【ぶんぶくちゃいな】中国「主旋律」プロパガンダ映画の新たな時代

最近、中国のSNSのタイムラインに「紅海行動」という映画がよく話題に上がっていた。ただ「話題」とは言っても、わたしの友人が流すメッセージの中には、「あんな血だらけの映画、子供連れで入っちゃダメだわ」という声もあり、実際に「香港では映画管理条例に基づいてレート3指定上映になった」という報道もあった。

香港のレート3というのは、いわゆるR-18指定というやつで、性的描写や暴力的なシーンが多いために「18歳未満お断り」の作品につけられる。だが、中国には映画レーティング制度がない。というのも、中国では公開の前に政府の検閲システムによって、性や暴力、そしてもちろん政治などがチェックされており、ポルノは当然公開されない。で、結局公開されるのは「大人も子どももオッケー」な映画だというのがタテマエになっているからだ。

だが、中国では親に連れられて米映画「バイオハザード」を見た子どもがビビって映画館で大泣きした、という話もネットに上がっている。ちなみに同作はアメリカでは「17歳未満保護者同伴必須」、日本では「12歳未満保護者同伴推奨」、また台湾や韓国ではR-18指定とされているのである。ゲームから派生した作品だからと、無邪気に小さな子供を連れて行くと大変な騒ぎになるというわけだ。

中国の映画好きの間でもこうしたレート制を導入すべきだ、という声が高まってはいるものの、そうなると、国家新聞出版広電総局(以下、広電総局)の検閲によって国内上映に至らない作品もレーティング制で制限をつけながら公開するのは可能性じゃないか、ということにもなりかねず、当局はレーティング制導入自体にそれほど積極的ではないといわれている。

だから、映画館で公開上映されているからと子どもを連れて行くととんでもないことになるわけだ。とはいえ、中国では1990年代くらいまで町中の掲示板に交通事故で亡くなった人の遺体写真がどーんと貼られていた。「交通ルールを守りましょう。守らないとこうなるよ」という直接的な見せしめキャンペーンだった。さすがに今ではなくなったけど。

親なんだからそんな映画に子ども連れていくなよ!と思うだろうが、「紅海行動」は春節初日(2月16日)に封切られたときにはそれほど目立った存在ではなかった。しかし、じわじわと話題を集め、上映わずか24日間程度の現時点で興行売上が約33億元(約556億円)を突破した、春節映画「大勝ち組」となった。アクションたっぷりで、海軍機材がふんだんに出て来るそうだし、じゃあ息子と一緒に見に行くにはぴったりだと思った親がいても不思議はなかった。

●香港人アクション監督作のプロパガンダ映画が大ヒット

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