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光合成のその先

先日こんな記事を見つけた。

 トヨタ自動車グループの豊田中央研究所(愛知県長久手市)は21日、太陽光を使って水と二酸化炭素(CO2)から有機物のギ酸を生成する「人工光合成」の効率を世界最高水準まで高めることに成功したと発表した。(中略)  豊田中央研究所は2011年に、水とCO2のみを原料とした人工光合成に世界で初成功。当初は太陽光エネルギーを有機物に変換できる割合が0.04%だったが、改良を重ね7.2%まで向上させた。植物の光合成の効率を上回るという。

光合成とは光エネルギーを利用して二酸化炭素と水から有機物を合成する生化学反応である。それを人工的に、しかもかなりの高効率で成功させたというのだ。化石燃料の代替となるような燃料の製造などを期待してしまう。

ところで一概に光合成と言っても高性能な光合成機能を持った植物が存在している事をご存知だろうか?例えば「猫じゃらし」は外に出るのも嫌になるような暑い日でも水をあげていないのに元気に育っている。実は猫じゃらしはターボチャージャーを持っているのだ。ターボチャージャーとは空気を圧縮して密度を高め、より多くの酸素を燃焼室に送り、エンジンの出力をあげるパーツのことだ。猫じゃらしは二酸化炭素を炭素が4つついたリンゴ酸などの化合物にしてから光合成を行う。つまり炭素を圧縮して光合成効率を高めているのだ。まるでターボチャージャーのようではないだろうか。トウモロコシなども同じ仕組みを持っている。

更にこれらの植物は気孔を開いた時に取り入れた二酸化炭素を濃縮させるので一度にたくさんの二酸化炭素を取り入れることができる。そのため気孔を開く回数を減らすことができる。その結果、気孔を開いた時に逃げ出していく水分の量も減らすことになり乾燥に強くなる。猫じゃらしやトウモロコシが乾燥した夏の炎天下でも元気なのはこういった理由があるからだ。しかし同時にこんな疑問も生まれる。これほど優れた仕組みであるにも関わらず、なぜ世界中の植物のうち1割ほどしかこの仕組みをもっていないのか。実は猫じゃらしは大きな弱点を抱えているのだ。先ほど説明したように猫じゃらしは二酸化炭素からリンゴ酸を作り出して、それから光合成を行う。つまり通常の光合成よりも余分に光エネルギーが必要なのだ。光が強い条件下であれば最高のパフォーマンスを発揮するが、温度が低かったり光が弱いとどんなに二酸化炭素を送り込んでも光合成効率は上がらない。そのため熱帯地域では圧倒的な優位性を発揮できるが寒冷地域ではむしろターボチャージャーが邪魔になるのだ。鈴鹿サーキットでは能力を存分に発揮できるスポーツカーも渋滞のノロノロ運転では普通車よりも燃費が悪くなってしまうのと似ているのではないだろうか。

参考文献1:「世界最高水準の人工光合成に成功」,閲覧日2021/05/02.
参考文献2:稲垣栄洋,「面白くて眠れなくなる植物学」,PHP研究所,(2016)

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