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【妄想ドラマ企画36】FP刑事(2)

「夫婦間に子供がいるいないでは、それは全然違いますね」

係長の質問に金子はシンプルに返答した。

「まず子供の親権問題がありこれは大抵男が負けます。そうなると慰謝料以外にに養育費、食費、教育費、住居関係費が成人になるまで毎月かかります。大学に行くとなると、そこまで面倒見る必要もあります」
「いくらぐらいだ?」
係長の場合は息子さん私立中学生ですから、最低でも4万円、5~7万は毎月必要でしょう
「いつの間に調べたんだ」
「この事件の容疑者の場合、結婚期間も少なく、子供もいないわけですから、この場合の正解としては、妻と離婚した後に愛人とダラダラ付き合うなり、再婚するなり、チェンジして別の愛人と付き合うもよし、いくらだって選択肢はあるわけです」
「そんな奴クズだ、クズ人間だ」

自分の筋読みをメチャクチャにされた西村巡査部長が怒り出した。

「確かにクズな選択ですが、人生棒に振ってまで愛人を殺す方がクズ人間です」FP捜査官・金子は断言した。

「殺す動機が無いとした場合、弱ったなぁ、被害者の現場からは、容疑者の指紋や状況証拠が一杯見つかっている。金子くんの筋読みはどうなんだ?

係長に名指しされた金子は、席を立ち会議室のホワイトボード前に立ち、何かを書き始めた。
文字は『オッズ』。
「どういうことだ」理解不能な係長以下。金子はすました顔で続けた。

「前提として被害者が榊原に殺されたことが事実だとした場合、犯人が被害者を殺す理由はただ一つ、その方が『オッズ』が高かった場合です」
「急にギャンブルの話になったな」
「ライフプランは一種のかけ事です。具体的には自分が死ぬ確率に賭けるのが生命保険です。でも、死ぬかどうかわからないのに大多数の人が生命保険に入っているのはどうしてだと思いますか?」
「それは、死んだ後の葬式やら残された者の生活費やらが心配だからだろう?」
「違います。それだけの理由なら、銀行の投資積み立てやら証券運用直接やった方が確実ですよ。正解はオッズです。就労者の40%近くが保険金に入り、毎月1~2万円の掛け金を払っています。死亡保障1500万~2500万円だとすると大体オッズ1000倍です。まぁ実際はそんなすぐには死ねないので、年24万円の掛け金でラッキーな事に5年後に死んだ場合、およそオッズ20倍です。10年の場合は10倍です。20年の場合は5倍です。これが30代の命のオッズです」
「どういう事なんだ?」
「殺人など人生棒にふるリスクを犯すには、生涯賃金の最低5倍はメリットが無いとやらないってことです」
「やけに言い切るが、だとしたらこの事件どうなるんだ」
単純な愛憎殺人ではないと言えます。加害者・榊原は、被害者を殺すことで残りの生涯賃金2億円の5倍、10億円のメリットを保障されて殺害に至ったことが想定されます」
「つまりそれは・・・」
「そうです、銀行を揺るがしかねない大きな疑惑が背景にはあり、10億円規模のメリットがある企業融資もしくは保障があった言えます」
「つまり・・・それは銀行幹部を巻き込んだ、もしかすると金融庁や政治家も関係する巨額汚職事件が背景にあるという事です」
「そ、そんな恐ろしい背景がこの事件にはあったのか!」
会議室にいた一同が驚愕しこの先展開する山の大きさを前に言葉を失った。

その時、会議室に一人の若手刑事が駆け込んできた。
担当の北村刑事の耳に何かをささやくと北村の顔はだんだんと紅潮していった。
「どうかしたか?」
係長が北村にそおっと声をかける。
容疑者榊原が殺害を自供しました。被害者と性交中に性的興奮を得るために首を絞めて仮死状態にするいわゆ『窒息プレイ』中に、いつもより興奮しすぎて加減を越えてしまい死に至ったとのことです」
「(一同)・・・」
「尚、被害者が窒息プレイの常習であったことは司法解剖の結果で首に時期の違う作条痕が見つかっています。尚サイバー捜査支援室のリサーチでも『失神マニア』のアカウントでSNSに窒息プレイを投稿していたことなど裏も取れています」

気まずい空気が会議室に流れた。

係長がおもむろに口を開く。
「おい金子くん!君の説と全然違うんだけど」

金子は努めて表情を変えずに言った。

「いえ、快感はプライスレスですから・・・この場合しょうがないですよね」

役者はすました顔で説得力ある暴論を吐きそうな長谷川 博己で!


(お知らせ)
こういうのも書いてます。
お坊さんが死者の成仏の為に事件捜査に首を突っ込みます。
「早ければ葬儀、遅くとも初七日までには解決します」


ドラマ企画100本目指します!