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【妄想ドラマ企画43】刑事2.0(1)

最年少大臣・横須賀二(よこす よしじ)が休日に新宿で行方不明になった。
「買い物に行く」と秘書にメールしたまま連絡が取れなくなった。二時間後に秘書が自宅に連絡をするが帰っていない。万が一を案じて、所属する保守党本部に通報した。
連絡が取れなくなって6時間後に、「何か起こった」と判断した保守党幹事長・四街道が警察に通報。
警視庁刑事部では「事件、事故、あるいはネットカフェ12時間パック」の可能性を考慮しつつも、誘拐事件専門の特殊捜査班・五十嵐班長を中心に捜査本部を極秘召集した。

行方不明の横須大臣は以前から「昔は老人は皆自然死していた」「貧乏人は北方領土に移民させよ」など問題発言が多く連日ワイドショーで叩かれ、ネットを大炎上させていた。

そのせいで保守党本部には、横須宛の脅迫メールが多数送られてきており、刑事部は公安部と連携を取りながら政府不平分子の直接行動を警戒していた。

そこで起こった今回の事件。
捜査本部では犯人側の動きに神経をとがらせたが、行方不明から24時間経過しても自宅、党本部共に要求はなく捜査は膠着状態に入っていた。
拉致誘拐事件の場合、生存率は発生後24時間で70%、48時間で50%と言われる。
捜査本部を指揮する五十嵐班長は焦り始めた。

そんな時

捜査本部のドアが勢いよく開いた。
「失礼します」
入って来たのはサイバー捜査班の小机だった。
「先ほど、ツイッター上で不審なメッセージをキャッチしました」
事件発覚直後からサイバー捜査室はネット上のビッグデータを分析していた。
そして5分前、誘拐事件の犯人らしきつぶやきをキャッチした。

小机は五十嵐班長の前に持参したパソコンを置くと、捜査本部壁面にある大型モニターに映し出した。

水人【非公式】@water
「横須大臣を拘束しております。我々の系列店で著しいルール違反がありましたので現在拘束監禁させていただいております。私共は大変不愉快な思いをしました。その代償をどなたかにお支払いただきたく思っております。今後の要求はこのツイッターアカウントで行わせていただきます。もし、政府関係機関が横暴な手段に出た場合は、我々から相応の対応をさせていただきます」

「なめやがって。系列店とかルール違反ってなんのことだ」
五十嵐はいきり立った。
「今すぐに、この投稿者・水人を確保だ。情報開示請求すぐにしろ!犯人が特定できれば逮捕まではあと一歩だ。それまでは情報管理厳守で行く」
「班長、そうは簡単ではありません。この要求は公開されているんですよ
サイバー捜査室の小机は小柄な体をさらに小さくして進言した。
「班長はツイッターを使ってらっしゃらないようなので恐れながら申し上げます。このツィートは全世界で見ることが出来きます。その証拠にほら、既にいいねが5000を超え、リツィートは100を越えています。今も、この時間もどんどん増えています。このままいけば、あと1時間後には日本中の誰もが横須大臣の誘拐を知ることになります
「なんだとー」
「たとえ開示請求が通ってIPアドレスが割り出されても、捜査協力制度のない外国経由の場合は犯人の所在を突き止めることはできません」

意見された五十嵐班長は不愉快全開の表情となった。
「じゃあ、なんで犯人はツィッターなんて使うんだよ。世間に知られずこっそりと身代金要求するから犯人側のうま味があるんじゃないのか? 何で自分から誰でも見られる要求を出す必要があんだよ」
「それはそうなんですが・・・」
「とにかく、犯人側の狙いを探らないとどうにもならない、今からこの犯人へメッセージ出して情報を聞き出せ」
「班長、慎重にお願いします!」
「日本中の笑いものになる前に手を打たないでどうする。俺が責任を持つ、
小机お前打て、内容は『本当に大臣を拘束しているのか証拠を見せろだ!』犯人が殺意あるテロリストか、金目的の水商売かを見極める」
「いや、それはやめた方が」
「やらなきゃ、お前を機動隊で鍛えなおす」
「わかりました、打ちました! リプライしました」
「それでよし!」

 捜査本部のモニター画面には小机が打ったリプライが表示された。そのリプライがどんどんリツイート され広まっている。
「広まっていますが、いいんでしょうか?」
「いいじゃないか、後になって我々が先手を打ったとマスコミに発表する証拠になる」
「でも、リツィートのコメントが警察への悪意ばかりなんですが」
 モニターのツイッター画面には

 ・いきなり警視庁が馬鹿な質問している。
 ・警察質問してる場合か?
 ・警察が正式にメッセージ出すとか、この犯人は本物か?
 ・大臣本当に拘束されてるの?バカすぎ
 ・横須大臣風俗店で捕まったのか?
 ・マジか、大臣裏風俗でルール違反!最低
 ・警察も質問する前に犯人逮捕しろ

「おい、何で警察って早速ばれてるんだ」
モニターを見た五十嵐が騒いだ。
「はい、それは警視庁アカウントでログインしているからであります」
 画面をみるとプロフィール欄にピーポくんの画像と警視庁公式と書かれている。

「ばか!それ先に言え!警察が捜査に動いている事いきなりバレたじゃないか」
「班長、刑事部長からお電話入ってます」
若手の刑事が班長に内線をつなごうとした。
「ばかつなぐな、この件に決まっている、わー、困った。お前の独断ってことでいいな」
五十嵐はとりあえず小机に罪を被せることに必死だった。

その時、モニター画面に返信があった。

水人【非公式】@water
 警視庁公式様いつもお世話になっております。早速のメッセージありがとうございます。本当に大臣がいるかとのお問い合わせですので、画像を添付いたします。今後ともよろしくお願いします。

添付された画像は、上半身裸でパンツをはいてロープで首を巻かれた大臣が土下座している画像だった。
捜査本部は凍り付いた。

「最悪だ、最悪過ぎる」

サイバー捜査班小机は会議室フロアに膝から崩れ落ちた

(次回へ つづく)

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