バズりすぎてはいけない

 僕はいま、このPLANETSで毎平日にメールマガジンを(つまり週5回!)、毎週1回以上インターネット生放送を配信している。我ながら正気の沙汰ではない発信量だと思うが、もう5年もこの形式を続けている。このメールマガジンには僕だけでなく、僕の友人や仲間たちがたくさん寄稿してくれている。作家、研究者、官僚、起業家といろいろな分野のプレイヤーが集ってくれている。
 有名どころではチームラボの猪子寿之や、SHOWROOMの前田裕二投資家のけんすうこと古川健介などが連載を持っている。けれど、いわゆる「インターネットの有名人」が並んでいるわけではない。実際にいまの連載陣では丸若裕俊や、消極性研究会、橘弘樹といった面々の連載が人気だ。丸若は工芸や日本茶のアップデートを行っているプロデューサーで、消極性研究会は情報工学やゲームデザインなどの研究者がジャンル横断的に集まったユニットでその名の通り消極的なパーソナリティの持ち主でもストレスなく社会生活を送るためのモノやシステムのデザインを研究している。橘宏樹は僕の友人である某省の現役官僚の筆名だ。連載では毎月「官報」の読みどころを解説している。変わりどころでは、香港の民主化運動家の大学生・周庭のエッセイも連載している。

 この春は歴史学者の與那覇潤、ロボットアーティストの近藤那央などの連載を立ち上げた。このあとは、キュレーターの上妻世海、そして青山ブックセンター本店店長の山下優、アーティストの草野絵美などの新連載を準備中だ。

 このメールマガジンからはたくさんの本が生まれている。落合陽一のデビュー作『魔法の世紀』や、ベストセラー『デジタルネイチャー』はもともとはこのメールマガジンの連載だった。僕は2013年に当時、東京大学の大学院生だった落合とある勉強会で知り合い興味を抱き、14年の初頭にこのメールマガジンでインタビューを掲載した。そこで生まれたアイデアを元に連載を依頼し、この連載を15年秋にまとめ単行本として出版した(『魔法の世紀』)。『魔法の世紀』はそれまで雑誌『PLANETS』とその別冊的なムックしか出版したことのない株式会社PLANETSにとってはじめての書籍単行本で、そして著者の落合陽一は当時ほぼ無名だった。しかし僕は彼の考えていることーー研究コンセプトとアーティストとしてのマニフェストーーをまとめた上で世に問うことに、決定的な意味があると確信していた。何より、一読者として僕自身が読みたかった。だから商売的なことは度外視して出版を強行した。結果的に、本はものすごく売れてPLANETSの他の活動を経済的に支えてくれたけれど、当時は微塵もそんなことは考えもしなかった。

 このメールマガジンはいま5000人弱の会員が読んでいる。いわゆる「インターネットで話題のネタ」はほぼ完全に扱わないし、単発の記事ではなく連載が多いのでSNSでシェアされることはほとんどない。しかしこのメールマガジンは(あまり気づかれていないが)いま、密かにこの国の新しい想像力の源泉の一つになっている。これは僕とメールマガジンの購読者たちとの秘密のようなものだと思っている。月に864円払って、僕らの活動を支えていくれている仲間だけに、僕がいまいちばんおもしろいと思っている人たちの思考を、それもいちばん洗練された形でシェアする。これは今のSNSを中心とした「速い」インターネットではできないことだと思う。失敗した誰か、悪目立ちした誰かに石を投げる快楽を追求していたらとても新しい才能を探している時間はない。そしてこの国のインターネットの中心にあるTwitter村では誰もが他人の顔色を見てつぶやいているので(そんなものは「つぶやき」でもなんでもなく、ただのセコい社交だと思うが)、僕のやっている「流行」や「旬」を無視した企画は基本的に見向きもされない。でも、それでいい。いや、そうじゃなきゃいけない。そうじゃないと、今のインターネットでほんとうに面白いことはできないからだ。

