うろうろ

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うろうろ

凡夫。刺繍をします。公園がすきです。 https://www.instagram.com/take_urouro/

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  • 夫の泣き言ドットコム

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最近の記事

ドワイト・トワイト・ライトシングス

おれは助手席に座って、流れて行く光を見ていた。何周、どこを走っても首都高には夜の光がへばりついて、いつまでも飽きない。隣で運転する吉田はニヤニヤと、車の性能を確かめている。名義を変えて、納車したばかりの車。 実際この車は悪くない。シルバーのアウディクーペ。内装は赤の革張りで、計器類のデザインもいけてる。強いて言えば、男ふたりで乗るべきじゃない。ましてや、汗に蒸れたスーツ姿の男が、横並びに座って深夜ドライブするべきじゃない。 おれはクソみたいな仕事を終えて、睡眠時間を削り、同僚

    • 満天の星空

      世の中 勝つか敗けるか らしい そして敗者には 王冠は用意されないらしい それは 嘘だ なぜなら 栄光につつまれ 王冠をかぶるにふさわしい 偉大な敗残者もいるからだ あらんかぎりの力を尽くし されど颯爽と 敗けてしまった者たち を 本当はみな 愛してしまう 偉大な敗残者に おのれを親づけて 「ちっぽけな敗者たるわたしも ひょっとして 栄光につつまれた者ではないか」 と 思いたくて 敗けっぱなしの自分を 慰撫するように 敗残者だとしても 栄光は勝ち取れるのだ

      • 低気圧の蟻

        近いうちに、引っ越す。 少しづつ荷物を、段ボール箱に詰めてゆく。大した量ではない。それよりも膨大なものは、段ボールに詰められることもなく、過去に捨て去られていったものだ。けれど、自分が一体なにを捨てたのかは最早覚えていない。かろうじて自分を現在の自分たらしめているものは、どうにか捨てられず残り、いま段ボールに詰められて新居に持ち込まれるもの。過去は自分を保証してはくれない。 荷造りもまだ半ばなので、これからまた捨てるものも出るだろう。新生活には相応しくないもの。 例えば、首が

        • 魂の塊

          ふとした縁で彼と出会ったのは数年前。ほんとうにたまたま。飲み屋で隣あった。10分も話もしないまま、彼は颯爽と帰っていった。けれど伝え置いた私のちっぽけな職場に、彼は来てくれた。カメラを携えて。 記憶は前後左右、忘れてしまうけれど何度か遊んだ。お酒のんだりプラプラしたり。 やがて彼は遠くに写真を撮りにいって、おれは生活をして。 久しぶりに会った。目的は、ずっと遠くにいた彼がつくった写真集を買うため。彼の展示に向かった。今回の会場は、彼の写真というより彼の描く絵の展示の趣き

        ドワイト・トワイト・ライトシングス

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          日記 2019 3/25-4/1

          帰宅すると妻子は風呂を済ませ寝入ろうとしているがまだ1歳と半の息子はうまく寝つけず、仕事そして生活につかれてウトウトとする妻の傍ら起き上がって遊び出す。息子の声は未だ意味を結ばないまま暗闇を飛び回り、妻を起こさないよう宥めては遊びにつきあっていると横臥する妻から寝かしつけないのかと問われて洗濯や皿洗いやなにやかやの家事を済ませて夕飯もとらないまま眠れない子を見ているおれの鬱憤は破裂して、いつからかどちらかが競い合うようにつかれあう不毛なやりとりに終止符を打つように怒鳴り家を出

          日記 2019 3/25-4/1

          ロスト シネマ パラダイス

          便利な時代だ おれは 何かの不具合で深夜 家を飛び出す やり切れない 気持ちを抱えて でもちゃっかり ポケットに スマートフォン と wifi 公園のベンチ さまざまな映画の予告編を見る かつて見た 懐かしい映画の 予告編 映画なんて もうまるで 観てないな 手のひらのなか スマートフォンが光る イヤフォンをしっかり 耳に押しこんで 「息もつけないぜ」 と叫び 若き日のリチャードギアが 拳銃を拾い上げた ゲイリービジーが ミートボールサンドを 食み キアヌリー

          ロスト シネマ パラダイス

          cocu

          目が醒めた。ベッドではない。ソファに首のみ凭れて、首から下は床に投げ出していた。目が渇き、視界が霞む。立ち上がり小便をして、付けっ放しだったコンタクトレンズを剥がし、洗面台で保存液につける。眼鏡を掛けてリビングに戻る。脱ぎ捨てられたシャツやズボン、ネクタイ、靴下を足で搔きよせる。ただし拾わない。 TVが流れているが、音はない。月曜日の午前、芸能ニュースが流れている。 ロウテーブルの上には、空いたプラ容器と割箸、発泡酒の空き缶が置かれている。そのうちのひとつはまだ半分ほど残り、

          砂と火と水

          砂漠色のキャッチャーミットは 分厚くて重い 手にグルグルと 饐えた生ハムをきつく 巻いたみたいに おれは ライ麦畑の 捕まえ手 には なれないな 上手くミットをさばけない 柔らかい革なのに かといって内野手や外野手 ましてや投手なんて柄でもない 肥大した心臓と相談する アンパイヤに野次を飛ばすくらいは 出来るか あるいは ちっぽけな賭博 ノミ屋 友人たちよ あいつに賭けてやれ おれは 知っている 最期にあいつとキャッチボールしたのは 七世紀こ

