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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(… もっと読む
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記事一覧

【読んでみましたアジア本】かつては心身ともに潰されそうになったこの都市を愛するということ:カレン・チャン『わたしの香港 消滅の瀬戸際で』(亜紀書房)

毎日ニュースチェックをしていて、どんなに丁寧に読んでいるつもりでも、しばらく現地を離れていると現地の空気というかムードがいつのまにかぼんやりとしてくる。そんなこともあって毎年最低1回は香港に行っての「定点観測」は欠かせない。

その定点観測で最も参考にしているのが、友人たちの話やその表情だ。30年来の友人はもう幼馴染のようなもので、適当にぽーんと疑問や質問を投げてもわりときちんと受け止めてくれる。

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『時代の行動者たち』書評続々

昨年12月に白水社から刊行した『時代の行動者たち 香港デモ2019』ですが、このところ続々と新聞各紙でご紹介いただいています。

●日経新聞 2024年3月9日朝刊

「多層的な運動 担い手の証言」 評者:国分良成・前防衛大学校長

●毎日新聞 2024年3月9日朝刊

今週の本棚 評者:米村耕一・毎日新聞外信部デスク

●しんぶん「赤旗」 2024年3月10日朝刊

「デジタル時代の社会運動を研

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【読んでみましたアジア本】世界のあちこちに存在する「中国」を拾い上げる/安田峰俊『中国vs.世界 呑まれる国、抗う国』(PHP新書)

2023年度の四川省成都市主催のSF大賞「ヒューゴー賞」にまつわる騒ぎについて記事を書こうとさまざまな資料を読み漁っているとき、欧米SFファンや関係者が訴える「疑惑」の既視感に困惑した。

外国の権威ある大賞の名誉や栄誉に預かろうとする中国の狙いは今に始まったことではない。そしてその目的遂行のためにできる限りの組織票を動員して自国に有利な状況を作るための、ゲリラ的な活動はお得意である。さらにはそう

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240228 【ダイヤモンド・オンライン】寄稿:「SF界のノーベル賞」に中国政府が介入?中国主催で起きた“史上最悪のスキャンダル”とは

240228 【ダイヤモンド・オンライン】寄稿:「SF界のノーベル賞」に中国政府が介入?中国主催で起きた“史上最悪のスキャンダル”とは

公開が前後してしまいましたが、こちらがnoteにアップした《【ぶんぶくちゃいな】英語化されていない作品が受賞も? 成都主催「SF界のノーベル賞」ヒューゴー賞を巡る大スキャンダル》の基礎入門記事となります。とにかく資料を読み進めていくうちに、こりゃサイト記事の文字数には収まらんがな、と気づき、メルマガ+noteで記事にしました。

こちらの記事で書いたのは、一般の人の理解からすると、「なんでこうなる

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【読んでみましたアジア本】「知っている」からこそもっと「丁寧に知る」:野嶋剛『台湾の本音』(光文社新書)

日本社会にはあまりインパクトを与えるニュースではなかったものの、華人社会ではここ2年ほど注目の的になってきた台湾総統選挙と立法院議員選挙が終わった。
特に総統選挙はこれまでさまざまな紆余曲折を経て、一時は野党・中国国民党(国民党)が有利とも言われたけれども、とうとう与党・民主進歩党(民進党)が政権3期目入りに成功した。

1996年に始まって4年毎に行なわれてきた総統選挙では、これまで国民党と民進

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【読んでみましたアジア本】2024年を前に読んでおきたい、お薦めアジア本

今年最後のアジア本は、恒例の年始年末お薦め本。今年、「読んでみましたアジア本」でご紹介した本の一覧を書き出したところ、なかなか収穫の多い1年であったように思われる。

特に、今後アジア情勢を観察する際に、基礎的知識を身につけるための「教科書」として何度か読み直すだろうと思われる本が数冊入っており、きっと将来、「読んでてよかった…」と思えるときがくると感じている。というか、すでに感じている。

ただ

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【読んでみましたアジア本】 日本語で聴ける貴重な当事者の証言/番外・ポッドキャスト『Asia Frontline』「白紙運動1周年:デモ参加者に聞く舞台裏と中国のいま」

とうとう11月が終わる。そして、すぐに2023年も終わる。あっという間だった。

そこで質問。みなさん、1年前はどんなふうにお過ごしだったか、覚えているだろうか?

