【ぶんぶくちゃいな】「Be Water 水の流れのように抗議せよ」香港デモの今

7月1日、香港の主権返還記念日。

毎年この日には、まず現地時間の朝8時に香港コンベンションセンター外にある金紫荊広場(ゴールデンバウヒニア広場)で、中華人民共和国旗と香港特別行政区旗の掲揚式が行われ、出席者は国歌である「義勇軍行進曲」を斉唱する。その後、コンベンションセンターのぼーるルームで中国中央政府(以下、中国政府)及び香港特別行政区(以下、香港政府)関係者と招待客のみで主権返還(回帰)祝賀式典が行われる――これが、香港政府の公式行事となっている。

一方、2003年のこの日、中国から無警告のもともたらされたSARS大流行のおかげで世界保健機関に香港が渡航禁止区域に指定され、経済が大打撃を受けたこの年以降、民間では午後にコーズウェイベイ地区のビクトリア公園に市民が集まるのが恒例化した。そこからコンベンションセンターそばにある香港政府庁舎まで約2キロあまりの道のりを、シュプレヒコールを挙げながら行進するのである。

このデモ行進は、その年の香港の政治ムードを反映するバロメーターになっている。2003年には50万人もの市民が街を練り歩き、当時議会にかけられていた保安条例の立法化が棚上げになった(そして、当時の董建華・行政長官が辞任した)。その後の参加者数は増えたり減ったりしながらも、この50万人を超えることにはならなかった。しかし、今年は「逃亡犯条例」改訂を巡ってすでに6月に100万人、200万人デモが実現しており、さすがに市民のデモ疲れもあって7月1日デモの参加者はそれを超えることはないものの、それなりの数が集まるだろうと予想されていた。結果、主催者発表によると55万人が参加、2003年を上回る過去最高の市民が参加した「七一デモ」となった。

だが、みなさんもすでにご存知の通り、今年はそれだけで終わらなかった。前述したような恒例化した「7月1日行事」のほかに、抗議者たちによる立法会ビル突入という大事件が起きた。香港の最高議決機関である立法会の議場と議員事務所が入居するビルのガラス壁に、鉄パイプをくくりつけた鉄製台車を衝突させる場面を見た香港市民は驚愕した。

わたしも、ネットの中継でその様子を目にして、一体何が起きているのか、衝突を起こしているのは誰なのか、そして何が目的なのかわからず、混乱した。それを伝えるメディアのほとんども、ただただ驚きながらその様子を垂れ流すばかりで、誰もそれをきちんとした脈絡をもって解説してくれる人がいなかった。

そして、日本メディアは今に至るも、きちんとその脈絡を視聴者や読者に伝えきれておらず、その結果、大きな不安と恐怖と誤解が日本で事態を見守る人たちに植え付けられたままとなっている。

まずはその誤解を解くために、こちらの記事(無料)読んでいただきたい。香港の時事評論家であり、日頃から社会的な誤解にデータをもって論破するのを得意としている梁啓智さんによる事件の概要である。

◎「梁啓智:あれは突撃じゃない。彼らは死ぬ気だった。」

今週の「ぶんぶくちゃいな」はこの記事を前提に、まだまだ日本のメディアが理解できていない、香港の抗議活動の現在における途中経過をまとめておく。

●ヘルメットとマスク――日本人の記憶にあるイメージ

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