「ゾンビーポリス」(2)
ひるんだ品川は後ろずさったが、同時に死体だったはずのトゥアレグが体を起こした。
起き上がったトゥアレグは胸においていた大崎の手を掴み、ズルズルと体を引きずった。全力で腕を振り払おうと大崎は柔道の逆手の姿勢を取ったが、トゥアレグの手は異様な角度に曲がったまま離れない。
『なんだこの力は』
今度は掴まれた腕を膝で地面に押し付けて全体重をかけたがトゥアレグは全く効いていない。警察署対抗の柔道大会で優勝経験もある大崎は体力に自信を持ってたが、今までに取り組んだことの無い相手だった。
(このままだと骨が折れるはずだ)
しかし表情は全く変わらず、やがて鈍い音とともにトゥアレグの左腕の骨が折れやっと手が離れた。
「主任どうしたんですか」
戻って来た有田が、死体だった男と格闘する大崎を見て驚いた。
「わからん、トゥアレグは生きていたんだ。とにかく拘束だ」
「はい」というと有田はトゥアレグを取り押さえようとタックルした。
ラグビー部で有名高校を卒業した有田のタックルでトゥアレグは姿勢を崩して前のめりに勢いよく倒れこんだ。顔面を正面から打ち当たり所が悪ければ脳震盪をおこしかねない。
「有田、本気出しすぎだろ」
品川があわててゾンダのそばに駆け寄る。
「すいません、巨漢なので守られないよう思いっきり当たったんですが、意外に反応がなく吹っ飛びましたね」
「のんきな事いってんじゃない。相手は素人だぞ」
倒れこんで動かないトゥアレグのそばに、有田は思わず歩み寄って息遣いを確認した。
「気を失っていますね、息をしていない様子です。蘇生させます」
それを聞いた大崎は言った。
「こいつ、さっきも息をしていなかったんだ」
「えっ、どういうことですか」
「俺も分からん」
2人は協力してトゥアレグの腕と足を引っ張り、仰向けに起こした。額に大きな割れ目が開き、顔面から血を流している。
「死んだんでしょうか?」
「わからん」そういうと大崎はトゥアレグの腹を足でついた。
その瞬間、またトゥアレグは目を見開き素早く体を起こした。
大崎と有田は反射的に後ろに飛び去ったが、今度は大崎の足が掴まれた。
(こっちの腕は確かさっき折れたはずだが・・・)
「ぐぁぁぁ」異様な声が大崎から漏れた。このままでは筋肉ごと足をもぎ取られるのではないかと思った。
『バァーン、バァーン』有田が拳銃を天井に向かって打った。
しかし全くゾンダは気にせず。怪力で大崎の全身を振り回し始めた。
体重80キロ、慎重175cmの大崎が振り子のように振り回された。
「何かあったんですか」外にいた捜査員たちも銃声を聞きつけ部屋に集まり始めた。
有田は頭を床にぶつけて意識を失った。ゾンダはおもちゃのように大崎を振り回すと、先程のように足にかぶりついた。
「やめろ、離せ!(バァーン)」
有田の拳銃がゾンダの右腕を打ち抜いた。しかし一向に変化がない。
「やめろ有田」
異常な事態を目の当たりにした駆け付けた捜査員が有田を制止する。
「うあぁー」
ズバァーン、ズバァーン、ズバァーン
有田は拳銃の残りをすべて、打ち続けた。
それは至近距離からゾンダの顔面に直撃し、頭の半分が飛び散った。
「ありたー」
ゾンダはようやく動きを止めて、その場に倒れこんだ。
足を掴まれていた大崎も床に倒れたが、すでに動いていない。
「大崎さん!!」有田は大声で呼ぶが、品川の意識は戻らない。
緊急事態に救急車が呼ばれた。
ガサ入れした倉庫の前には、警察車両、護送車の他にどこから聞きつけたのか、テレビクルーが到着しており、混乱していた。
ボスのトゥアレグを含めた、アフリカ系暴力団の一味を10数名の薬物製造現行犯逮捕に気分よく引き上げようとしていた蔵前署の組対課は、捜査班長意識不明の報告に様子が変わる。
担架に乗せられた意識を失った大崎と、ブルーシートで巻かれた被疑者の死体が運び出された。
主任刑事大崎は緊急病院に向けて救急搬送された。
救急車内では、同乗した有田の絶叫と救急隊員たちの声が響く。
体温34度、脈拍ありません。
「AED(自動除細動器)だ、1,2,3……」
意識不明の重体、脈拍ゼロ。
とてもマズイ状態だ。
(つづきます)
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