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本当にこまりました

 路地裏の文化住宅の一室に引っ越してきて、いつも気になるなぞがある。
夕方になると、ご近所で犬が吠えているのが聞こえる。
 けれど、いまだにぼくは出会ったことがない。
 「吠えている」と書いてしまったけれど、その声は高音なので、子犬か小型犬だろう。本当は「ないている」と表現したかった。ただ、ピッタリくる文字の選択ができなかったから、ついつい、事実を脚色してしまった。小型犬などの声はどれを選択すればいいのだろう。

 しかし、すぐ近くで聞こえているのに、なぜ出会わないのだろう。
 この文化住宅は、二階建てで十軒ほどは並んでいて、両サイドから広い道路へ出られるようになっているし、決まった方角からしか行き帰りしないわけではないので、半年あまり経ってもあの声の主人公と顔を会わさないのは気になってしまう。

 今日も犬の声を聞きながら、ぼくは思案に暮れていた。
 今朝の洗濯物がまったく乾かないのだ。
 二日前の天気予報では、今日あたりの梅雨入りの可能性と一週間ほど雨模様がつづくことを伝えていた。

 ほぼ室内干ししかできないこの部屋に引っ越して、はじめての梅雨を体験する。訪問入浴が週二日くるので、浴槽を設置する六畳のぼくの部屋にほとんどのタオルや衣類が干されることになってしまう。

 大事なことは、訪問入浴スタッフの導線の確保だ。
 いつか、noteに書いたことがある。洗濯の量や予定とほかのスケジュールをコントロールすることが楽しくなったと。
 
 ところが、今回は見通しが甘かった。
 いつ、雨が本降りになるかわからない。ヘルパーさんにコインランドリーへ走ってもらうのもややこしい。
 エアコンを使うのは、まだ寒い(ぼくは寒がりで、暑がりだ)。
 浴槽を設置するぼくの部屋に、干していたジーパンやTシャツなどの乾きにくい衣類を入浴スタッフの導線にかからない場所へ移動させ、比較的融通が利くタオル類をこちらへ持ってきた。そして、扇風機をすぐそばで回している。

 ちょっと、ドタバタした。ヘルパーさんの事業所の集金の約束をすっかり忘れていて、介護料を用意していなかった。取りに来てくれたのはハードスケジュールをこなすFくんだったのに、とても申しわけないことをした。

 まだ電動車いすで出かける体調ではない。午後から、電話で定期的な受診をしてもらった。あと二日のうちに、空模様をうかがいながら、ヘルパーさんに顔なじみの薬局へ走ってもらわなければならない。オンライン会議の準備もしなければならない。すこしでも車いす生活へ戻るために、リハビリとマッサージもお願いしなければならないし、わずかの時間でも車いすに乗り、体を慣らさなければならない。
 もちろん、三食をすまさなければならないし、トイレを怠ることはできない。

 前の段落で、イヤというほど「ならない」がつづいた。
 作業所へもほとんど顔を出せなくなり、いまはオンラインが主流になったとはいえ、さまざまな役職を若い世代へ譲ることによって出席する会議も減ってきた。
 けれど、日常生活の一つひとつの行為に多くの時間を要するぼくにとって、ヒマそうで慌ただしい毎日はずっとつづくのだろうか。

 まったくありふれた毎日を取り上げた。ほかの投稿で内容が重なる部分も多いだろう。
 でも、今日、ぼくが感じたことをそのまま文字にした。

 最後の一行まで、読んでもらえる人がいるのだろうか。 

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