ちょうど1年前は、我われもまだ生活の隅々でコロナの影響を大きく受けていた。そして、まさにそんなムードの下、東京JR新宿駅前では在日中国人たちが集まって、中国のコロナ対策、そしてその他さまざまな政策に抗議するデモが行われたというニュース

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【読んでみましたアジア本】「絶縁」をキーワードにアジア作家9人が競作/村田沙耶香、アルフィアン・サアット、郝景芳ら『絶縁』(小学館)


いやー、のっけからだが、非常に面白いコンセプトの一冊だった。アジア各地の作家が1つのテーマに沿って書き下ろした作品がまとめられているのだ。

参加した9人のうち、筆者は中国の郝景芳(ハオ・ジンファン)、またこの連作コンセプトの発案者でもあるという韓国のチョン・セランの作品はこの「読んでみました」でもこれまで紹介してきた。その他はアルフィアン・サアット(シンガポール)の名前はどこかで耳にしたことが

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【読んでみましたアジア本】生々しい「今」のインドがぎっしり詰まってる/近藤正規『インド−グローバル・サウスの超大国』(中公新書)

この「読んでみました〜」も今までいろんな本を読んできましたが、とうとう、というか、新書も1冊1000円を超える時代になったのか……というのが本書をポチったときの最大の感慨だった。

長らく新書は「1000円以内の知識普及版」的な存在のはず。その新書の価格が一線を超えたことに、日本の物価高もここまできたか、という思いだ。もちろん、物価の変動は無視できない現実なのだが、なんというか、ある種の定番商品の

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【読んでみましたアジア本】台湾が混乱を経て積み上げた知見から学べること:栖来ひかり『日台万華鏡』(書肆侃侃房)

わたしがかつて住み慣れた中国から、次々と知人が抜けていく。これまで会ったことはないけれども、ツイッター(「X」ではなく、本当に「ツイッター」だった時代)では親しかった人からもダイレクトメッセージが届き、「東京に移住するメドがついたので、機会があったらぜひ会いたい」という連絡をもらった。

さらには今も足を向けずにはいられない香港からも、どんどん人がいなくなっていく。ひょっこりとフェイスブックに顔を

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【読んでみましたアジア本】劉慈欣・著/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ・訳『超新星紀元』(早川書房)

中国関連本の世界では超快進撃を続けていると言ってよいSF作家、劉慈欣氏の最新翻訳書を手に取った。紹介によると、大ヒット作『三体』シリーズを含め、劉慈欣の日本語翻訳作は9作目になるという(その他、短編が別の中国SFアンソロジーに収録されているが、それは数に入っていない)。翻訳、というだけで嫌がられる日本において、特に中国の小説本としては、過去にない大ヒット作家になってしまった。

この「読んでみまし

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【読んでみましたアジア本】香港と上海、南京条約で生まれた「双子都市」の「その後」/榎本泰子『上海 多国籍都市の百年』(中公新書)

いつも香港を訪れた際に必ず声をかけて会う友人たちがいる。香港時代からの友人、その後知り合った香港人、さらに香港に暮らす日本人、そして北京出身香港居住者のほかに、いつの間にか気付かないうちに、「上海出身の香港人」というグループが増えていることに気がついた。

自分でも不思議だった。香港人や日本人はともかく、なんで上海に暮らしたこともないわたしのそばに上海出身者たち?

わたしは、上海は独特の文化を持

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【読んでみましたアジア本】若い女性にかぶせて語られる、100年前の志士たちの姿/笠井亮平『インド独立の志士「朝子」』(白水社)

日本では、「アジア」という言葉を聞くとまず「戦争」を思い出す人たちが、多分まだ一定数いると思う。もちろん、そんな「戦争」や「戦後」(だけから)の視点から脱却しようとする動きは明らかにあるし、初めての「アジア」体験がそれ意外だという世代もかなりを占めようになっているので、必ずしも「戦争」絡みの話題がいまだに日本人のアジア視点の中心だといい切るつもりはない。

正直、筆者もアジアといえば戦争の記憶(あ

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【読んでみましたアジア本】政治家失脚の影に絡むカネ、そして権力の切っても切れない関係/デズモンド・シャム『わたしが陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット:中国の富・権力・腐敗・報復の内幕』(草思社)

むむ、むむむ…かなり濃厚で、強烈な一冊である。ここで描かれている世界について、筆者はもちろん詳しくは知らないけれども、同時代を中国で過ごした筆者にとってその内容に違和感はなかった。

中国の政界や政治にかかわる人物(敢えて「政治家」とは呼ばない)をおどろおどろしく、またさも自分が実際に目にしたかのように書く本は山ほどあるが、ここまでつぶさに自身が体験した上で中国政治とカネを巡る関係を描いた本はなか

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