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また行きたい場所2

鰊御殿(にしんごてん)/ 北海道 小樽

2018年7月30日。
北海道は私が住んでいた30年前と比べて東京並みに暑い日がすっと続いていた。この日もクラクラするほどの暑さ。

遠く離れている弟が電話でよく北原ミレイの石狩挽歌を歌った。
弟は昭和50年生まれ。どうしてこの歌を知っているのかは定かではない。
「番屋の隅で飯を炊く」「沖を通るは笠戸丸」
にしん漁に沸く北の果て。
もう自分では見に行くことができないだろう弟に代わってこの目で見て話してやろう、急にそんな思いに駆られた。

訪ねた時には番屋には観光客は一人もいなかった。受付でチケットを買おうと奥の女性に声をかけると「おひとりですか?」と聞かれた。思わず財布からお金を取り出そうと下を向いていた頭を上げた。自分の後ろも振り返った。
「誰か見えましたか?」
ただ機械的にいつもそうするように聞いただけの女性も、吹き出して笑った。
おかしくてしばらく二人で笑った。

「お客さん、ゆっくり見てって」
緯度が高いからなのか刺すような日差しの外とは打って変わって気持ちいい涼しさ。大きな窓から風がすーっと座敷の奥まで吹き渡る。
当時の栄華を思わせる大きな屋敷。
今にも多くの使用人の野蛮な大声が聞こえそう。

歌に出てきた笠戸丸、大きな窓の向こうに私には確かに見えた。
弟も見えたと言うに違いない。

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