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深夜の胸やけ

 久しぶりに、ヘルパーさんと買い物へ出かけた。ここのところ、悩まされている腰痛もおとなしくしてくれていて、片道四十分ほどの風景やすれ違う人の様子を楽しみながら歩いた。
 買い物の目的は、泊まりのヘルパーさんにオゴル夕飯の食材探しだった。 
 十五年ほど、わがまま放題なぼくの専属ヘルパーとして活躍するHくんの誕生日だから、ごちそうを準備しようと思ったのだった。
 コトの良し悪しはさておき、ときどき差し入れをいただいたり、おすそ分けをさせてもらったりしている。
 ヘルパー事業所さんの「ゆるさ」に感謝。

 ついでに、寄り道をして隣町から移転したばかりのピロシキの有名な店で、昼食を買っていく。混雑する時間帯かと心配していたら、意外にお客さんは少なくて、レジにも並ばなくてよかった。
 やはり人混みに入るのは、すこしためらうようになった。
 定番のカレーピロシキは、あいかわらず生地がモチモチしていて、日をあけなくてもリピートするだろう。
 食後、ひと息ついて、お昼のヘルパーさんに伝えたいことを思い出した。

彼は、三日前にも朝から夕方まで来てくれていた。
 いつもおかずが何品か残っている冷蔵庫の中は、お漬物やつくだ煮といったごはんの友まで底をついていた。ついでに、冷凍ごはんも。

 開店直後は品数もかぎられている。洗濯などを済ませてもらってから、近所のスーパーへ買い出しをお願いした。普段は、自宅でもわが家でもあまり料理をつくらないヘルパーさんなので、三食まとめて頼むことにした。
 合わせて千円をすこし超える程度に収まった。
コスパの高い店だから、たまの一日であれば家計にはひびかない。

 冷蔵庫に入れると、コメが硬くなりそうなにぎりの「イカづくし」を朝食へまわして、サンドイッチを昼食にする。
 もともと、サンドイッチとおすしについてはアバウトにお願いしていた。
そして、その二品は朝食と昼食をイメージしていた。
 ただ、夕食だけは彼におまかせすることに。

 彼も週に三日わが家に来るベテランヘルパーさんだ。
 話は横に逸れるが、コリをほぐすのが得意中の得意だ。
ぼくにはこそばされている感覚しかないのに、いつのまにか張りが消え、血のめぐりがよくなったときのシップを体の内側から貼られたような爽快さがひろがる。
 心強い存在だ。

 話はもどる。
近所のスーパーへ買い出しをお願いしたとき、夕食をおまかせにした。
理由がなかなか「おもしろい」。
 二人の味の好みは、ほぼ正反対に近い。
 そういえば、何度も失礼なことを重ねてしまったことがあった。
ぼくの何よりも好物の甲殻類が、彼はとても苦手ならしい。
食事介助のとき、「うまいから、ひと口食べてみぃ」と言って、エビフライやカニ身を何回すすめたことだろうか。
 「苦手なんで」の言葉に、「そうやったなあ」と返して、ふたりで苦笑いした。
 少なくとも、コロナが拡がる前までは…。
 
 当然、彼には彼の好みがあり、こだわりがある。
 ついつい、そこを忘れてしまう。

 それでも、お惣菜やお弁当を「おまかせ」でお願いすると、高い確率で「いま」食べたいものを買ってきてもらえる。
 しかも、めったに選ばないもので、大当たりが飛びだすこともある。
 彼のカンの良さは、グンを抜いている。

 ところが、三日前のチョイスには誤算があった。
彼が夕食をイメージして買ってきたメニューは、あさりごはんとイワシの南蛮漬け、それにレンコンとエビのすり身のはさみ揚げだった。
それほど多い量ではなかった。少なくとも、五年前なら軽く平らげていただろう。

 日付が変わるころまで、大変な胸やけだった。
 あらためて、年齢を実感する夜になった。

 今日、彼と顔をあわせて、驚きと後悔の夜を思い出した。
さっそく、伝えたら「歳ですなぁ」と笑顔だった。

 いま、彼はカーテンを隔てたところで、ぼくのまわりくどい文章の入力をしている。
 仕事とはいえ、いつも誠実におつき合いしてくれている彼に、たこ八郎の名言を贈りたい。
 「迷惑かけてありがとう」
住む家を持たず友人宅を渡り歩きながら、この言葉を書置きして、次の場所へと去っていったという。
 
 ぼくはここにいる。ずっと、ここにいる。
 「これからもよろしく」も、添えておきたい。

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