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eBookJapanのお引越しディザスター

Yahoo!への身売りで質が低下して既存ユーザーから非難囂々のeBookJapan、旧サービスが使えなくなる期限が迫っていて悩ましい。

旧サービスの大きな売りだった背表紙表示機能こそ再実装されたものの、Mac版リーダーの終了、海外からの利用の停止、旧サービスのポイントのTポイントへの切り替え等々、重大な変更を事前告知なく突然ユーザーに強要し(どれもこれも消費者庁案件じゃないの?)、当然のごとく上がった抗議の声を株主総会ではおくびにも出さず「売り上げが伸びた」とのみ発表して乗り切る(Yahoo!ブックスと統合した売り上げだからそりゃ数字は増えるだろう)という統合以降の姿勢を見るに、新サービスの使い勝手がこれからよくなったにしても、ユーザーの扱いは変わらないのではないかと思ってしまう。

つまり、いつまたユーザーの意向を無視して今回の「お引越し」のような仕様変更が起こるかわからないし、前触れなくサービスが終了して今まで購入した電子書籍が消滅するかもしれないという不安から逃れられない。

Kindleの本棚機能のうんこさに驚愕したところに出会ったのが旧eBookJapanで、快適だったので電子書籍のマンガは全部こっちで買うことにしていたし、人にも勧めていた。物理書籍では部屋の容積を気にしてためらっていたマンガもほいほい買って、あっという間に本棚の冊数は三桁に達した(そのうち50冊は激安のセールで購入した『むこうぶち』だが、術中にはまって定価で続きも買ったし、これからも買うつもりだった)。

しかし、サービス統合以降は買う手がぴたりと止まった。理由は前述の通り、この先eBookJapanを使い続けて大丈夫なのか心配になったからだ。旧サービスだったら即座に買っていたであろう新刊も、続刊も、アンソロジーも、数十冊は買いそびれたままだ。本来なら自分が買っていたはずの、この数十冊の売り上げは、eBookJapanのみならず、著者と出版社に入るはずだったお金である。自分のように買い控えているeBookJapanユーザーは決して少なくないだろうと思う。

最初に述べた不満は、一人のサービス利用者としての不満だ。しかし同時に、私は著作者でもある。eBookJapanには、私の本も売られている。そして私と同様に、サービスへの不安で、私の本を買い控えたユーザーがいるはずである。eBookJapanの引っ越しはユーザーだけでなく、著者と出版社にとっても機会損失をもたらしている。eBookJapanに商品を提供しているわれわれ著者や出版社は、利害関係者として怒ってよいはずである。

eBookJapanのTwitterアカウントには、大量の抗議のリプライが送られている。今はもう既存のユーザーの大半は諦めているようで数が少なくなったが、統合発表初期はものすごかった。アカウントの中の人も最初は頑張って対応していたが、リプライの数が多すぎ、傍目に見ても完全にパンクしていた。しかもみんな怒っているから口調が荒い。アカウントの中の人は、クレーム対応のほかに個々の作品紹介も並行してやらなければならず、すると「そんなことしてる場合かさっさとサービスを元に戻せ」とお叱りを受ける。「このマンガクッソつまらんwwww」みたいなキッズのクソリプもつく。発狂するんじゃないかと思う。本当に気の毒だ。

さらに衝撃的なことがあった。あるユーザーが、旧サービスのこういうところが好きだった、と書いたところに、eBookJapanアカウントが、「そこは私が担当していたところです、ありがとうございます」とリプライしていたのだ。私は漠然と、Yahoo!に身売りしてサービスも丸ごと使えなくなるのだから、運営も開発もすべて入れ替わったんだろうなと思っていた。ところが、どうもそうではなさそうだ。「愛されていたサービスの中身が入れ替わった」だけではない。「愛されていたサービスの中身が入れ替わったのに運用チームは旧来のままなので、旧サービスを愛していた人々が、まさにその旧サービスを運用していた人々に怒りをぶつけている」のだ。

地獄か。

つまり現状のeBookJapanは、経営方針の変更に伴うもろもろの軋轢を、ユーザーのみならず、運用チームにも押しつけているように思われる。上から降ってきたうんことユーザーから投げつけられるうんこ、ふつう心を病むと思う。せめて給料が高いといいのだが。果たしてこのサービスは今後も安定して存続するのか、改めて不安に思う。私自身は、今まで買った本が読めなくなるのは困るので「お引越し」手続きはするだろうが、このままeBookJapanでマンガを買い続けるかどうかはまだ決めかねている。そうやって迷っている間にも、何冊も買いそびれるだろう。

旧eBookJapanはとてもいいサービスだった。作った人々がそこに思い入れがないわけがない。不完全な新しいサービスを出して、前よりいいものだと言い張らなければならないことが悔しくないはずがない。私はサービスの現状と、それを作り出した経営陣の判断には怒りを覚えているが、現場で死ぬ思いをしている人には完全に同情する。われわれは人間ではなくシステムを憎むべきである。いずれにしても、eBookJapanの現場の皆さんの精神の安寧と、安定した収入を心から願う。


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宮澤伊織

小説書く人
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