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宮藤官九郎(3)『三月の5日間』と『鈍獣』 | 成馬零一

ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。松尾スズキの漫画的方法論と、平田オリザの現代口語演劇は、2000年代以降、劇団☆新感線やチェルフィッシュといった劇団によって拡大・発展を遂げます。その二極化を象徴するのが、2005年に岸田國士戯曲賞を同時受賞した、岡田利規『三月の5日間』と宮藤官九郎『鈍獣』でした。

テレビドラマクロニクル(1995→2010)
宮藤官九郎(3)『三月の5日間』と『鈍獣』 成馬零一

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ドラマ評論家・成馬零一 最新刊『テレビドラマクロニクル 1990→2020』
バブルの夢に浮かれた1990年からコロナ禍に揺れる2020年まで、480ページの大ボリュームで贈る、現代テレビドラマ批評の決定版。[カバーモデル:のん]

90年台代小劇場演劇で起こった松尾スズキによる漫画的方法論と平田オリザの現代口語演劇の二極化は、演劇における方法論はもちろんのこと、劇団運営の在り方においても真逆の方向に発展している。

松尾スズキ率いる大人計画は、人気俳優を輩出し、宮藤官九郎がテレビドラマの脚本家としてブレイクすると共に人気劇団となり、次第に大所帯となっていく。小劇場からスタートした劇団が、公演ごとに大きな劇場で公演し、動員人数を拡大しながら人気を博していく様は“小劇場すごろく”と呼ばれ、演劇における成功の一例として語られている。
80年代の、夢の遊眠社と第三舞台からはじまった傾向だが、新劇のカウンターとしてはじまったアンダーグラウンドな小劇場演劇がテレビ局や大企業と提携することで、ドームコンサートをおこなうミュージシャンのような人気を獲得するに至ったのだ。

そのような時代の変化に乗って、大人計画以上の拡大路線を図ったのが、いのうえひでのりが主宰する劇団☆新感線だろう。古田新太が所属していることで知られる新感線は、いのうえを中心とする大阪芸術大学舞台芸術学科の学生を中心に旗揚げした劇団だ。
『髑髏城の七人』、『阿修羅城の瞳』、宮藤官九郎が脚本を担当した『メタルマクベス』などで知られる彼らの作風は一言で言うと痛快エンターテインメント。
おどろおどろしい時代劇の世界観にアクション、ミュージカル、笑いを散りばめ、ハードロックやヘビィメタルを劇中音楽として使用し、派手な照明を駆使した演出はミュージシャンのコンサートのよう。和のテイストを強く打ち出した豪華でケレン味のある演出は“いのうえ歌舞伎”と言われている。
座付作家の中島かずきは、アニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』『プロメア』といった今石洋之監督作品の脚本でも知られている。大人計画とは違う意味で漫画やアニメの想像力を演劇に持ち込んだ劇団で、00年には高橋留美子の漫画『犬夜叉』(小学館)を舞台化している。

劇団☆新感線のプロデュースを担当する株式会社ヴィレッヂ会長の細川展裕は自著『演劇プロデューサーという仕事「第三舞台」「劇団☆新幹線」はなぜヒットしたのか』(小学館)の中で、『犬夜叉』について「今から思えば「元祖2・5次元演劇」だったということです!」と、振り返っている。これはあながち間違ってはいないのではないかと思う。
 2.5次元ミュージカルと、大人計画や劇団☆新感線といった小劇場演劇は別枠で語られてしまことがほとんどだ。しかし、漫画やアニメの想像力を舞台に移植する方法論においては、もっと比較検証されてもいいのではないかと思う。

平田オリザの後継者たち

一方、平田オリザの現代口語演劇は、後続の作家たちに大きな影響を与えた。

2013年に刊行された『演劇最強論 反復とパッチワークの漂流者たち』著・徳永京子、藤原ちから(飛鳥新書)は、2010年代の小劇場シーンについてまとめられたものだ。
本作では、三浦直之(ロロ)、藤田貴大(マームとジプシー)、柴幸男(ままごと)、といった70~80年代生まれの劇作家について大きく扱われているが、彼らのルーツとして、チェルフィッシュの岡田利規の存在が挙げられている。

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