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「ゾンビーポリス」(3)

 深夜蔵前署では署長の会見が開かれ、テレビカメラ6台と新聞各紙社会部記者たちが会場を埋めていた。
「組織犯罪対策課の大崎培男刑事は、暴力団組織での捜査過程で負傷し、救急搬送中に一時心停止となりましたが、その後病院での蘇生措置により一命をとり止め、現在は意識不明の重体です。大崎刑事の回復を心から願っております」
 重苦しい空気の中、記者から質問が出た。
「我々の情報ではガサ入れの最中に犯人グループと乱闘の末、犯人側で一名死亡、警察官一名は既に殉職したとの情報も出ていますが」

 現場で記者が独自入手した情報に署長は一瞬眉をひそめた。
 その時、病院に張り付いていた組対課長が会見室に駆け込んで署長に1枚のメモを渡し耳元でささやいた。
「先ほどのご質問にお答えします。確かに捜査現場で1名遺体となった見つかった人物がいたことの報告は受けております、身元や死因は現在究明中です。それと警察側に負傷者が出ているのは事実ですが、記者さんのおっしゃるような殉職者などは一切出ておりません」
 それを聞いた記者はイジワルそうな顔をした。
「本当ですか?嘘でしょ。こちらで確認したところ搬送の時点で心停止し、既に大崎刑事は死んでいたと裏取れてますよ」
 一同が署長の回答に注目する。
「いえ、大崎刑事は死んでません。皆様に嬉しい情報があります、大崎刑事は驚異的に回復し、現在元気でピンピンしているとのことです」
 同時に署長はガッツポーズをした。
「おぉー」
 会場がどよめく中、さらに別の記者が質問した。
「そんなにお元気でしたら。早く大崎刑事と囲み会見させてくださいよ。お手柄記事として署長も一緒に写真撮らせていただきますよ」
「どうぞどうぞ!近いうち明日にでもぜひお願いします!そういうわけで会見はハッピーエンド、終了です。記者の皆様どうぞ、奥の応接にサンドイッチとか用意してますので食べていってください」
 署長は満面の笑みで記者さんを送り出した。

 組対課長は部屋へ戻る署長へ恐る恐る切り出した
「あのー署長、さきほど報告しましたように、大崎刑事は生命反応はありましても、まだですね意識は戻っておりません。人工心肺でどうにか生かしている振りをしているだけでして、署長のピンピンという表現はどうでしょう、まして会見に出席させるのは無理かと・・・」
 それを聞いた署長は鬼のような形相で言った。
「何としても一週間以内に回復させろ、ガサ入れで発砲、首謀者はすでに死亡。捜査主任も殉職。これも何もかも君の監督責任だよ。背任行為で刑務所に送ることだってできるんだ。警察官が刑務所入ると怖いらしいよ、いじめられるってよ」
「そんな・・・署長、助けてください」
「そうだろ、そんなこと嫌だろう。それが嫌なら大崎巡査部長を元気にさせる方法を考えるのが刑事の長にたつ人間の示す姿だよ。起死回生、九死に一生、乾坤一擲の作戦を刑事課全員に君が命ずるんだよ」
 悪魔のような笑みを浮かべて署長はエレベーターのドアの向こうに消えた。

 深々と頭を下げていた刑事課長は体を起こすと鬼がうつったかのような顔になっていた。
「只今より全刑事に緊急命令を発令する。フタマルフタマルまでに大会議室に集合し、朝までに大崎巡査部長の回復を祈る大集会を執り行う。遅れたものは全員降格人事となることをわきまえるように! 以上」
 勝手な大召集をかけられた刑事課は大慌てで次々と集まった。自宅に帰っていたもの、寮で寝ていたもの、非番で実家に帰っていたものは大急ぎで関越を車で飛ばしてきた。
 集まったものの、瀕死の重傷患者を生き返らせる方法などあるわけではなく。二時間かけた会議の結論が背格好似た者を整形手術を受けさせて、囲み会見に挑ませる「そっくりさん作戦」というばかげたものだった。
 そんな徒労と疲労に疲れ果てた深夜の会議室に、突如飛び込んできた刑事がいた。
「課長、大崎巡査部長が生き返りました!」
「まじか、諸君聞いたか!我々の祈りは通じたぞ!刑事魂の勝利だ! バンザーイ、バンザーイ、ところでおまえそんないい話、携帯で早く知らせろよ」
「そうなんですが、その生き返り方がちょっと異常でして」
「どんな感じ」
「いや電話では説明できないくらい異常なので、こうしてこっそりと駆け付けたわけなんですが」
「えっどういうこと」
「それが病室で暴れるんです」
「危篤状態じゃなかったのか? 元気になったのなら何よりじゃないか!でもまさにピンピン、早速署長に報告して囲み会見の準備をする!」
「いえ元気というか、とにかく病室内を無茶苦茶にするので、医者たちと五人がかりで取り押さえて、強力な麻酔薬を打って拘束しているところなんです」
「なんだと!お前そんなことしてまた死んだらどうすんだ!とにかく行くぞ」
 そういうと墨田署から警察車両に分乗した刑事たちは問題の病院へと向かった。

 一方で、ガサ入れ現場で取り押さえられたアフリカ系ヤクザの取調べからはとんでもない情報が入っていた。

 アフリカから戻って来たゾンダは帰国直後に発熱し寝込んでいた。ゾンダが言うには故郷に帰った際に森で怪物に噛まれたという。
 怪物のことを現地語でウンザビといい、噛まれた人間はブードゥー教で言うゾンビ化するという。
 ゾンダはぶドゥー教の心得のある人物をアジトに招き祈祷してもらっていたが、翌日に意識を失って息を引き取った。
 ゾンビ化すること恐れた仲間はゾンビが嫌うと言う寒冷地の気温の20度まで気温を下げてひたすら祈りを捧げていたという。
 そこに警察のガサ入れがあり、日本の刑事が邪魔したためゾンダがゾンビ化した。
 しかしその後、有田刑事がソンダに撃った拳銃が偶然弱点である脳幹の急所に直撃したため殺すことができた。日本中がゾンビ化する災害から免れてお前たちはラッキーだ。

 取調べにあたった刑事は思った。
ゾンビに襲われた大崎刑事は大丈夫なのか?


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