 この数年、僕の目標はインターネットの「隠れ大手」になることだった。PLANETSを法人化する2014年の少し前、僕は考えた。あの震災以降、インターネットはTwitterによって一つのムラになろうとしている。ムラの空気を読み、潮目を読み、うまくマジョリティの側に立つか(あるいは逆張りするか)でしか、話題を集めることはできなくなろうとしている。つまりこれは、この国のインターネットが自由に、新しい問題設定をすることができる世界ではなくなったことを意味する。手を動かして新しい価値を提示する人間よりも、彼/彼女の存在に劣等感を覚え、機会を伺って引きずり下ろしてやりたいと考える人間のほうが(当然)多い。インターネットが一つのムラになるということは、こうした卑しいマジョリティの人々の「空気」が支配するということだ。
 実際に、この時期からTwitterのいわゆるインフルエンサーと呼ばれる人々は、どんどん「ワイドショー化」していった。口では旧態依然としたテレビ文化を罵りながら、やっていることはテレビワイドショーとまるっきり変わらなくなった。失敗した人間や、目立ちすぎた人間に石を投げ、自分たちのフォロアーに同調を促す。そしてフォロアーたちはマジョリティの側に立つことで「自分はまともな側」だと安心する。彼らのやっていることはワイドショーのコメンテーターと変わらない、ただの「イジメ」なのだ(だからあなたはもし、もう少し自分の世界を見る目を広げ、深くものを考えたいのならまずこの種のTwitter文化から距離を置くとよい。それだけで随分と無駄なコミュニケーションから解放されるはずだ)。だから僕は、自分がテレビのワイドショーのコメンテーターになって、どうせならより根本に近い部分から切り倒してやろうと「こんなものを見ているとバカになる」というメッセージを発信し続けることを選んだ(意図が局にバレてクビになったが)。

 したがって、Twitterムラの劣化ワイドショーのコメンテーターをやって「影響力」を行使するという選択肢は最初から僕にはなかった。僕は考えた。僕たちPLANETSが目指すべきは、インターネットの「隠れ大手」だ。僕らの出す記事は「バズら」なくてもいい。もちろん、ある程度は広く読まれてほしいけれどむしろバズりすぎてはいけない。それはこのイジメでつながる陰湿な世界に「適応」してしまったことの証だからだ。そしてそんな陰湿な、不毛なインターネットにうんざりしている人たちに、しっかり届く良質な記事をつくるべきなのだ。僕らの記事をしっかり評価してくれる、知的に良質で精神的に成熟した読者に届けばいい。
 そして、こうした読者を支援者として、仲間として同じ船に乗って継続的に活動を支援してもらいたい。それが僕が月864円のメールマガジンを主戦場に選んだ理由だ。実際にメールマガジンは程よく開かれ、そして程よく閉じたメディアとして有効に機能したと思う。
 まず何よりPV数で収入が決定する広告モデルではないので、Twitter村の「空気」合わせた記事を出さなくていいし、一記事、一連載単位で失敗しても、全体的に面白ければ購読を継続してくれる月額会員サービスという形式のおかげで思い切った企画を連発することができた。最初の頃は特に、「バズり」を意図的に避けているとはいえ、もう少し話題になってもいいのではないかと悩んだ時期もあったけれど、毎日数名ずつだけど、ひとり、またひとりと購読者が増えていき、数千人を超えた時点で自分の仕事は目に見えてバズっていないだけで、ちゃんと評価されているのだという自信をもてるようになった。気がついたら僕は狙い通り、インターネットの「隠れ大手」を狙える位置に来ていたのだと思う。もちろん、課題は多い。まだまだ世の中に一石を投じるには力不足だ。でも焦ってはいけない。焦ってTwitterの炎上大喜利に参加したり、村の空気を読んではいけない。それではテレビワイドショーと同じ道を歩むことになる。せっかくインターネットをやっている意味がない。インターネットで発信するときは、バズりすぎてはいけないのだ。

・けれど、このやり方に不安がないかといえば嘘になる。端的にメインのスタンドに使っているニコニコ動画の弱体化(というか、普通に使いづらいサービスになってしまっている問題)については、ここ数年悩み続けているけれどこれといった答えはない。

・ひとつの突破口になると思ってはじめたのが前々回書いた「遅いインターネット計画」であり、そのサポートチームの「PLANETSCLUB」だ。最初は新しいメディアのための資金集めとサポートチームの編成を目的につくったクラブなのだけど、やっているうちにクラブ自体が楽しくなってしまっている。月1の定例会(ゲストの生講義+懇親会)と、限定動画(僕の講演とが授業とか、僕の担当するdTVチャンネル「ニュースX」火曜日のアーカイブとか)、あと、あと人狼したりランニングしたり、遊びの企画がたくさんある。興味のある人はぜ加わってください。そして、ビジネスにあまり明るくなく、興味も強く持てない僕に知恵と力を貸してください。

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宇野常寛

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