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男と男5 | 井上敏樹

今朝のメルマガは平成仮面ライダーシリーズの脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』第16回です。喧嘩が好きで、警察官を憎んでいたというプロデューサーS。新宿の裏通りを歩きながら警官を発見した時にSが起こした行動とは……?
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脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第16回
男 と 男 5  井上敏樹

さて、大手映画会社のプロデューサーSの話はまだ続く。大体想像がつくと思うがSは喧嘩が好きだった。ずんぐりむっくりした体型で腕力にも自信があったのだろうが、それよりも性格的にそういうタイプだったのだ。人の揉め事にも首を突っ込み、しなくしていい喧嘩をする。そのせいで私も何度も無意味な喧嘩に巻き込まれた。
また、これも想像がつくと思うがSは警察官を憎んでいた。
飲酒運転や無断駐車を日々繰り返すSにとって警官は天敵だったのである。
『いいか、この世で警官ほど信用できないものはない。奴らは国家権力の犬だ』と聞いた風な事を言う。
そしてSは夜の街で飲み歩いている時、警官と擦れ違うと必ず『け』と喉を鳴らして唾を吐いた。
ある夜、いつものように新宿の裏通りを歩いていると、街灯に照らされたSの表情がギシギシと険しいものに変貌を始めた。警官を発見したのである。ふたり組の警官がなにやら職務質問をしているらしい。相手はあまり身なりのよくない浮浪者風の男だった。べろべろに酔っぱらい道端にしゃがみ込んだ男をヤクの売人とでも思ったのか、警官は身体検査やら持物検査やらと執拗である。Sは警官の背後に立ちじっと成り行きを見守っている。結局男に怪しいところはなく無事放免となったのだが、そのまま見逃すSではない。

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