          砂と火と水

          K S

          北へ抜けた台風の残した温い空気の流れに、金木犀が混じり入る。中秋も過ぎていよいよ、短い秋が深まってゆく。 この町で暮らして、丸5年が過ぎた。この町へ越してきてからも、それまでの行き当たりばったりの暮らし振りを建て直してゆくには程遠い、先の見えない雲に囚われたような心持ちは相も変わらず、今朝も便所サンダルに足を突っ掛けて表へ出た。 10時を回る頃には雲も散り、秋というには強すぎる日差しの下、園庭のなかを駆け回る幼児たちのなか必死に彼女を探した。彼女はSという名だ。年長組で、幼

          ドゥ ノット プレイ ボール

          よおよおよお 野球なんて時代おくれだぜ わりいな 正岡さんよお もう 自由な野っ原なんて 見つけづらいんだ よおよおよお ベースボール 環太平洋から あんがとよ でも この国は狭いし なんだかんだで ユニフォーム着ちまったら 革ベルト 巻かなきゃいけないんだろ 窮屈すぎるぜ グリンゴって言葉を 教えてくれた ペルー料理屋の店主は サッカー気違い せいぜいが キャッチボールくらいかな おれが愛せるのは サシで 胸元に だらしないTシャツと 短パンで 革ベルトなんて

          ドゥ ノット プレイ ボール

          砂糖

          わたしの住む家は 改築されてゆく 古い木造家屋は 雨の日に 埃もたてず 崩れた 離れと呼ばれたちいさな小屋に 一時的に兄は住んだ 離れ 木で出来た平屋のおよそ 15平米 油じみた柱に貼られた ピンクレディのステッカー 薬缶がわく 火の元から伸びるゴムホースに へばりついた ババロア色の垢 プロパンガス ヨーグルト色のタンク 畳と 座布団 傷んでいる 傾いた板張りの縁側ふち 虫が湧く 鳩時計はおかしな時間に 鳴るが誰もなおさない 瓦からトタンに流れ

          熱病

          家を出ると既に陽射しが強い。自転車に跨り職場に向かう。すぐに汗が噴き出す。この何日かはひどい猛暑だ。 朝の通勤時間帯、なかなか開かない踏切を越えたあたりで左腕を眺め、腕時計を忘れたことに気づいた。腕時計自体、無くとも仕事に大きな支障はない。携帯電話をみれば事足りる。 ペダルを漕ぐ足に力を入れて、腕時計のことを頭から振り払う。毎朝通る道々の景色が流れてゆく。住宅地を抜けて大きな幹線道路へ。 歩道をすれ違うひとびとは、圧し潰すような熱気に俯き、歩いたり自転車に乗っている。なかに

          パドック

          依頼された住所についた。アポイントより早めに着いたので、周りを歩いた。団地の北側にはささやかな川が流れて、雑草に覆われた土手のなかに、ちらほらと咲く花が春を主張している。携帯灰皿に揉み消した煙草を収めて、依頼先のチャイムを押す。 男はTシャツに短パン姿で扉を開ける。おそらく同世代。ふくらはぎは堅そうで、肌は健康的に焼けて張っているが、髪は薄くなりかけている。その下に、赤ん坊のように大きく眠たそうな目がふらついて、小さな声でよろしくお願いしますとつぶやく。 家のなかを査定し

          パドック

          暑中お見舞い

          何年ぶりか、熱が出た。もともと平熱の低い身体にとっては38度を越えればつらい。関節や筋肉が痛むけれど、意識ははっきりとして、何年か前、インフルエンザで熱が出たときとは違う。夏風邪。ヘルパンギーナ。保育園に通う息子からうつったのだろう。食欲はある。 冷凍されていた御飯を解凍し、冷蔵されている惣菜で腹に入れる。体力の回復を待つ。時間しか解決しない。しんどければ横になり、あわよくば浅い眠りにつく。 夢をみる。たわいのない話だての夢。起きては小便をしてスポーツドリンクを摂り、また眠る

          暑中お見舞い

          暮らしの手帖

          昨晩きみは もしくは おれは しくじったかもしれない あるいは 三日前 半月前 二十年前 七百年前 折り重なった悔恨 を 嫌が応にも呼び醒ます 貫かれた 時間 の なかで でも だから 壊そう ながく続く 執着を ながく居座る 時間とやらを … … am 6時 公園に行けば ようやく顔を出した太陽を ビッグバンに見立てて はじめて 次元が 流れ出した と 信じ こむ まっさらに 歴史が始まる 東からの眩しい光に包まれて 砂場でピラミッ

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          mのこと

          無かったことを有るように騙ることと、有ったことを無いこととして忘れ去ることの、どちらが罪深いのだろうか。都合よく変容させられた記憶は曖昧で、主観と客観、虚と実が転倒してゆく。 mは幼馴染だった。どこかの街からやってきて、小学生になる前からお互いの家を往き来した。お袋同士も知った仲だった。mのお袋さんは、大きな目と頑丈そうな歯でよく笑った。この街にはない訛りがある。 小学生になると、mは少しずつ存在感を消していった。やがて遊ぶ機会は減った。そのまま同じ中学校へ進学した。