“戦争とセックス、どちらの方が醜いと思います?”_”The People vs. Larry Flynt”(1996)
「カッコーの巣の上で」「アマデウス」と一貫して、突出した個人と出る杭を打つ社会の関係性を紡ぎ続けた、ミロス・フォアマン監督「ラリー・フリント」から。
「性の解放」。
アメリカでは「プレイボーイ」が生まれ、2番煎じで「ペントハウス」が生まれ、そして70年代には、スキン・マガジンと呼ばれるヌードのエロさで勝負するような雑誌が生まれていく。
これは、無修正のポルノ雑誌「ハスラー」を創刊したラリー・フリントと、その周囲、周囲にすらいなかった人々との物語。
つるんでいた仲間、Altheaが「プレイボーイ」のページをめくっていたところ、「プレイボーイ」をディスるシーンからの引用。
flip through · ~をパラパラめくる[めくって調べる] · 〔テレビのチャンネルなどを〕素早{すばや}く変える◇素早くスイッチする動作を示す.
tit 乳首
fuzzy 〈布・衣服が〉けばのような,けばだった. ... 〈毛髪が〉ほぐれた; 縮れた. ... 〈もの・考え方など〉ぼやけた; あいまいな.
アルシア 彼女の乳首がいいね。
フリント よくは見えるが、見たいものを見せてないね。この雑誌がぼやけた写真や記事ばかり載せているのが分からない、そしてこの雑誌の記事がなにを話題にしているのか、いったい全体分からないね。
ずばり、フリントの創刊の動機は「'PLAYBOY'はボケた写真ばかりで、見たいものを見せてないじゃないか」 ここにあった。
だから、「ハスラー」はシャープに“全て”を見せる写真を掲載することにした。無修正、ばんざい!
映画の前半は、自ら雑誌作りにのめり込むフリントの姿が描かれる。モオツアルト同様にアナーキーな世界の住人となる。
ハダカを直に見せろ。フリントの執念は凄まじい。時に常軌を逸した言動を取る。
例えば、モデルの花の位置に拘ってばかりで、なかなか撮影を始めないカメラマンに対し、苛立ったフリントは、こう言う。
prop · 支柱,支え,つっかえ棒 · (心の)支え,支えとなる人,支えとなるもの · (芝居などの)小道具
defy 【他動】 〔権力・法令・規則などに〕逆らう、従わない
以下、私の拙い訳:
意識高い人も、どうか怒らずに、70年代という時代を鑑みてほしい。
「俺たちはお花屋さんを経営してるんじゃないんだ。女の子を売ってるんだ。だから小道具や枕や花と戯れるんじゃなくて、女の子を撮れ。」
「なんて完璧なヴァギナなんだ、女性の顔と同じくらい秘めたるところ。」
「同じ神サマが女性のヴァギナを生み出したんだ、神に逆らうってのか?撮るんだよ。」
恐れ知らずの目論見は当たった。最初は8~10頁白黒のささやかな雑誌だったが、売れ出すにつれ頁数も増え、カラー印刷になって行った。大成功でLarry Flyntは大金持となる。
当然、雑誌の売れ行きに比例して保守的な人々の嫌悪も増大した。
まず、地元の裁判で公序良俗に反すると25年の刑を受けた。
5カ月後、保釈で出所したフリントは大会議場でこう訴える。ちょうど「カッコーの巣の上で」が爆誕した、1975年の史実であることを踏まえてほしい。
obscene 〈思想・書物など〉(性的に)品位を乱す,わいせつな. ... 鼻持ちならない,実に不愉快な[いやな].
「戦争とセックス、どちらの方が醜いと思います?」
ガツンと一発、素晴らしいひとこと。 当然、さらに保守層の反感を買う。
映画の後半は、彼が巻き込まれる裁判の描写に充てられる。彼も彼の妻もボロボロになっていく。それでも、「直に見せろ」と一貫した主張を、彼は曲げることはない…
ミロス・フォアマンお得意の「世間対個人」の闘争。行動力、栄光と反感の声、奢りと堕落。見るものをのめり込ませる、見事なエンターテイメント。
「表現の自由・不自由」を夜なべして考えたい方、ぜひどうぞ。
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