに挨拶を交わすこともあります。最初は少し恥ずかしいですが、すれ違いざまにちょっとした同志感を得るあの感覚はなかなか悪いものではありません。

 ちなみにこれが7時台になると鴨川沿いは少し賑やかになります。通勤、通学で川沿いを足早に歩く人や、自転車で軽快に走っていく人たちとたくさんすれ違っていくことになります。街中を走る鴨川の土手は、信号がなく自動車の走っていない便利な通勤・通学路でもあります。京都といっても当然のことですが名所旧跡や文化施設ばかりではありません。この街に暮らす人の大半は(僕たちがそうであるように)そういったものとは直接関係のない生活を送っている人が大半で、そんな彼らにとってこの街は日常の、生活の場です。

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