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男と食 23 | 井上敏樹

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。近年の愛煙家が迫害される世間の風潮に、肩身の狭い思いをしている敏樹先生。「煙草は煙ではなく時間を吸っている」という、井上敏樹流の喫煙哲学を披露します。
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男 と 食  23      井上敏樹 

また、やってしまった。鍋を焦がしたのである。少し前にこのエッセイで書いたと思うが、状況は全く同じだ(参照)。深夜、酔っ払って帰宅し、鍋に火をかけてそのまま眠ってしまった。咳き込んで目覚めた。視界が真っ白でなにも見えない。慌てて飛び起き、手さぐりで窓を開けてガスを止めた。鍋の底でプラスティックが溶けている。前回はシチューだったが、今回はラーメンのスープをお湯で解凍していたのだ。最近では全国の有名なラーメンをネットでお取り寄せが出来る。プラスティックの容器には冷凍されたスープが入っていたわけなのだが、焦げたプラスティックの刺激臭のせいで肺が痛い。今回受けた肺のダメージは前回の比ではあるまい。十箱くらいの煙草をいっぺんに吸ったようなダメージである。煙草と言えば近頃、愛煙家にはいよいよ辛い世の中になって来た。オリンピックに向けての配慮だろうが、街中の喫煙所が次々と撤去され、バーまでが禁煙だったりする。深夜、仕事帰りにぶらりとバーに入ってウイスキーを飲みながら煙草を吸う。アルコールとニコチンが血液に染み込み、『ふう〜』とため息と共に一日の疲れが薄れていく。そんなささやかな楽しみまでを奪う事ないではないか。

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