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人類を全員踊らせたい! | 猪子寿之

チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、日本文化を現代にアップデートするプロデューサー・丸若裕俊さんとコラボした新作や、渋谷ヒカリエで開催中の「チームラボジャングル」について話しました。丸若さんの活動との対比で見えた、ジョン・ハンケ的なものとは異なるアプローチを試みる、チームラボの思想とは。そして「チームラボジャングル」で提示された新たなビジョンとは?(構成:稲葉ほたて)
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この連載が元となった猪子寿之×宇野常寛『人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界』が好評発売中です。

モノとコトの間にある「お茶」

猪子 9月8日(金)からパリで開催されるインテリアデザインの見本市「MAISON&OBJET PARIS」にチームラボが招かれて、作品を展示するんだけど、それが丸若裕俊さんという人が手がけるお茶とのコラボ作品なんだよね。彼は色々なものをプロデュースしているんだけど、最近はお茶をプロデュースしていて、そのお茶とチームラボの作品を組み合わせようと思ってるんだ。今日はその話からしようか。

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▲フランス・パリで、9月8日(金)から9月12日(火)まで、インテリアデザインの見本市「MAISON&OBJET PARIS」が開催。チームラボは、招聘作家として、肥前でつくられた新しい茶「EN TEA」とコラボレーションしたインタラクティブなデジタルインスタレーション作品『Espace EN TEA x teamLab x M&O: Flowers Bloom in an Infinite Universe inside a Teacup』を本会場にて展示。(プレスリリースより引用)

猪子 チームラボではお茶を使った作品は、これまでにもやったことがあって、KENPOKU ART 2016では『小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々 / Flowers Bloom in an Infinite Universe inside a Teacup』という作品で、天心記念五浦美術館に茶室を作ったこともある。実際にお客さんがお茶を飲めるんだよね。

で、今回の作品では、お茶を淹れるとそこに花が咲いて、動かすとお花が散っていく。空間には何も存在しないんだけど、お茶が入るとそこにだけ作品が現れる。そして飲み干すと、お茶と共に作品もなくなる。

宇野 シンプルだけど面白いね。

猪子 これで、茶の中にだけ存在するアートで、そしてアートそのものを飲むような体験にしたいと思ったんだよね。

宇野 なるほどね。それはお茶を飲むという行為に対しての批評になってると思うよ。お茶もそうだけど、飲み食いってこれから批判力が強くなると思ってて。食というのは、モノでもあるしコトでもあるじゃない?

この先、モノは、個人に対するオーダーメイドもしやすくなって、大量生産されたものに人間が合わせていかなくなる中で批判力が落ちてくる。一方、コトは、ソーシャルメディアの自分語りに回収されて、なかなかその消費から文化が生まれにくい。そんな中、食はその中間にあって、物質であり非物質的な体験なんだよね。モノとして存在する一方で、実際に食べたり飲んだりして味わうと消えてしまう「コト」でもある。この作品は、まさにデジタルアートという、物質であり非物質的なものによって、そんなお茶という食の文化を表現しているところが面白いと思う。

つまり、この作品では、「食べる」という行為が、メタファーとしてすごくよくできていると思うわけ。モノでありコトでもあるお茶を飲むという行為と、実体のないデジタルアートを鑑賞するという行為が重なりあっている。お茶を通したデジタルアート批評だし、同時にデジタルアートを通したお茶文化の批評でもある。

猪子 あと、この作品は、自分に淹れられた非常にパーソナルなお茶が、飲もうとした瞬間に散って、他者のためのパブリックなものになるんだよ。

宇野 お茶を飲むというのは、社交場への接続の行為なわけで。

猪子 どこの文化でも、究極的にはお茶というのは社交だよね。

宇野 そうしたときに、例えば今の消費社会ではお茶を飲むという行為が社交から若干切り離されているわけじゃない? ペットボトルを買えば一人でガンガン飲めるようになっていったわけで。

猪子 そうだね。

宇野 それに対してこの作品は、伝統的なお茶を飲むという行為を思い出させるものになっていると思う。言ってしまえば、お茶を飲むとことで人間は日常の中にいながら、ちょっとした非日常な空間に接続する。プライベートな時間が半分だけパブリックな時間になる。この作品はそういうお茶という文化の面白さを、アートとの組み合わせでつくりだすことに成功している。

猪子 この『Flowers Bloom in an Infinite Universe inside a Teacup』というタイトルも気に入ってるんだよね。これは僕の言葉というより、岡倉天心的な茶の解釈から来ているんだけど。

宇野 当時の中世の日本では、茶の湯という文化で、禅を通過したある種の仏教的な宇宙観を表現してたわけじゃない? それを、今のコンピューターテクノロジーを使うと、よりわかりやすく、しかしより繊細にコントロールされたかたちで光と音で表現できるということだよね。

猪子 言ってしまえば、昔は掛け軸をかけて、お香を焚いて……みたいなことで宇宙を表現していたわけだからね。そうした茶の湯の文化を、現代のデジタルアートで再解釈しようとしているんだよ。

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