頬杖のひと
上品な栗色の髪だった。長さは肩に届くか、届かないかぐらいだった。
肌はすこし日焼けしていた。鼻筋のはじまりはなだらかで、先に近づくと急に高くなっている。そんな横顔だった。
たしか、ライトグレーのサマーセーターを着ていて、その襟もとはややくたびれていた。
いたってありふれたアパートの一室には不釣り合いな事務机が西側の窓際にあって、彼女はただ頬杖をついていた。
傾いた日差しは、ちょうどパイプいすに座っている彼女の辺りまで届いていた。
おそらく、サマーセーターしか着ていなかったのだろう。
頬杖を支える二の腕の肉づきと、その芯の骨格まで察することができた。
音のない部屋だった。聞こえるはずの息遣いさえ、そこにはなかった。
すべてが静止した夢を見ることがある。けれど、いつもそういうわけではない。
風が吹き過ぎる枯野では芒やセイタカアワダチソウが思い思いに揺れていたり、ひとり暮らしにピリオドを打つシーンではスタッフと会話していたりする。
その夜の夢には、日常との関連性があるときと、まったく説明のできないシーンやストーリーのケースがある。
今日、明け方に見た夢は後者だった。
夢の登場人物は、かならずどこかで出逢っているという。
けれど、思い出しても、思い出しても、彼女に出逢った覚えがない。
それに、横顔だけだった。
頬杖をついていたのは、なぜ事務机だったのだろう。
パイプいすではなく、もうすこし味のある使い古した骨組みの木製だったらよかった。もっと想像力が掻き立てられただろうに。
若い世代には失礼かもしれないけれど、彼女がスマホを見ていたら、わざわざここに書かなかっただろう。
そういえば、頬杖はかなり好きなポーズだし、小ぶりな鼻がちょっと上を向いているのも悪くはない。
結局、彼女はぼくの憧れだったのだろうか。
月並みだけど、今夜、再会できないだろうか。
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