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【検証】アリババのジャック・マーは本当に「模造品の多くは本物より優良」と言ったのか?

NewsPicksでAFPの記事「アリババ創業者、『模造品の多くは本物より優良』」がピックされ、さまざまなコメントが寄せられています。が、わたしは記事を読んでみて違和感があったので、このようなコメントを残しました。

これ、原文を読む必要あり。彼が言ったのが「偽造品」なのか「模造品」なのかで意味がガラリと変わってくる。そしてこの記事はタイトルで「模造品」といっているが、文中は「偽造品」と書き換えている。
マーは御存知の通り、非常に長い目と細かい視点をもってアリババをここまで導いてきた経営者。その彼が何を見つめているかを知る意味で、そうした細かい言葉遣いは非常に重要。この記事では(もしかしたら)省かれている言葉の中に彼の真意が含まれていることも。
彼が意味深なことを言った時には必ず原文を探して見てきた者としていえるのは、この記事だけで論評するのはアリババという企業を読み間違えちゃいますよ、ということです。
追記)
ここで「模倣品」だろうが「偽造品」だろうが一緒だろ、と言っちゃうような方は読んでも無駄なので、先行ってください。どうぞおかまいなく。

その後、財新網でくだんのジャック・マーの講演全文を確認。やはり、AFPが記事にした(FTやその他英字メディアも同様の記事にしていますが)内容とはかなり違う印象を抱きました。当該部分のみを急ぎ翻訳し、貼り付けておきます。

社会学的に見ると、我われ人類社会には一定の割合で「悪人」がいる。今日、我われのプラットホームの利用者は4億人いるが、そのうち1%が悪人だとすると400万人いることになる。我々にはテクノロジーを使ってそんな悪人たちを探し出す2000人の職員がおり、戦っている。我々は今、人間性と戦っているのだ。我々は被害者だ。だが、我々が戦いを止めたことはない。我々は世界におけるニセモノ叩きの先駆者なのだ。
大規模ブランド企業は通常多くのOEM工場を使っており、中国には世界で最も多いOEM工場が存在する。そんな工場にはルートがなかったが、突然インターネットで商品を売れば良いと気がついた。正規品と模造品は同じ工場で作られているのだろう。そんな彼らの製品は正規品に比べて見劣りしない。同時にさらに魅力的な価格がつけてある。そんな彼らが直面しているのは知的財産権の問題ではなく、新しい商業モデルの問題なのだ。
(中略)我々は去年、警察に協力してわずか3ヶ月の間にニセモノ生産者を300人捕まえ、ニセモノ商品販売拠点を244カ所壊滅させた。これはこれまでになかったことだ。ニセモノ取り締まりを、我々はいかなる企業、いかなる組織、いかなる政府よりもよくやっている。我々は「天猫 Tmall」(アリババ傘下の電子取引サイト)と京東(テンセント傘下の電子取引サイト、アリババのライバル)からオフラインで1000件、10000件の商品を選び、どちらのほうがニセモノが多いか見つけていく。これは競争だ。アリババは知的財産権を保護する。我々は(ニセモノを)買うことも売ることもしない。我々はプラットホームの管理監督員なのだ。我々にはニセモノ取り締まりの技術者がいる。2000人あまりがニセモノを取り締まっている。我々が世界でもトップのニセモノ取り締まり企業であることは間違いない。

オマケですが、冒頭で彼は、「ジョー(蔡崇信アリババグループ副主席)はぼくの通訳みたいだ。あちこちで、『ジャックが言いたかったのはこうこうこれこれという意味なんだ』と説明して回っている。だから、ぼくらの会社ではぼくは戦略と方向性の検討に専念し、ジョーが投資家との意思疎通を担当することになってるんだ」と述べてます。

それにしても、「中国のニセモノ」でぴぴーんと脊髄反射してこういう書き換えが起こるから、アリババが香港の英字紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』を買ったんだろうな、と思うわけです。詳しくはわたしの新刊『中国メディア戦争 ネット・中産階級・巨大企業』でどうぞ。

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