【ぶんぶくちゃいな】中米関係に足取られた中国当局に追い詰められた滴滴

中国ビジネスの動向に多少なりとも関心を持っていれば、先週末直前の中国当局による配車予約サービス「滴滴出行 DiDi」(以下、「滴滴」)に対する調査開始のニュースにはびっくりしたはずだ。

滴滴は現地時間の6月30日(北京時間7月1日)に米国株式市場で上場を果たしたばかり。2年前にも上場の準備を進め、あと一息、というところで、配車サービスを利用した女性客が運転手に暴行され、殺されるという事件が立て続けに起きた。この事件に対する滴滴の初動が鈍く、対応がまずかったことから利用者たちからの激しい批判にさらされ、そこから当局の介入を招くという悪循環に陥った。当然上場は見合わせとなり、滴滴全体に与えた衝撃は大きく、その業績にも影響した。

それでも、滴滴は中国の配車サービスにおいてトップのシェアを保ち続けた。というか、市場規模が5000億元(約8兆4千億円)といわれる中でシェア84%を握り、その他サービスを完全に寄せ付けない独走ぶりである。

だからこそ、「阿里巴巴 Alibaba」(以下、アリババ)系列の支払いサービス「アリペイ」を運営している「アントグループ」とともに、「上場が待たれるユニコーン企業」のトップを長年争い続けてきた。「ユニコーン企業」とは評価額が10億米ドル以上の創業から10年未満の未上場スタートアップ企業のことで、2012年創業の滴滴にとって今年は「ユニコーン企業」の最後の年に当たる。

それが、上場翌日に中国当局が滴滴に「国家データ安全リスクが存在する」として調査に乗り出したことを表明し、同時に新規ユーザーの登録を停止させるという措置を取った。

このニュースに多くの人たちの脳裏には、昨年11月に香港と上海で同時上場を予定していたアントグループがその2日前に突然上場中止を宣言した事件が思い出されたことだろう。中国ユニコーンの待ちに待った上場に急ブレーキがかけられたことは衝撃的でさまざまな「後遺症」が起き、いまだにそれが「癒えた」とは言えない状態だ。それに続く今回も「またか」というムードが一瞬漂った。そこからすぐに「巨大化する企業を中国政府はやはり警戒している」「資本主義的な影響を恐れている」といった推測に基づく論評を発表した媒体もあった。

だが、よくよく考えてみれば、「資本巨大化する企業を中国政府が警戒している」という単純な図式で判断できるのであれば、上場どころか「巨大化」なぞ許すはずがなかった。少なくとも世界経済を牛耳りたい中国にとって、自国企業が世界的な影響力を持つことは歓迎こそすれ、「警戒している」とくくるのはさすがに単細胞である。

特にこの物言いは上場直前でストップがかかったアントグループのケースではまだ一理あるようだが、今回は上場後に起きたこと。だいたい、これまで中国政府が自国企業の海外上場直後に大規模な規制を始めたことはなかった。だからこそ衝撃的だった。

またすでに国有企業ですら米国上場を果たしている中で、中国当局だってそのアクションが中国概念株にどれほど激震をもたらすのかは理解している。しかし、乗り出さずにいられなかった事情があったというわけだ。

一方で滴滴の上場を振り返ってみると、実は当局がなんらかのアクションを起こす可能性を滴滴側もうっすらと警戒していたフシがあったことがよくわかる。だが、その時はほとんどの人たちがその意味を完全に読み間違えていたのだが。

こうしてだんだん明らかになってきたこの滴滴事件の真相は大変中国的なお話が絡み合っており、なかなか興味深いのでじっくり最初から振り返ってみたい。

●ニューヨーク上場当日の奇妙な光景

考えてみれば、確かに奇妙だった。

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